第564話 3人は奇襲する
看板のある分かれ道まで戻ってきたボク達は、そのまま直進して更に奥へと進んで行く。
道はやや左曲がりになっており、この調子でいけば先程見つけた穴の反対側に辿り着けそうだ。
「この匂い、ピッケランがまた居るっぽいっす」
警戒しながら進んでいると、いち早く敵の存在に気づいたクロエが小声で警告する。
転生して獣人になったボクとは違い、生まれた時から獣人だったクロエはそう言った臭いや音にいち早く気付くのだ。
「(ボクはもう少しそういう癖を身に着けないとな)」
そう思いながら臭いに意識を向けると、確かに前方からそれらしい臭いが漂ってきていた。
臭いの元は全部で3つある様な気がするので、多分この先には3匹のピッケランが居るのだろう。
「3匹居ると思うんだけど、合ってるかな?」
念の為クロエに数を確認してみた所、「臭いからして間違いないと思うっすよ」という言葉が返って来た。
「この鉱山がどれくらい奥まであるか分からないし、あまり時間を掛けないようにする為にも一人1匹ずつ倒すのでいい?」
「了解っす」
「頑張ります」
二人の了承が得られたところで早速ピッケランが居る場所へと向かう事に。
すると通路の先でまた左右に曲がる道が見え始め、左の通路には松明の揺らぎと思われる灯りが見えている。
これ以上近づくと気づかれる恐れがあるので、ボク達の持つ松明は、火が付いたまま収納の腕輪の中へと仕舞い込む。
因みにこうすれば次に取り出したときには火が付いたままなのだ。
「足元に気を付けてね」
小声で二人に注意を促し、二人の微かな足音が後ろからついて来ているのを確認しながら二股の分かれ道へと近づいていき、曲がり角からそっと顔を半分出して除くと、数メートル先に3匹のピッケランの背中が見えた。
その3匹の内2匹はやや手前に立っており、残りの1匹は少し奥で屈んでいる。
「まずボクが奥の奴を攻撃するから、二人は手前の2匹を頼む」
クロエとマルクにだけ聞こえるように囁くと、二人がコクリと頷く。
それを見届けたボクは「いくぞ」と小声で二人に伝え、心具を片手に駆けだした。
極力足音を立てない様に気を付けたつもりだったが、如何せん鉱山内では音が響きやすくピッケラン達はすぐこちらの存在に気づき振り向き、威嚇するかのように鳴き声を上げる。
「うるさいぞっと!」
そう言いながらピッケルを振り上げる2匹の間を全力で駆け抜けたボクは、その勢いのまま奥に居たピッケランの横を走り抜けるように一閃する。
その確かな手応えを感じ取ったボクは、残った2匹からのバックアタックを警戒し、剣を構えながら振り返ると、正にそのタイミングでクロエとマルクが生きているピッケランの頭部に剣を突き立て、2匹は地面に倒れて二度と動く事は無くなった。
「(クロエは兎も角、マルクもずいぶん強くなったな)」
出会った頃に比べ、気づけばCランク冒険者並に強くなったマルク。
その成長ぶりに感心しつつ、ボクは動かなくなった3匹のピッケランを収納の腕輪へと取り込むのだった。




