左手に彼岸花
法人からの帰り道
秋の訪れにしては久々にこの日は暑かった
太陽の光がアスファルトに反射する
電柱の近くに一輪の彼岸花が落ちていた
惹き付けられるように真っ赤に染まっていた
何かを思い出しそうになり家路を急いだ
アパートの階段をかけ上がる
ドアをバタンッと閉め、もたれ掛かる
心臓がドキドキと音をたて身体全体を支配していく
動悸がおさまり
おもったるく身体を起こし
ネクタイを外してズボンからシャツを出した
そのまま部屋の隅にある仏壇の前に手を合わせた
飾っている写真には優しそうに微笑む彼女がうつっていた
彼女が亡くなって2年がたつ
身体がどうもおもったるい
季節の変わり目だからだろうか
不意に一輪の彼岸花を思い出した
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レコードをレコーダーにおき
パッチワークのソファに座る
ノック、すると小さな女の子が入ってきた
『おじいちゃんこれプレゼント』
小さな手に収まりきらないリボンの付いた箱は
シワシワになっている両手に収まった
『ありがとう』
シワシワな手で柔らかい髪の毛を撫でた
窓に走っていき嬉しそうに言った
『わぁー 真っ赤なお花がいっぱいだよ!』
外の庭には一面真っ赤に広がる彼岸花
『おじいちゃん!今日はおじいちゃんたちに感謝する日なんでしょ?』
『そうだよ』
『おじいちゃんはずっと一人なの?おばあちゃんは?』
『〰〰〰〰』
そこで目が覚めた
あの老人と女の子は誰のか最後に何と答えたのか
少し引っ掛かった
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初めてできた彼女
きれいな顔がクシャリと崩れ愛らしく笑う
笑うとき彼女は左の耳を包むようにさわる
二人とも周りからすれば普通の恋人同士だった
でも彼女のみせる表情がすべて愛らしく思えた
初めはぎこちなく手を繋いでいたものの
デートを重ねる内に手を繋ぐのも
当たり前のようになっていた
初めてのケンカは本当に他愛のないことだった口喧嘩で彼女が泣きな出し
そのまま僕が謝りケンカはすぐに終わった
部屋に明日行くと言われたときは
前日に大急ぎで掃除した
部屋を彼女がキレイといってくれて
掃除してをいてよかったと思った
親が茶化しにくることがないので
このとき、一人暮らしでよかったと
改めて思った
映画を見てゆっくりと時間を過ごした
初めては失敗することなく
カーテンの隙間から差し込む月明かりをもとに
二人で愛を誓いあった
しかし1年と半年がたち
彼女の様子に少し違和感を覚えた
笑顔はあるが目の奥に何かを感じた
クラスが代わり会う時間が少なくなっていった
連絡だけは欠かさずとっていたが
予定が遭わないのか出かけることは
あまり出来なかった
しかし久々に彼女からのデートの誘いがきた
舞い上がるような気分だった
待ち合わせに先に来ていた彼女
久々に繋いだ手は前より少し冷たく感じた
買い物や映画に行ってる内にすぐに時間は過ぎた
帰りにいきなり彼女は踏み切りに走っていった
踏み切りの真ん中で彼女は耳をさわり笑顔で言った
『今日は楽しかったよ
ありがとう
あなたのことがずっと大好きだよ』
だんだんと遮断棒が下がって行く
踏み切りの真ん中立っている彼女に
焦る気持ちでいっぱいだった
『うん、こちらこそありがとう
そこにいると危ないよ早く踏み切りからでて』
頭上にはカンカンと音をたて遮断棒が下がっている
この日は秋の訪れにしては久々に暑かった
頬の横をつたり汗が垂れた
『私のこと好きだった?』
こんな危機に恐われているのに彼女は必要以上
その言葉を求めた
『うん、好きだよ。大好きさ
だから早くそこからでて!』
遮断棒は完全に下がった
遠くから電車の音が聞こえた
周りは彼女の行動にどよめいていた
誰かが急いで緊急ボタンを押しに行こうとしていた
頭がグワグワとし動揺が隠せなかった
汗がポタポタと頬をつたり乾いた地面に落ちる
風は秋を迎えるように肌寒くふいていた
そして踏み切りの真ん中に立っている
彼女は左手で耳をさわり
今にも泣きそうな顔で笑みを浮かべた
『〰〰〰〰』
鈍い音をたて
笑顔を潰すよにブレーキ音をたて電車は彼女に当たった
遮断棒の音は頭を支配するように音をたて
間に合わなかった緊急ボタンの音がけたたましく頭上に響く
周りは騒がしく悲鳴などが聞こえた
目の前にはもう息をしてないであろう彼女が血を流して倒れていた
彼女の白いワンピースはあの彼岸花の様に真っ赤に染まっていた
風が冷たく頬に刺さる
そう言えば今日はあの日だ
そうあの日 老人を敬愛し、長寿を祝う日
