第143話 二人の差
旅館に到着するなり、ボクはナツキさんに、ルーリアはナツキさんの奥さん一同に連れられ、別々の部屋で衣装合わせを始めていた。
今回着る衣装はすべてナツキさん達が用意してくれていたものであり、何も用意する事が出来なかったボク達にとってはとても有難い事だった。
しかし、現在ボクはその用意されていた服を手にし、頭の中は”?”で一杯になっていた。
「あの、ナツキさん?今夜は祝い事があるんですよね?」
「ああ、そうだが?」
何かボクは勘違いをして居るのかもしれないと思い、確認すべく質問を投げかけるが、ナツキさんはソレに今更何を言っているんだ?と言わんばかりの様子で淡々と答える。
だがそんな事でボクの頭の中の”?”は消えたりはしない。
そこで今度は少し質問の内容を変えてみる事に。
「その祝い事にボク達は呼ばれたと認識していたんですが、間違ってます?」
「いや、合ってるぞ?」
やはりナツキさんは淡々と答える。
しかも返って来た内容はボクの認識が間違っていないというものである。
そのおかげで、余計にボクはコレの意味が分からなくなって来た。
そこで今度は直球な質問を投げかける事にした。
「じゃあなんで用意されている衣装が”胸元に大きなポケットの付いたツナギ”なんですか?」
「必用だから?」
……?
ナツキさんの言っている意味を全く理解することが出来ない。
必要だから?この”胸元に大きなポケットの付いたツナギ”が?
「って、いや意味が分かりませんから!祝い事ですよね!?普通こういう時ってスーツ系かもう少しビシっとした服装をするもんでしょ!?」
至極当然だと思っている事を言うと、ナツキさんはまぁまぁまぁとボクを宥めようとする。
「今はまだ教える事は出来ないけど、ちゃんと後でその服を着る意味が分かるから、今は何も言わずにソレを着ていてくれ」
両肩に手を置かれ、そう言われたボクは数秒程悩んだ後、仕方なくその時が来るのを待つ事にし、ボクは黙って用意されていたそのツナギへと着替え始めた。
流石に着替えに手間取るような事も無く、すぐに着替え終わったボクは、ナツキさんと共にロビーへと移動し、そこにあるテーブルに座り、従業員が用意してくれた紅茶を頂きながら、ルーリア達が戻ってくるのを待ち続けた。
それから30分後、4杯目の紅茶のお替りを呑み終えたタイミングで、ナツキさんの奥さん一同が姿を見せる。
「あれ?ルーリアちゃんは?」
ナツキさんがそう尋ねると、奥さん達は顔を見合わせ、左右に別れる。
するとその向こう側に、淡いブルーのワンピースを着たルーリアが、恥じらうように立っていた。
ボクがツナギ姿なのに対し、どうやらルーリアはちゃんとした衣装が用意されていたようだ。
ちょっと羨ましく思えるが、とりあえず今はルーリアの姿を褒める事を優先し、少しでもこの気持ちを紛らわすとしよう。