絶望の朝
その日、瀬居とフォルは少年の叫びにも似た声と激しいノックの音で目を覚ました。何事かと寝ぼけ眼で扉を開けると、そこには憔悴した顔で片手には大きめの袋を持ったキンの姿があった。
「どうしたんだ?」
ただならぬものを感じたフォルはしゃがみ、キンを抱きしめた。キンは過呼吸になっており、まともな言葉が喋れなかったが、抱きしめられたことにより、ある程度落ち着いたのか、なんとか聞き取れる声を出した。
「スーが、スーが城につれてかれたんだ」
内容によると、キンとスーが目を覚まし、朝の情報収集に勤しんでいる時に、偶然王が乗っていた馬車とすれ違う、すると突然近衛兵(もちろん女である)が飛び出し、スーを捕まえ、そのまま馬車に戻って走り去っていったとのことであった。
「止めたかった、けど、おれ、力負けしてくそっいらねぇよこんなスキルポイントッ・・・スーを返せよ」
袋を地面に叩きつけ、声を出して泣きだしたキンをどうすることもできずにいたフォルは瀬居のほうを向き、力強く言った。
「テンガン、すまねぇ、いささか早ぇけど城に向かうぞ!」
「スーを助けに行くのか?だったら召喚すれば」
フォルは昨日広げた地図を瀬居とキンに見えるように広げなおし、ピンである部屋に突き刺した。
「恐らくクライネス王が連れて行ったのは城の内部にある『愛しの間』。そこは召喚魔法が一切通らねぇんだ、鍵も特殊で信用のある内部の人間以外だと開けられない仕組みになっている。」
「どうしてそこまで知っているんだ?」
「作成にウチも協力したから、半強制的にだけどな。」
吐き捨てるように呟き、地図を指でなぞる。
「愛しの間で1番の近道はこのルート、だがここだと人通りが多い、順序としては王を攘夷して城内部が混乱している間にどさくさに紛れて解放するといったところだ」
「フォル、その方法だと兵士達に捕まる可能性がないか?俺たちは主犯になるわけなんだから恐らく目をつけられるだろう、あんなに嫌われる王のことだ、暗殺防止に常に付き人をつけていそうだ」
「よく分かったな、それが一番の問題なんだよなぁ」
瀬居とフォルの会話を聞いていたキンは拳を強く握ると振り絞るような声をだした。
「おれが」
「?」と二人はキンの方に向いた。
「おれが、スーを助けに行く、おれ、お前らよりかは小さいから、隠れながら移動できるッ!俺が助けている間に王様を倒せばいい!」
「駄目だ」
フォルは冷酷にキンの申し出を否定すると、続けて。
「言っただろ?愛しの間は特別な人しか開けられない、入れたとしてもウチが召喚して助けることもできない、根本的にあの城には基本的に男は入れない、キンには無理だ、危険だし無謀すぎる」
「で、でも」
無謀で危険なのはキン自体分かっていた、しかしキンにとって妹のスーは何よりも大切な存在であった。兄らしくなかったかもしれない、でもキンはそれでもスーの兄である。
「そうだな、キンは難しいな」
「テンガンまで!?」
瀬居にも否定されたキンは、ぐるぐると考えた。
二人に頼れないなら、おれだけでもスーを助けに行こうと、例えそれが限りなく0の可能性であろうと絶対に・・・と。
しかしその考えは瀬居の一言によって霧散した。
..............
「キンが無理なら・・・じゃあキンじゃなくすればいい」
瀬居は赤と青のマーブルの球を生み出した。
その奥では叩きつけた際にぶちまけられた固化したスキルポイントが蛍のような光を放ち、瀬居を怪しく照らした。




