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新鮮なフレッシュアバター  作者: 人妖の類
02.金、金、金! 精霊として恥ずかしくないのか!
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06.三人寄れば共同戦線

 首無に搭乗したエレンが重星を構えて狙いを定めている。その先にいるのは一体の魔物・突牙だ。大きく前に伸びた二本の牙を持つ四つ足の獣型で、あまり機敏な動作は出来ないものの一度速度が出ると凄まじい勢いで突進してくることが知られている。

 私たちは人外領域に入ったとたん、運良く魔物に出くわすことが出来た。小さいものでも一抱え以上の太さを持つ木々が立ち並んだ森林は首無で乗り付けるには問題ない程度の間隔を持っていた。

 エレンが主に使う重星はダッドリーの背丈を上回る長大さで、徒歩で取り回すには不便も多い。そのため彼らは首無を持ち込めるような広い戦場を選ぶそうだ。

 エレンが今着ている服も重星を使うために特化した魔装具の一種で、何本ものベルトで首無と固定することによって反動を押さえ込むことが出来る。射撃時の衝撃もかなり低減できるのだそうだ。

 肉眼では指先程度にしか見えない突牙に狙いをつけていた動きがぴたりと停止した。音が耳ではなく体で感じられるような衝撃とともに弾丸が飛び出す。

 ほんの一瞬の後、突牙が何かを頭からまき散らして倒れ伏した。

 着弾を確認したエレンは大きく息をついた。照準器から覗いていたエレンには私よりもはっきりと見えていたはずだが、それでも未だ集中を崩す様子はない。

 エレンは再装填の術式を起動し、再び狙いをつける。爆音の後に横倒しになった魔物の肉体が揺れた。

 さらにもう一射というところで唐突に魔物が起き上がる。体の重さを足が支えているとは思えない、外的な力が加わった異様な動きだった。莫大な魔力の燃焼を感知するとともに魔物の負っていた傷が、無かったことにされたかのように消え去った。


「これは!」

「魔物の再生能力よ。何度も殺せばそのうち死ぬわ」


 私は衝撃を受けていた。驚きというやつだろう。

 それは魔物が再生を果たしたことにではなく、魔物が発動した回復魔法の術式が全く未知のものだったことにだ。私の魔法は特定の物理現象を模倣して起こすもので、精密な術式を設定する必要がある。

 しかしあの魔物の発動した魔法は違う。治れと願ったから治った。私の魔法からは考えられない現象だ。魔物に関する調査は二の次かと思っていたが、それは誤りだったかも知れない。

 それも調べることが出来るようになってからの話だ。まずは任務を果たすべきだろう。

 私から見ても明らかなほどに魔物は怒りに溢れエレンをにらみつけている。

 その鼻面めがけて弾丸が飛来する。しかしそれは弾道を変え、突牙の毛皮を削って逸れていった。敵を認識して防壁を張ったのだろう。そのためになるべく不意打ちで魔力を削っておくのが有効らしい。

 弾丸を逸らした突牙が頭を向け突進を始める。小さく見えていたものがみるみるうちに近づき、肥大化して見えてくる。


「ちぇい!」


 だがその突進の途中で突牙は体勢を崩して転倒し、地面を削りながら数本の木をへし折って停止した。横合いから現れたダッドリーが足の一本を切り落としたためだ。

 実は魔物が頭部を失っている間に、ダッドリーは密かに魔物の近くに身を潜めていたのである。普通に近づけば感知されてしまうが、脳の機能が喪失している間ならば見つからずに済むのだ。

 逆に言うと、脳が喪失したところで魔物の魔法を止めることは出来ないと言うことだ。魔物の魔法は臓器が変質した魔石という器官が使用するからである。これは臓器の代用を果たした上で、魔法を行使する機能を持つらしい。そのため魔物を殺すには大量の魔力を浪費させて枯死させるか、魔石を破壊するかのどちらかになる。


「この調子なら問題なく片付くわね。手を出せそうなら何か試してみる?」


 彼女に言われて考える。二人の連携は実際よく出来たものだろう。

 切り落とされた足を再生した突牙が牙を振り回せばダッドリーは巨大な盾で防ぎ、突進しようとすれば体重差で吹き飛ばされないように大きく飛び退って躱す。ダッドリーと魔物の距離が離れればそこをエレンが狙撃する。エレンに注意を向ければダッドリーが肉厚の片手剣で切りつける。そうやって突牙が本来の能力を発揮できないように立ち回っているわけだ。

