表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/604

第199話 お願いを受けま…


 店の内外にざわめきが広がる中、ボルズとその下半身(息子)の冥福をひっそりと祈っていると、その騒ぎを起こしていた片割れのクロエが、こちらに真っ直ぐ向かって来た。

 クロエのその視線は、明らかにボク達、というよりもボクを捉えているようだ。


 すぐさま視線を逸らすのだが、それでもクロエの足音は真っ直ぐ此方に近づいており、ボクのすぐ後ろで足音が止まった。


「あれだけ他よりも強い視線を送っておきながら、今更視線を外しても遅いっすよ」


「ですよね」


 完全に関わり合いになってしまったと諦めたボクは、そう言いながら空になっているコップをテーブルに置き、クロエの方へと再び向き直った。

 改めて見ると、クロエは可愛らしい顔をしており、黒い毛並みの耳と尻尾が綺麗だ。


「(って見惚れている場合じゃなかった)ボクはユウキ。貴方の方が吹き飛ばされた男よりも強そうに見えたから、つい見てしまっていただけだよ」


 まさか鑑定していました。なんていう訳にもいかず、とりあえずそれっぽく言い訳をしてみるが、クロエは疑いの眼差しを向けてきている。

 そんなクロエに対し、ボクはニコリと笑顔を向け続けた。


「そんな感じじゃなかったように思ったっすけど…はぁ、まぁいいっす。ああ、私の名前はクロエって言うっす。こう見えてもBランクの冒険者っす!」


 だまし切れてはいない様子だが、何も聞いてくる様子もなくドヤ顔で自己紹介をするクロエ。

 とりあえず詮索される様子もない事に内心ホッとしていると…


「それよりもアンタ…さっきの男よりも強そうっすね。一度私と手合わせとかどうっす「お断りします」…か?」


 クロエが言い切るよりも先に、ボクはその話を断る。

 いきなり手合わせをとか、この子は一体何を言っているのだろうか?

 

「もしかしてバトルマニアなタイプかしら」


 クミのそんな呟きが聞こえ、ボクは内心で密かに笑いながら「確かに」と思う。


「そこの子、違うっすからね?私はただこの(ユウキ)が強そうだと思い、ソレを確かめたくて言ってるだけっすから!」


 クミの呟きは当然クロエにも聞こえており、クロエはクミに反論らしき言葉を発するのだが…まったく否定出来ていないと思う。

 ボクと同じ事を思ったのか、ルーリアとマルクとクミの3人の視線は、アホの子を見るかのようだ。

 そんな中、バドソンだけは我関せずと言わんばかりに他所を向き、いつの間に注文したのかエールをグビグビと飲んでいた。


「なんかすごく馬鹿にされてる気がするっす」


「いや、気のせいじゃないだろ。さて、それじゃあそういう事でボク達は食事も終わったのでそろそろ店を出る事にしますので、じゃあ!」


 シュタっと片手をあげて席を立つと、他の皆も立ち上がる。


「待つっす!待って欲しいっす!一度だけ!一度だけで良いから手合わせをして欲しいっすよ!」


 ボクの前に立ちふさがり、両手を合わせながら祈る様にお願いしてくるクロエ。

 どうしてそこまでしてボクに頼むのだろうか?


 いや、そんな事はどうでも良い。

 どうにかこの状況から逃げるには…

 

「それじゃあ、明日の朝、北門を出たところで待っててくれないか?」


「おお!私のお願いを聞いてくれるんすね!分かったっす!じゃあ明日、必ず行くっすから!」


 そう言うと、クロエは笑顔で店から立ち去っていくのだった。

 その後姿を見送っていると、後ろから服がチョンチョンと引っ張られた。

 振り向くとそこにはクミが居た。


「ねぇ、あんなお願い受けてよかったの?」


「え?何が?」


「いや、何がって、さっき明日の朝北門を出たところで待っててくれ…って…あ、もしかして…」


 どうやらクミは気づいたらしく、ボクはニヤリと口端を上げる。

 ソレをみたクミは、溜息を吐きながら「酷い人」と呟くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