第500話 早々に立ち去るべき時
「すごいわ…」
部屋の隅に立てかけられた姿見に移った自身を見たローレライ王妃は、頬をペタペタと触りながら驚きの声をあげていた。
そして姿見の前で何度か身を翻した後、若返った自身の姿を見て満足した様子のローレライ王妃がクミの傍へと戻ってきた。
「クミさん。此度は本当にありがとうございました。今回の秘密については必ず守り抜くと誓います」
そう言ってローレライ王妃は頭を下げた。
本来、王族が頭を下げるような事などあり得ないのだが、今回はそれ程感謝していたという事だろう。
「ご配慮ありがとうございます。襲ってくる人が居ない事を願っていますよ。まぁ、もし来ても全力で抵抗させてもらいますけどね。ふふふ」
笑っているのに恐怖を感じるのは、きっとそれがクミなりの警告という事だろう。
それを見聞きしたローレライ王妃とシャルロットの表情は引きつっている。
これは早いところ話題を変えるべきだろう。
「そ、それで、今回の襲撃者について何か手がかりとか心当たりとかはあるのですか?」
「え?ええ。一応思い当たる事はあるので、今はそちらを調べさせているところです」
流石というかなんというか、既に目星をつけて動いているようだ。
問題はその人物が黒か白かだが…
「……うっ…」
突然聞こえて来たその声に、全員の視線が集まる。
どうやらヘルムート王が意識を取り戻したようだ。
「お父様!」
ゆっくりと起き上がろうとしていたヘルムート王に、容赦無くシャルロットが飛び込んでいく。
それを咄嗟に受け止めたヘルムート王は、再びベットへと倒れこんでしまう。
いくら解呪と治療が終わったとはいえ、病み上がりの人物にダイブをするのはダメだろ…
そんな事を思いながらも、ボクはヘルムート王の傍へと近づく。
「お加減は如何ですか?」
「ユウキ、殿か…。其方達がワシを救ってくれたのか。ありがとう。心より感謝す…る!?」
お礼の言葉を口にするヘルムート王だったが、言い切る前に若返ったローレライ王妃の姿に気づき、驚きのあまりに言葉尻が強くなった。
そんなヘルムート王の視線の先では、ローレライ王妃は微笑みを浮かべている。
「ワシはまだ夢を見ているのか?ローレライの姿が若返って見えるぞ」
「夢じゃありませんよ。ほら、アナタも自分の姿を見てごらんなさい」
そう言って部屋の隅にある姿見を示し、ヘルムート王はそれに従うかのように姿見へと視線を向け、更に驚く。
「なっ!?、どういう、ことなのだ…それに…」
「詳しい話は後で聞かせるわ。それより、そろそろ別の効果も出てきてるようですね。皆さん、すみませんが今夜の件の話はまた後日とさせてください」
どうやら次の副作用が始まった事をローレライ王妃が察したのだろう。
そしてそれはつまるところ、自分にも効果が出始めているという事だ。
さっさとボク達は退散すべきだろう。
「わかりました。そろそろ家に戻る事にします。外で待機している方達には、ボクの方からもう大丈夫だと伝えておきます」
「ありがとうございます。シャル。貴方も部屋に戻って眠りなさい」
「そうですね。そうします」
ヘルムート王が無事だった事にホッとして眠気がやって来たのか、眠たそうな様子のシャルロットはローレライ王妃のいう事に従い、ボク達と共に部屋を出た。
部屋を出るとそこには医術士とクラディウスの二人が立っており、ヘルムート王はもう大丈夫である事と今夜はもう眠るという事を伝え、ボク達と共にその場を去るのだった。




