第463話 ロゼ
「…どちら様?」
入室してきたフェンリルの姿に驚いたボクは、そんな言葉を零す。
見た目は毛並みの色以外が少し前まで一緒に居たのと同じなので、そこに居るのがフェンリルであるのは間違いない。
一応鑑定スキルを発動させてみるが…やはり情報は見れない。
これでも鑑定レベルは高い方だと思うのだが、それでも情報が見れないという事は普通の狼などではない事が確定だ。
つまり、目の前に居るのはフェンリルで間違いないという事になる。
だがそうするとなれば、毛並みが変わっているのはどういう事だ?
まさか別のフェンリルか?
『地上には我しかおらんよ』
地上には、という言葉が引っかかるが、そこはあえてスルーだ。
「そ、そっか。ところで、色が変わっているみたいだけど、なんで?」
『予想外にも、そこのドラゴンの娘のおかげであの石が破壊され、我に掛かっていた呪縛が解けた結果だ』
「呪縛?っていうか、破壊できたの!?」
その予想外な結果報告を聞いたボクは大きく驚きの声を上げる。
流石に破壊困難な石とは言えど、あのブラックホール擬きの魔法には耐えれなかったらしい。
正直、あの時の魔法でも無理なんだろうと思っていたが、まさかのまさかである。
『我も流石にあの魔法には驚いたぞ。一応お主達の力は鑑定した上で無理だと言ったのだが、まさかお主の持つ[心具]とやらの能力をそこのドラゴンの娘が使えるとは思いもしなかった。確かにあれならば我の本来の力を上回る事も可能になるというものだ。フハハハハッ』
えらくご機嫌な様子で笑うフェンリル。
そして笑い終えるなり優しい眼差しをこちらに向け「感謝する」と口にし頭を垂れた。
「呪縛から解放されたって事は、もうボク達は襲われる事は無いって事ですよね?」
『あたりまえだ。そもそも、呪縛さえなければ我は人を襲ったりはせぬ。とは言え、もしあのままタイムリミットが来ていたら、我も呪縛の効果を抑えきれなくなっていただろうがな』
つまり、あの時フェンリルがボク達にくれた5日という時間は、そういう意味だったという事だ。
しかし、それならそうと初めから言ってくれればよかったのではなかろうか?
『なぁに、その方がお主達も必死になると思ったが故、あのように言ったまでだ』
「そうでしたか…(というか、ナチュラルに思考回路を読むのをそろそろやめてもらえませんかね?)」
フンっと鼻を鳴らしたフェンリルが再び視線を外す。
多分思考回路を読むのをやめないということだろう。
「で?この後はどうするつもりで?」
もうボク達の傍にいる必要はなくなったのならば、どこかへと行く、もしくは居た場所に戻るのだろうと思いながらも聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
『縄張りに戻っても良いが、それよりもお主達の傍の方が何かと面白い事がありそうだし、暫くは共に行動させてもらうとしよう』
ボク達に伺う事もなく、それは既に決定事項とばかりに答えるフェンリル。
ここのところ一緒に居て何か不都合があったわけでもないので別に良いのだが、せめて聞いて欲しいところだ。
そんな事を思いながらも、一緒に行動するにあたって一つ聞いておきたい事が出来たボクはフェンリルに尋ねた。
「もし何かあったときは、ボク達に協力してもらえると思っても良いのかな?」
『世話になる身だ。普段の生活でも必要とあらば手伝うぞ』
当然とばかりに答えるフェンリル。
その言葉はつまり、ボク達のパーティの新たな戦力として加わってくれるという事なのだろう。
これで討伐依頼も楽になるかも!なんて思っていると、フェンリルが『それでなのだが…』と言葉を続けた。
『共に生活する上で我にも名が必要だと思うのだが、何か良い名はないか?』
唐突に要求された名付けに、ボク達の話し合いが始まる。
そして数分後、フェンリルの名は[ロゼ]で決定する。
名前の提案者はルーリアであり、何でもフェンリルから微かにロゼッタという花の香りがしていた事から思いついたとか。
因みにフェンリルは雌であり、本人もその名が気に入った事により決定となった。
こうして名前が決定し、話に区切りがついたところでボクは改めて皆にボクが気を失った後どうやって助かったのかと聞いてみたところ、意識を失ってクミによって作り出されたブラックホールに吸い込まれていくところをロゼが助けてくれたそうだ。
「そうだったのか、ロゼ、助けてくれてありがとう」
そうお礼の言葉を伝えると、ロゼは「気にするな」と言いその場に伏せてくつろぎ始めたのだった。