デート中に一緒に選んだプレゼント
彼女はどこか寂しそうに選んでいた祖父母への贈り物
僕の祖父母は喜んでくれるだろうか
頭がボーとしてき、周りの音が段々と小さくなっていく
あぁーあのプレゼント喜んで貰えるといいなぁ
目の前が一瞬にして真っ暗になり
そして、僕は気絶した
目を開けると真っ白い天井あった
気づくと、心配そうな顔で見ている両親の姿がうつった
母親は慌てた様に誰かに話していた
起きたときには気づいた、左の耳から音が聞こえないことを
カーテンを避け白衣をきた人が母と何か話していた
そして目が合い
『気分はどんな感じ頭が痛いとか何かない?』
と言われた
どもつく僕に目を真っ赤にしていた母が心配そうに言った
『あんた、丸二日も寝ていたのよホントにもう心配したんだからぁ……』
泣き崩れた母を包むようにし父は背中を擦った
『あ、あの、左耳から何も聞こえないんです』
白衣の人にそう言った
その瞬間に母は嗚咽をあげた
『そうですか、それはきっと倒れてときに頭を打った衝撃で左耳が聞こえないんだと思うよ。一度色々検査をした方がいいね』
白衣の人は僕を勇気付けるように言ってくれた
そして僕の寝ている部屋から出ていった
父が不安そうに聞いてきた
『医者はなんて?』
久しぶり会う両親は今思うと少し老けていた
『検査するって』
父の不安顔でそうかと呟いた
そして検査をしたところ
左耳と心臓に後遺症が残ると言うことがわかった
心臓は精神的にも関係があるかも知れないらしい
そして数日の間病院で休んだ
初めは病院だなんて気づかず、医者ということが認識できなかった
両親にこんなにも心配をかけて申し訳なく思った
そして、退院してアパートへ向かうと
アパートは黒焦げになっていた
大家さんに違うアパートを紹介してもらった
少し学校から離れたが家賃は前より低くなった
寝込んでいたからか手配は既にできていた
部屋の中は少しホコリとカビの臭いがした
新しい部屋に一人ボーとしていると
涙がボロボロと出てきた
急なことにビックリしたが思い出した
彼女はもういないんだ…と
頭の中でも何回も再生される
彼女の今にも泣きそうな顔で微笑んだ顔
そして、最後に彼女が何とか言ったのかどうしても思い出せなかった
僕は新しい部屋で夜中ずっと涙を流した
今でも思い出せない彼女の言葉
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起きると肌寒かった
もう、秋だと思われるような気温だった
今日は彼女の祥月命日だ
布団から出て彼女の所へ行く準備をする
行き道の花屋で花を買った
彼女のお墓の前に誰が立っている
彼女の母だ
こちらに気づき軽く会釈を交わした
「いつもありがとうね」
古くなった花を変えている僕に彼女の母はそう言ってくれた
いいえと返す僕に彼女の母は
「毎月来てくれてるでしょ
でも、もういいのよ
遺書に書いてた通り
新しい恋人をつくって
その方があの子も喜ぶはずだし」
彼女の母が言って気づいたが
遺書を久しぶりに読んで見ようと思った
彼女が亡くなったあと
彼女の家に行った
彼女の母は僕を見た瞬間
『あぁ、あなたね』
と言った
そして、僕に彼女からの手紙と写真を渡してくれた
彼女の母は辛かったはずなのに僕の言葉一つ一つを聞いてくれた
あのとき、どんなに救われたことか
お墓に水をかけた
「ありがとうございます
でも僕の気が済むまでここに通わしてもらってもいいですか」
彼女の母は僕の言葉を聞いて目を潤わせ
深く頷き
「ええ、こちらこそありがとう
こんなにも、娘を想ってくれて」
と優しそうに微笑んだ
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帰りに彼岸花をみつけた
何かを思い出しそうになり少し走って帰ろうと
階段を駆け上がったせいか動悸がはげしい
おさまり仏壇に手を合わせる
飾っていた彼女の写真に目がいき、彼岸花を思い出す
そして、押し入れをあけた
何かのお菓子が入っていたアルミの箱は少しホコリ臭くどこか懐かしさを思わせるようだった
その箱から彼女と僕が写る写真や彼女だけで写る写真が入っていた
その下に僕への手紙があった
開くと所々に丸く濡れたシミがあった
あの頃は彼女からの手紙を読んだと思うがその記憶がなぜかない
不思議に思いながらも手紙を読むことにした
『拝啓───君
こんな始め方は少し照れくさいですね
あなたがこれを読んでいる頃には私はどうなってるんでしょう?(笑)
どこか違うところで生きているのかもしれませんね。
それかあなたの前からいなくなっているかもしれません。
