第400話 そんな風に思われているのか?
詰め所からの帰り道、ボク達は街の中央にあるベンチに腰掛けて今後の事について話始めた。
「ボブジンの話が本当だとすれば、ズータルが捕まるまではアミルさんが再び狙われる可能性はあるわけだし、それまでは護衛を付けた方が良いと思う」
「そうね。というより、なんで私なのかしら?その理由がさっぱり分からないわ」
ルーリアを挟んでその向こう側に座るアミルは、右頬に手を当てながら考える素振りを見せる。
昨日もそうだが、やはり思い当たる節は無い様だ。
「…ん~、分からない事をいつまでも考えてても駄目ね!それよりもこれからの事を考えましょう!ってことでユウキさん、それと皆さんにお願いがあるの!」
先ほどまでの本気の困り顔は無くなり、今度は強請るかのような表情で両手を合わせながらボクの方をのぞき込んでくるアミル。
この状況からしてこの後にどんなお願いをされるかなんて、大体の人が予想できる。
そしてその予想通りの言葉をアミルは口にする。
「私の護衛、お願いできないかしら?」
「という事らしいけど、皆はどう思う?」
一応皆の意見も聞いておくべきだと思い尋ねてみると、やはり全員からOKの返事が返ってきた。
知り合いに助けを求められて断る人なんてこの場には居ないはずなのだ。
「とまぁ皆、もちろんボクもですが、アミルさんを見捨てたりはしませんよ。護衛の件お引き受けします」
「ありがとう!じゃあギルドに行って護衛の依頼手続きをしましょう!」
「いえ、その必要はないですよ。これはあくまでもボク達がアミルさんからのお願いを聞くだけですから」
「けどそれだと無償での仕事になってしまいます」
困り顔でそう口にするアミルの様子から、無償では逆にアミルの方が気が引けてしまっているのだろうと感じたボクは、それならばと一思案する。
「それなら一つお願いを聞いてもらえませんか?」
「お願いですか?」
ボクの言葉に何故かアミルの表情に警戒の色が浮かぶ。
もしかして変な事でも要求されると思っているのだろうか?
「アミル様。ユウキ様はあなたが思っているようなお願いはしないと思いますので、そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ」
「え!?そ、そうね!ごめんなさい」
ルーリアの助言に顔を赤らめるアミル。
ボクってそんな要求をするような人だと思われているのだろうか…ちょっとショックだ。
悲しさを覚えながらも、ボクは場をやり直すためにとワザとらしく咳をする。
「お願いしたいのは、ボク達が護衛を受けている間、全員分の食事の準備をお願いしたいってことですよ。食材についてはもちろんこちらで用意はします。じゃないと、依頼完了までの時間が掛かりすぎた時に誰かさんの食費だけで依頼料よりも高くつく可能性もありますしね」
チラリとよく食べる狼娘に視線を向けると丁度目が合うのだが、ソッと視線を逸らしていた。
その行為はつまり、自覚があるって事だ。
同時に、自重するつもりもないという意思表示だとボクには思えた。
「それくらいの事で良いのなら是非お願いしたいけど…本当にそんな事だけで良いのかしら?」
「ええ。ただ、さっきも言った通り我が家にはよく食べる人物が居るので、その分作るのは苦労すると思いますがね」
「確かにそれはそれで大変そうですが。頑張らせてもらいますので護衛の件、お願いしても良いでしょうか?」
「任せてください」
ボクとアミルはベンチから立ち上がり、契約成立とばかりに握手を交わすのだった。
その夜、早速料理を作ってもらう事になったのだが、全く自重する様子が無かったクロエの姿に、ボクとルーリアはベットの上でクロエを責め続け、明日からは多少なりとも自重するようにと約束させるのだった。
どんな責めを受けたかは、3人にしか分からない。




