第205話 明日はちゃんと…
クロエとの試合を一時中断し、ボクはクミから身体強化やり方を教えてもらう事になった。
因みにクロエとしては、ボクが身体強化を使えるようになった状態で戦ってみたいで、ボクの練習を見る事にしたらしい。
「あ~違う違う!もっとこう身体の全てを包み込むような感じよ!」
「…こ、こうか?」
「ダメダメ!それじゃあ左足首から先に魔力が行き渡ってないわ」
クミに言われるようにしているつもりが、何故かうまくいかない。
「…これでどうよ!」
「ダメね!今度は右足の方の魔力が消えてるわ」
それから何度も何度も言われた通りにやってみるが、中々うまくいかない。
それでも尚も特訓は続き、途中で昼食をとったほんの10分程度の休憩以外、ひたすら頑張り続けた結果、漸くボクは身体強化する事に成功した。
「まぁ、まだそれだと冒険者に成り立ての人の方が上手かもしれないわね」
…どんなに下手くそでも、使えた事に変わりはない。
ホッと一息つきながら地面に座り込むと、クミはこれから毎日練習するようにと言い残し、ボクから離れてルーリア達の元へと向かう。
その後姿を見ながら、何か忘れているような気がして思い出そうとしていると、背後から「待ちくたびれたっすよ」と声が聞こえて来た。
振り向くと離れて座っていたクロエが立ち上がり、真っ直ぐ此方へと近づいて来る。
「結構時間かかっすね!でもまぁ、これで漸くユウキの本当の力が見られるっすから、待った甲斐があるってものっすよ。さぁ、続きをやるっすよ!」
「…そういえばそんな事もしてたっけ」
特訓に必死ですっかりと忘れていたクロエとの試合の事を思い出し、ボクは溜息を吐く。
正直もう疲れたのでこのまま家に戻って休みたい。
何よりもお昼に串焼きを2本食べただけなのでお腹もペコペコだ。
ってな訳で、ボクはクロエを説得しにかかる。
「なぁクロエ?待たせてしまって本当に申し訳ないとは思うんだが、試合の続きは明日にしないか?ほら、もう陽も落ち始めてるしさ」
「嫌っす!」
悩む時間すらなく速攻で、しかも満面の笑みで断られてしまった。
だが、此方とて引くつもりはない
「さっきキミは言ってたよね?ボクの本当の力が見られるって」
「言ったっすね」
「お腹もすいて、更に特訓で疲れている状態じゃあ万全の状態とは言えないんじゃないかな?」
「た、確かにそうっすけど…」
「だったらほら、今日はもう休んで、明日こそ万全な状態で、ね?」
「そう言ってまた私から逃げるんじゃ…」
前科があるだけに、また試合をすっぽかされるかもと疑われているようだ。
ボク自身、身体強化を使った状態でどれくらい強く慣れるのか楽しみになったので、そんなもつもりない。
その事を伝えようとした瞬間、ボクの前にクミとルーリア、そしてマルクの3人が立ちふさがる。
「それなら大丈夫よ。明日は私達が責任をもってクロエさんの元に連れて行くから!」
クミのその言葉に、クロエは少し悩む様子を見せ、続いて渋々といった感じに「分かったっす」と答えた。
その後、ボク以外のメンバーだけで明日の待ち合わせ場所や時間について話し合い始まる。
そんな3人の様子を見ながら、ボクは明日の試合には率先して臨むようにしようと心に誓うのだった。




