第425話 いないなら増やせばいい
魔力消費を抑えてくれる[心具]の杖のおかげで疲れる事無く作業が出来るボクは、家のサイズをどちらも解体作業場と同じくらいの大きさで造った。
これだけ広ければ、仕切りをするだけでここにいる全員が住むことができるだろう。
作業を終えて振り返ると、そこには喜ぶ住人たちの表情が並んでいたが、視界の端には何か考えている様子のアミルの姿が見えた。
「アミル様?何を考えているの?」
アミルの様子に気づいたルーリアがボクよりも先に声をかけるが、アミルは「ううん。なんでもないわ」と答える。
が、そんな返事をされれば余計に気になるというものだ。
それに…
「言葉と表情が一致してないっすよ?」
クロエが口にするように、アミルの表情はまだ悩んでいるように見えるのだ。
「とりあえず言えないことじゃないなら言ってみなよ。協力できることならするしさ?」
そんなボクの言葉に、ルーリア達も同意とばかりに頷き、それを見たアミルはありがとうと笑みを浮かべ「えっとね」と言葉を続けた。
「もしこんな風に土魔法で家を作れる人が他にも沢山居たら、今回の地震で家を失った人達が住める場所をすぐに作る事が出来るのにって思ってたの」
「ん~、ある程度土魔法が得意であれば出来ると思うんだけどなぁ。まぁ魔力はそれなりにいるから、普通の人だと数回に分けて造る必要があるだろうけど」
魔法とはイメージと魔力量が重要であり、それさえクリアすれば誰でも同じように使う事が出来るはずだ。
ということはつまり、家の壁の1面を造れる程の魔力量があれば、時間をかけるだけで家の形をしたモノが造ることが出来る。
なんなら魔力が回復できるマジックポーションを用意しておけば、家の1件くらいはすぐに造れるのではないだろうか?
ただ、その代償としてお腹が水分で一杯になってしまうだろうが…
「だったら、ギルドで土魔法を使える人を集めて皆にも教えればいいんじゃない?後はギルドで簡易版の家の作成依頼を受けるようにすればいいんじゃない?」
ボクの話を聞いてクミがそんな提案をするのだが、その提案にはそれなりの依頼料が必要になるのでは?という問題がついてくる。
それをクミに伝えると…
「そこはまぁ、土魔法が使える人に奉仕活動として協力してってねってお願いするしかないわね。もしくはまたギルドランクアップへの貢献度を利用するとか?」
「街の復興に協力、ギルドの評判…うん、それも有りね。ちょっと私、ギルドマスターに相談してきます」
ボク達の提案をそのまま使うのかはわからないが、自分の中で何らかの考えが纏まったようで、アミルは冒険者ギルドへと向かい走っていき、クロエにアミルの事をお願いしその後を追ってもらった。
「それはそうとローさん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
「ん?答えることが出来るなら聞くぜ?」
「なぁに、いつもやってもらってる事と同じだよ。魔物の解体を頼みたいんだ。但し、今回はちょっとばかり量を多めにね」
「こうやって俺達の願いを聞いてくれたんだ、そんな事位いくらでもやってやるよ!なぁお前たち!」
「「「「おう!」」」」
簡易版とはいえ、雨風を凌げるための場所が出来たことがよほど嬉しかったのか、いつも以上に気合の入った声でローに呼応する住人達。
そこまでやる気を出してくれるというなら、後でこっそりと追加で2件程造っておくとしよう。
そんな事を考えながら、ボクは収納の腕輪の中に残っていたオーク9体を解体作業場の中で取り出し、彼らに「よろしく」とお願いして皆とスラム街を後にした。




