第058話 呆れるのも仕方がないかと
家の権利書にサインを済ませ、その後の話で家の引き取りが7日後と決まった。
何故7日後なのかというと、家の点検と清掃をバオルム商会がしてくれるという事になったからである。
本来なら、これらは家を買う際にお金を払って此方から依頼をするものらしいのだが、余程あの家が売れた事が嬉しかったらしく、サービスという事にしてくれたのである。
ただそのかわり、余程の理由が無い限りはあの家を手放さないという条件を呑む事となったが。
因みにこの余程の理由というのは、どうしてもこの場所、もしくは街から立ち退かなければならない、というような状況の事らしい。
一体それはどんな状況なのだろうか?と一瞬考えたのだが、まぁまずそんな事にならないだろうと思い、すぐに考えるのを止め、その条件を呑んだのである。
家の購入手続きも終わり、玄関先でグラートに見送られながらバオルム商会を後にしたボクは、本日のもう一つの大事な用事を済ませるべく、マリスティア邸へ向かう。
大通りへと戻り、そこから街の北側にある貴族街の中、見覚えのある道を歩いていく事、約15分。
目的地へと辿り着くと、門前から見える庭で掃除をしていたルーリアの後ろ姿を見つけた。
「こんにちはルーリアさん」
呼びかけに反応したルーリアは振り返り、声の主がボクだと気づいて小走りで駆け寄って来た。
「いらっしゃいませ、ユウキ様。どうぞ中へお入りください」
ルーリアはそう言うと門を開き、ボクは敷地内へと招かれた。
拾い庭を通り、玄関前に辿り着いたところでルーリアが振り返る。
「それではすぐにマリスティア様をお呼びして参りますので、この場で少々お待ちください」
そう言い残し、ルーリアは建物内へと入る。
ここで待つという事は、この後すぐに出かけるという事なのだろう。
そう思いながら待つ事数分。
玄関の扉が開かれると、その先には薄い青色のドレスを着たマリスティアだけが立っていた。
「こんにちはユウキ君」
凛々くもあり、それでいて優しげな表情で挨拶をしてくるマリスティアに、ボクも笑顔で挨拶を返しておく。
「ところで、今日はこれからすぐにセレニア商に向かう予定なのですか?」
「ああ、そのつもりだ。今、ルーリアに馬車を用意させているから、もう少しだけ待っていてくれ」
まさか来てすぐに今日のメインイベントであるセレニア商に行く事になるとは思わなかったが、別段それを拒む理由などない。
なのでマリスティアには「分かりました」と答えておいた。
それからすぐ後、ボク達の元へ馬車を操るルーリアが戻って来たのでボクとマリスティアは後部の箱型の個室に乗り込み、ボク達一行はゆっくりとセレニア商へと向かい出発する。
馬車による移動の間、ボクは今日の午前中にバオルム商会に行った事について話をした。
てっきりボクが家を借りる者だと思っていたマリスティアだが、買ったのだと伝えた所、驚きの表情を見せていた。
しかしその後。家の場所についての話をした瞬間、マリスティアは呆れたように溜息を吐いた後、ただ「がんばれよ」と、一言口にするだけだった。
その一言を聞き、きっとボクが決めた事だから何も言うつもりは無いのだろうと思っていると、不意に馬車の揺れが止まり、前方にある窓から御者をしていたルーリアが顔を見せ、到着した事を知らせるのだった。
箱型の部屋の付いた馬車ってなんていうんだろ?
箱馬車?
とりあえず分からないので、そのまま箱型の部屋の付いた馬車という風に書いてます。




