第249話 頭を抱えた狼娘
「おめでとうクロエ様」
翌朝、歩き方に違和感のあるクロエと共に部屋を出ると、そこに立っていたルーリアがそんな事を口にする。
どう見ても完全に待ち伏せていた様子だ。
その証拠に、昨夜までは確実になかったはずのテーブルと椅子がそこにあり、テーブルの上には数冊の本と紅茶が置かれている。
まさか昨夜からここに居たのか?
「あ、ありがとう、って言うべきっすかね?」
ルーリアの言葉に対して反応に困ったのか、クロエは「あははは」と苦笑いを浮かべていた。
「それじゃあ私は皆さんの朝食の準備を始めるから、お二人は中央の部屋で寛いでて」
そう言うとルーリアはテーブルの上に置いてあった本を全て持つと、自室である隣の部屋へと入って行った。
残されたテーブルとイスは、とりあえず収納の腕輪の中へと入れておくとしよう。
多分ルーリアの部屋のだろうし、後で返しておくか。
テーブルセットを片付けた後、クロエと二人で中央の部屋へ向かうと、そこではナツキが一人で寛いでいた。
「おはよう。昨日はお楽しみだったみたいだな」
部屋に入って来たボク達に気付いたナツキは、満面の笑みを浮かべながらそんな言葉を口にする。
その笑みからは、完全にボクとクロエの間で何ががあったのを確信しているかのようだ。
そんなナツキのセリフに、クロエは昨夜の事を思い出したのか顔が真っ赤になってしまっている。
多分ボクの顔もきっと赤くなっているはずだ。
なんせ、顔が熱くなっているのが自分でもわかるから。
「いい反応をしてくれるな二人は。さてと、ユウキ、オレ達もう少ししたらアッチに帰るわ」
「え!?また唐突ですね」
「いやぁ、どうやらオルリアの街に危険が迫っているってモイラ様から連絡があったんだよ」
なるほど、確かにそれなら早く戻らないとまずいだろう。
って、あれ?
「そういえばすごく今更なんだけど、こっちの世界とあっちの世界って時間の進みが違うんじゃなかったっけ?」
「ああ、それなら…」
そう言って始まったナツキの説明を纏めると、本来ならばこちらの世界とナツキ達のいる世界とは時間の流れが違うのだが、ナツキ達がこちらに来ている間は女神モイラと女神ラケシスが休む事無く調整し続けてくれているらしい。
何もそんな事しなくても、帰りは出発した日の翌日に送ればいいのでは?と思い、その事を伝えてみたのだが、どうやら過去に人を送るのは禁止事項にあたるらしく、出来ないそうだ。
アレ?以前に女神ラケシスのミスで過去に行った事があるんだけど、あれって禁止事項だったの?
とりあえずあまり知られない方が良さそうなので、黙っている事にしよう。
一通りの説明を聞き終えると、ずっと静かにしていたクロエが口を開く。
「あの…色々と聞きたい事があるんすけど」
どうやらボクとナツキの会話内容に疑問を持ったらしいので、ボクはクロエに本当の事を話してあげる。
因みに、クロエに本当の事を伝えるかどうかと言うのは昨夜クロエが眠った後、その寝顔を見ながら考えて決めていたのだ。
まだ結婚したわけでは無いが、これから一緒に暮らしていくのはもう決まったので(昨夜の行為後に)話しておこうと。
そんな訳で、ボクやナツキ達の事について話し終えると、クロエは頭を抱えながらその場にふさぎ込んでしまった。
一体どうしたのだろうか?