第526話 聞き間違いであって欲しかった
午前中の訓練を終えた後お風呂に入ったボクは、もらえた休憩時間中ずっと広間のソファで死体のようにピクリとも動かなくなっていた。
そんなボクに、ナツキからこの後の予定が告げられる。
「それじゃあ休憩後はちょっと狩りに行くぞ」
狩りであれば訓練よりは楽。
そのはずなのに、何故か嫌な予感しかしない。
「因みに、何を?」
聞いたところで、もしかしたら名前も知らない対象であり、それがかなりの強敵なのかもしれない。
それでも一応聞くだけ聞いてみたところ…
「バジリスクだ」
聞いた事がある名前だ。
主に物語やゲームで、だが。
今の所この世界に存在しているかどうかは分からない。
噂すら聞いた事がないのだから。
やはり強いのだろうか?
今の所通常の魔物で一番強かったのはフロストドラゴンなのだが、アレよりも強いのだろうか?
「今朝うちの子達が北の山で見つけたらしくてな、丁度いい気分転換になりそうだから俺とお前で倒しに行こうと思ったんだよ」
「今朝見つけて来たって、どんだけ行動範囲が広いんですか貴方の子供達は。北の山って言うけど、かなりの離れてますよ?」
普通、北の山と聞けば見える範囲にあるように思えるが、実際には王都の北側は草原と小さな森、そして小高い丘くらいしか見える範囲にはない。
という事はレイかクミ、もしくは別のレイの子供達にでも連れて行ってもらうのだろうか?
そう思っていると、予想外な言葉が返って来た
「まぁ若干遠いけど、全力で走れば問題ない」
「え?」
聞き間違えだろうか?
否、聞き間違えであって欲しい。
そう思いながらもう一回言ってもらった結果、やはり聞き間違いではなかった。
念の為、帰りはどうするのかも聞いてみた所、当然走って帰るとの事だった。
ボクは今日中に帰って来られるのだろうか?
もしそれが無理だとしても、せめて無事に戻りたい。
「ほら、そろそろ休憩は終わりにして出発するぞ」
まだ十分に休憩できていないが、容赦なく終了を告げられたボクは、早くしないと今日中に戻れないぞと脅されながらも立ち上がり、ナツキと二人で王都の外へと向かった。
門前で街を出る手続きを済ませ、その後は北を目指して全力で走り始める。
時折、討伐依頼を受けていると思われる冒険者達がボク達に気づいてギョッとしていたが、そんな事を気にしている余裕は無い。
何せボクも隣を平然とした顔で後ろ向きに走りながら話しかけてくるナツキにギョッとしているのだから…
ホントこの人の身体能力ってどうなっているのだろうか?




