第285話 赤い月の夜に
バチンと火花を弾く焚火を、ボクはボーっと木の棒で突いていた。
今はボクとマルクの二人が見張り役であり、二人の間には特に会話が無い。
別に仲が悪いわけじゃない。
ただ単に特に話題がないだけだ。
ふと視線を空に向けるとそこには赤い満月が辺りを赤で染めるかのように明るく照らしている。
まるでアニメなどで魔族やら魔物が登場するシーンに背景で使われそうな程だ。
そんな光景にボクはボソリと呟く。
「何か凄い不吉だよなぁ」
「そう?寧ろいつもよりも明るくてよく見えるから俺は結構好きなんだけどなぁ」
そう答えたマルクは、後頭部を両手で押さえながら空を見上げている。
この世界に来てからこんな赤い月を見たのは初めてなのだが、マルクのその言いようからは何度か見た事があるようだ。
ボクも元居た世界では何度か赤い月は見た事があるのだが、それでも周囲を赤く照らす程ではない。
あ~赤いな~って思う程度のものだ。
「ボクが居た所の物語とかでさ、よくこういう赤い月の演出があったんだよ。で、そういう演出が出てくる時って基本的に良くない事ばかりが起こるんだよ」
「へ~。けどまぁ、ここら辺じゃそういった事はなんて起こった事が無いから大丈夫だって」
「だと良いんだけど…」
異世界ならではの光景だと割り切ろう。
そう思った矢先、ボクは近づいてくる獣の臭いと人の匂いがある事に気付いた。
多分臭いの位置関係から察するに、人が獣に追われている様子だ。、
「マルク、何かがこちらに近づいて来てるみたいだから見て来る」
「え?う、うんわかった。」
そう言ってボクは土壁の囲いを飛び越え、嗅覚を頼りに方角を定める。
どうやら臭いの元は丁度風上にあるようだが、距離は少し離れているようだ。
獣臭から逃げるように移動する人の匂いが気になり、ボクは全力で走り始め、2分としない内に臭いの元へと駆けつける事ができた。
そこにはドレス姿の少女を抱きかかえ、追いかけて来ているキングボナコンから逃げていた女騎士の姿があった。
少女とは言え、人を抱きかかえながらも逃げ続けている女騎士の身体能力の高さに驚きながらも、ボクは[心具]を具現化して狙いを定めるのだった。