もしそれで悲しんでいるなら、私のことなんてなかったことにして
違う人生を初めて下さい。
って言うのは半分嘘で半分本音です。
これはわがままだけど私のことを忘れないで ずっと想い続けてく
れたらいいのになぁって思っています。でもすこしは違う人生を初
めて欲しいと思ってます。
いや、初めて下さい!(笑)
そしてごめんなさい。
きっとあなたは怒っているでしょう。
あなたにずっと隠していることがあります。私は病気を患っていま
した。
この日は特別に病院から許可がてデートに行けることになりましたが私はこの日に死のうと思います。
きっと、この日に死ななくても病気は治らないまま私は亡くなります。
そして、この日に死のうと思ったのは理由があります。
実はこれは信じてくれないと思うけど、私はあなたと私の未来が大体わかります。
曖昧なのは選択肢がいくつもあるからです。
そして、未来ではデートが終わりアパートに帰ったあなたはその夜
アパートの火事で逃げ遅れ死にます。
それをとめるには帰りの電車で人身事故を起こすしかないと思いました。
きっとあなたはこの日わたしがどんな方法を使っても夜になる前に帰って亡くなるという結果でした。
どうしても私はあなたに生きていてほしかったんです。もう一度逢えるとしているから
あなたがおじいちゃんになったときにまた私はあなたの前に現れます。
きっとこの時私はあなたへの記憶はありませんでもあなたに生きていてほしかった。あなたとまた逢いたかった。
最後にわがままいってごめんね
ずっとあなたが大好きだよ
ごめんね
────より』
手紙の上に水滴がポツポツと落ちる
いつの間にか僕は泣いていた
今まで手紙を忘れていた自分に悔しさと後悔が積もる
胸が苦しくて押し潰されそうになる
そして、手紙の最後の言葉で僕の中で繋がらなかった
糸と糸がやっと繋がった
彼女が言った最後の一言を
思い出した
繋がった
レコードが巻き戻されるように記憶を巻き戻す
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左の耳を触り踏み切りの真ん中で悲しそうな笑顔を浮かべ彼女は
『ごめんね』
と言って鈍い音をたて電車に当たった
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そして僕は確信した
きっとこれまで以上にまた彼女を愛し、生涯彼女を想い続けるだろう
きっと、この左耳も心臓も彼女の残したモノだと思うことだろ
きっと、きっと、彼女にまた逢えるだろう
僕はもうすっかり日の落ちた部屋でそう信じ、
彼女の手紙を握りしめ眠るまで泣いた
そして、左手にあの彼岸花を
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もうあの頃から何年たっただろう
僕はもうすっかりおじいさん
仕事を定年退職してからは趣味のレコードや本を集めることに没頭した
そして、小さなレンガの家を買った
レコードをレコーダーにおき
パッチワークのソファに沈むように座る
コンッコンッ小さなノックにどうぞと優しく答える
小さな女の子が恥ずかしそうにこそっと入ってきた
女の子は背中に隠していた手をすっと前に出し
「おじいちゃんっ これプレゼント」
恥ずかしそうにしながら小さな手には収まりきらないリボンの付いた箱をくれた
「ありがとう」
柔らかい髪の毛を撫でた
女の子はちょこちょこと窓まで走っていき、歓喜をあげた
「わぁー 真っ赤なお花がいっぱいだよ!」
家を買った期に彼岸花の種を植えた
もう、そんな時期か、庭には一面真っ赤に彼岸花が広がっていた
不意に小さな女の子はこちらを向き、目を輝かせて言った
「おじいちゃん!今日はおじいちゃんたちに感謝する日なんでしょ?」
この、光景どこかで見たな
僕は女の子の行動に心温まりながら
「そうだよ」
そう答えた
女の子はこちらに歩いてきて、
「おじいちゃんはずっと一人なの?おばあちゃんは?」
小首を傾げそう聞いてきた
僕はその言葉に衝撃をうけた
あのときの夢と全く同じような会話
そして、彼女の手紙のこと
『もう一度逢えるとしているから
あなたがおじいちゃんになったときにまた私はあなたの前に現れます。』
という彼女言葉を
僕はもう一度目の前の女の子を見ると
女の子は左手で耳を包むようにして笑った
きっと、そうだと
胸の奥が熱くなる
僕は女の子の頭を撫で
嬉しさで涙を浮かべ言った
「ごめんね」
お読み頂きありがとうございます
短編小説チャレンジして見ました
やっぱりむずかしいですね
本当に読んで頂きありがとうございました