第324話 否定はしない
クロエは腕にしがみついたままのマルクを連れたままボクの元へと近づいてきた。
「聞いてくださいっすユウキさん!マルクったら酷いすよ?」
先程の二人の会話は聞こえていたので状況は分かっているが、一応クロエの言い分を聞く事にする。
「鍋がいい具合にで来たかなと思って味見してみたんすけど、ちょっと薄いと思ったから醤油を足そうかなって思ったら、マルクが私には料理の才能がないんだから止めた方がいい、ルーリアが来るのを待った方がいい、なんて言うっすよ!!」
「マルクが正しいと思うんだけど?」
クロエが言い終えるなり、ボクは考えることなくそう答えると、クロエは「酷いっす!」と言いながら膝から崩れ落ち、両手を地面についた。
以前は材料を切るところしか任せた事がないので、もしかしたら味付けの方くらいはまともな可能性もあるかもしれないが、多分期待はしない方がいいと思える。
だからこそボクはマルクの行動は正解だと思えた。
因みにそのマルクだが、クロエが話し始めたところでクロエの腕から離れていた。
「クロエさん、元気出して。誰だって得意不得意があるんだから、あまり気にしちゃだめだよ」
クロエの肩に手を置いて励ますクミだが、それって…
「励ましてるんでしょうっすけど、クミさんも私が料理音痴って事を否定してくれないんすね」
クロエの言う通り、クミは励ましてはいるが否定はしていない。
その事実にクロエは涙目になっている。
「クロエ様にその気があるなら今度料理を教えてあげるわ、だから元気出して。ね?」
「本当っすか?」
「ええ。但し、その時は厳しくいきますからね」
「ルーリアさん、ありがどうっず」
ルーリアの優しさに泣きながらも喜ぶクロエは、ルーリアの感謝しながら抱きつく。
そんな二人のやり取りを、ボク、クミ、マルクの3人は暖かく見守っていた。
それから程なくし、クロエを引きはがしたルーリアと共に豚汁の味見をすると、少し味が薄いと思えたので調えてもらい、もう一度煮たところで豚汁は完成する。
現時刻は10時を少しばかり過ぎたところだ。
ローとの約束の時間までは2時間近くもある。
流石に早すぎるのでは?と思われるかもしれないが、これにはちゃんと訳がある。
「よし、それじゃあ次はうどんを作ろうか!クロエ、途中のこねる作業、手伝ってくれる?」
さすがに生地をこねるくらいなら任せても大丈夫だろう。
切るわけでも味付けするわけでもない。
ただこねるだけ。
失敗する要素はない。
…なんかあまり良くないフラグが立ちそうな気がしながらも、ボクは材料を取り出し、うどんを作り始めるのだった。




