第167話 満足して忘れているのかも?
夜になり、ナツキ家の前に設置された会場にて、村人も参加という大人数でのバーベキューが始まった。
子供達は肉を焼いているメイドさん達の傍に陣取り、大人たちはテーブルに座ってお酒を飲み始めている。
参加者の誰もが笑顔を浮かべ、あちこちから楽し気な話題が聞こえてくる。
「ユウキ様、これ取っても美味しいよ!」
そう言って山盛りのお肉を乗せた皿を運んで来たルーリアの瞳は、凄くキラキラしているように見える。
その大量のお肉が何の肉なのか判らないが、確かに美味そうなので一切れ食べてみる事に。
「はい、どうぞ」
ルーリアに”あーん”をしてもらい、一押しのお肉を口に含んだ瞬間、ボクは目を大きく見開いた。
「うまっ!何これ!?うまっ!」
たった一噛みで口内に広がったその肉汁と、その肉自体の味の良さにボクは声を荒らげる。
その美味さは、これほど美味い肉があったのかと感動して涙が出そうな程だ。
この肉を食べる前までは収納の腕輪の中に常備しているクラドの街で買った串焼きが最高レベルだと思っていたのだが、この肉を食べた瞬間にその考えはフッと消え去った。
「この肉、味は鶏肉っぽいけど、もしかして?」
「ええ。私達が仕留めたロックファルコンのお肉らしいわ」
「やっぱり…しかしコレ、本当に美味いな」
これまでに味わったことのない美味さに、ボクは次々とロックファルコンの肉を口へと運び始める。
皿の上から次々と肉が消えていき、その様を目にしたルーリアは慌てて箸を動かし始めた。
その結果、お皿にあったはずの山盛りのお肉はあっという間に姿を消す事となるのだが、まだ物足りないと感じ、再びルーリアにお肉の確保を頼んだのだが、次にルーリアがもって帰ってきたお皿には、先程とは違いカルビらしき肉が山盛りになっていた。
ルーリアの説明によると、この肉はナツキさんのオススメらしく、問答無用でお皿に盛られたとの事。
「まぁ、ナツキさんが薦めるくらいだから美味しいんだろう」
どれどれと言いながら、お皿から一枚のお肉を取り口へと運んだ次の瞬間、ボクは再び目を見開いた。
「うーまーいー!!」
まるで某料理漫画の如く、口から光が出そうな感じに叫ぶボクの声は辺りへと響き渡り、参加していた村人達は何事かと驚くが、すぐにそれは笑い声へと変わっていた。
そんなこんなでバーベキューは続き、2時間程経った頃、ついに参加者の誰もが箸を置きバーベキューは終了し、全員で片付けをした後、解散となる。
帰路へとつくその誰もが笑顔を浮かべており、幸せそうだったのがとても印象的に思えた。
もちろんボクとルーリアも、満腹感とあの衝撃的な美味さと出会えた事に、幸せを感じつつ笑顔でナツキさんの家の客間へと向かっていた。
そしてバーベキューの事を話題に盛り上がり、話疲れて来たところでボク達は一緒のベットでくっつきながら眠り始めるのだが、そこでボクはふと思い出す。
「(そういえばルーリアが夜は覚えていなさいとか言ってたような…まぁ、いっか)」
多分お腹いっぱいになるまで美味しい思いをしていたので忘れているのだろうと予想し、ボクは静かに目を閉じ、眠りに就いた。