 あえて言えばダッドリーが距離を離しきれないとき、エレンが攻撃機会を失う場合があることくらいだろうか。


「囮がもう一人居た方が立ち回りやすそうですね。実験してみます」


 首無の上に立ち私自身で天馬術式を起動、短星だけを持って空を駆ける。大きく跳躍しては一瞬だけ天馬術式を起動、再度跳躍して距離を詰める。

 術式の魔力に気づいてか、突牙がこちらに目を向けた。胴体に向けて数発、爆破術式を付与した弾丸を撃ち込む。爆風が突牙の巨体を揺らすが、防壁に阻まれて直撃しない。

 私に注意を向けた突牙が突進、目と鼻の先まで来たところで大きく跳躍して回避。突牙の攻撃が届くかどうかの高度を保って跳躍を繰り返し、弾丸を補充して発砲。

 次に撃ち込んだ弾丸は貫撃槍に使われている貫通術式を付与したものだ。防壁は突破したものの、弾丸の威力自体が突牙の巨体に対して小さい。直撃はしたがあまり効果的ではないようだ。さらにやり方を思案しながら弾丸を生成し、今度は貫通術式と爆破術式を交互に付与した。

 空中を蹴って突牙の真上を通り過ぎるように跳躍する。回転をつけて跳びながら、真下を向いた瞬間に全弾を撃ち込む。浴びせた弾丸の雨はいくつか防壁に弾かれたものの、体内で爆裂して突牙の巨体を大きく揺るがした。

 さらに動きを止めた止めた突牙に向けてエレンの放った弾丸が飛来する。口腔から飛び込んだ弾丸が内部を跳ね回ってずたずたにし、とどめとばかりにダッドリーが斬りかかった。首筋を大きく切り裂かれた突牙がその場に頽れる。

 突牙はもがきながら立ち上がろうとするが足に力が無い。地面を引っ掻いて土を掘り返すだけだ。傷も修復しない。魔物はやがて力尽き、活動を停止した。


「やっぱ問題なかったな。でもこれで君にとやかく言うやつは減るだろう」


 言いながらダッドリーが近寄ってくる。多少の面倒があったのは事実だが、能力の証明がないものを雇用するのは問題だ。管理局の対応は極めて正常といえるだろう。


「ありがとうございます。ところで映像記録に作法などはあるのですか?」

「作法……」

「出来れば近くでよく見えるように記録した方が良いみたいよ。ちゃんと倒して安全を確保したって見せるの」


 魔物が再生を繰り返す以上、倒れているのを記録しただけでは討伐の証とは認められない可能性もあるそうだ。厳密に見られることは殆ど無いようだが、まれに倒しきる前に記録だけを撮って逃げ帰る者も居るらしい。実際は専門家が見れば一目瞭然なのだとか。

 二人に指示されながら画像を記録する。魔物の死体がわかりやすい全体像や、一人ずつ近くに立ったもの、全員が写った状態のものなど。光学情報を保存するだけなのだが、写り方に善し悪しがあるものだ。しばらく記録していると満足のいくものができあがった。


「さーて。時間もあることだし、出来ればあと二体は狩りたいところだな。行けるか?」

「可能です。問題ありません」

「じゃあもう二狩り、がんばろっか!」


 有効な連携の仕方が解れば作業の効率は上がった。エレンが火力を担当し、ダッドリーが足止め、私が遊撃を担当する。休息と索敵を挟みながら終了期間を迎える頃にはさらに五体の魔物を狩ることが出来た。任務の達成条件も満たして十分な結果を得られたといえるだろう。



「おー」


 人間の腕を簡略化したような装置に掴まれ、伐採された木々が次々と下ろされていく。様々な術式が連携して起動していく様は見ていて興味深い。


「ああいうの好きなの?」

「大変興味深いです」

「男はああいうの好きだけどなあ、大抵」


 輸送された木は壁の外でいったん乾燥や加工され、そのあとで都市の中で活用されるそうだ。さすがにあのまま内部には持ち込めないと言うことらしい。


「今回はお疲れ。君ならこれからもやっていけると思うぜ」

「そう言っていただけると安心します、ダッドリー師」


 先達から仕事ぶりに問題ないことを認められたのは幸いだ。


「ところでその堅ッ苦しいしゃべり方、何とかならないの?」

「堅苦しいですか?」


 首を傾げると、エレンの意見にダッドリーも頷く。ただ単にヴィスキュームの教師などに対する対応パターンを活用しているだけなのだが、あまり適切ではなかったと言うことか。


「正直、あれだけの腕前の子に師匠面とかこっちが恥ずかしくなるから」

「これからは同業なんだから気楽に行こうぜ。俺はドリーで良いし、こいつはエリーで良い」

「そうそう」


 エレンも当然とばかりに頷いている。

 困った。気を許して会話する同格の相手を想定したパターンがない。血族にすら明確な上下関係が想定されている。これはもしや人間としてはあまり一般的ではないのではなかろうか。


「やってみます。……やってみる。よ、よろしく。ドリー、エリー」


 人間に適応するのは難しい。 

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