第174話 無言の圧力に負けて
夕食を食べ終えたボク達は、それぞれが自室へと戻り、自由な時間を過ごす事でその日を終える。
と言っても、これと言って別段する事なんて何もないので、適当に布団に転がってのんびりとした時間を過ごしている内に眠りに就き、そのままグッスリと朝まで眠り続けてしまっていた。
翌朝目が覚めたボクは、そんなにも眠り続けていた事にビックリした。
食事前にも睡眠をとっていたというのに、よくもまぁこんなにも長く眠れたものだ。
確か食事を終えて部屋に戻って来たのは、まだ陽も落ちてすぐ位だったはず。
という事は大体19時位だったはず。
それで今の時間は?と思いながら 時計の方を見てみると、時計の針は8時を少し過ぎた所を指していた。
どうやらボクは12時間以上も寝ていたらしい。
だがそのおかげか目覚めはスッキリしており、今日も頑張ろうという気になれる。
その後部屋を出たボクはキッチンでルーリアとクミの姿を見つけ、朝食を頼む。
それから少しして、キッチンにマルクがやって来た。
皆揃っての朝食を摂り、今日も皆で依頼でも受けようかという事になり、ボク達は一緒に家を出た。
「スライム討伐の依頼、お願いしますね」
冒険者ギルドに入ると、受付に座るアミルがボク達に向けておいでおいでと手を振っているのが見え、そこへと向かうと、アミルは突然そんな事を言い出した。
だがボクはそんな危険な依頼を受けるつもりはない。
「ごめんなさい。その依頼を受ける気は「お願いしますね」」
にこやかな笑顔でボクの言葉遮ってきたアミルと無言で見つけ合い、数秒程が経過した後にアミルは再び口を開いた。
「安心してください。もうすでに依頼の受理は済ませて有りますので。(ギルドマスター権限で)」
なんだか最後の部分だけ小声で喋っていたが、この身体になった事で聴力が良くなっている為、ソレはしっかりと聞こえていた。
「なにも安心出来る事はありませんよね?っていうか、なんでそんな権限を使ってまで…」
ジト目で何勝手な事をしてくれてるんだと訴えながら話しかけると、アミルは右腕の肘を机に置き、頬に手を当て、笑顔のまま答えた。
「だって昨日、ユウキさんってば私がこの依頼を受けてってお願いする前に帰っちゃったじゃない?だけどまぁ、真面目なユウキさんならきっとこの依頼は受けてくれるはずだし、それに今日もちゃんと冒険者ギルドに来てくれるはずだって思ってたから、ギルドマスターにお願いして先に依頼の受理をしておいたってわけ」
そう言い終えたアミルは笑顔のままポカンと口を開けているボクを見つめる。
ボクの思い込みかもしれないが、アミルのその笑顔からは、まさかここまでしてあげたのに断ったりはしないわよね?と無言の圧力をかけられているような気がする。
これはとても断るに断れないと思えたボクは、ルーリア達にこの依頼について来てくれるかと聞いてみると、3人共が勿論と答えてくれた。
しかし、戦闘能力の低いマルクは流石に危険だと判断したボクは、折角ついて来てくれると答えてくれたマルクには申し訳ないが、家での留守番を頼み、アミルにこの依頼にはボク、ルーリア、クミの3人で挑むと伝えた。
それから1時間後、クラド北西の森の中にある大きな池の傍へとやって来たボク達は、そこに大量のスライムの姿を見つけた。
その数は、ざっと30匹以上はいるだろう。
しかもそれらは一か所に固まっているわけでは無く、所々に数匹ずつ固まっている。
全部が纏まってくれていれば一気に魔法で、と言うのも考えたが、これだけ別れられていると先にボクの魔力の方が付きそうなので、ここはやはり、冒険者ギルドを出発前にアミルから受け取っていた小さな魔石を利用して倒すという方法を取る事にし、ボク達はお互いをサポートしながらスライム討伐を行い始めた。