第352話 無駄だと知らずに頑張るボーロン伯爵さん
明らかに苛立った様子のボーロン伯爵を先頭に、ディランド、ボク達と後に続気ながら、庭にある例の小屋へと向かう。
「(多分今頃どうやってこの状況から逃れるか、必死に考えてるんだろうなぁ)」
ボーロン伯爵の背中を眺めながらそんな事を思ったボクは、チラリとディランドさんの横顔を覗き込んで見ると、相変わらず笑顔のままだった。
あからさまに苛立った様子が伺える伯爵の背を前に、何故そんな笑顔なのだろうか??
流石にあの様子に気づいて居ないとは思えないのだが…
「ディランドさん、ボーロン伯爵はかなり苛立ってると感じですし、何か仕掛けてくるんじゃないでしょうか?」
ディランドに近づき、耳元に向かって小声でそう話しかけると、ディランドは笑顔のまま「だろうね」と答えた。
ちゃんと分かっているようだし、これ以上ボクが何かを言う必要も考える必要も無いだろう。
前を歩く二人の背中を見ながら歩き続け、ボク達は目的の小屋へとやって来た。
「中を調べさせてもらうぞ」
そう言ってディランドは扉へと手を伸ばした。
カギは既にボク達が侵入した際に壊していた為、扉はアッサリと開き、その先にはボクが脱出の際に塞いでおいた地下への入り口があった。
ディランドの背後から覗き込んでみると、土魔法で作られた蓋には小さな傷がいくつも付いているのが見えた。
どうやら既に中に入ろうと試みたようだ。
「おい、あの明らかに怪しい床はなんだ?」
ディランドには事前に入り口を塞いできたことを説明したはずだが、何故か床の事について質問する。
するとその瞬間、ボーロン伯爵は先程までとは違って嬉しそうな表情を浮かべた。
「いやぁ実は昨夜、数名の賊に侵入されまして、そ奴らが侵入した経路というのが、この小屋の下に作られた通路だったのです。ここを辿れば何か足取りがつかめるかと思って調べたのですが、残念ながら通路の途中が崩れ落ちていた為、それ以上は調べれなくなり、調査を諦めて穴をふさいだというわけです。流石に大きな穴を開けっ放しにするのも危ないですから。はっはっは」
まくし立てるように説明するボーロン伯爵。
確かに何も調べなければ誤魔化せた可能性もあったかもしれないが、残念ながらボク達は事実を知っているので通用しない。
それを知らないボーロン伯爵はドヤ顔を向けてくる。
「なるほど。ところでその床の部分だが、何やらキズが沢山ついているようだが?」
「それはちょっとした耐久力を調べた後でございます。もし万が一、この上に物を置いた時に地面が崩れ落ちたりしたら大変ですので」
言い分は確かに筋が通っている。
が、やはりそれが嘘だと分かっているボクは、ディランドに念のために調べてみるのはどうだろうかと助言しようかとしたのだが、そのタイミングでボクの左腕がチョンチョンと引っ張られた。
「ユウキさん、昨夜私達が隠れてた茂みに、誰かいるみたいっす」
クロエのその言葉に、ボクは視線だけを向けながら匂い集中してみる。
確かに茂みの方から3つの人の匂いがする。
ボーロン伯爵の私兵だろうか?
今は襲ってくる様子はないし、とりあえず今は警戒だけしておくとしよう。




