もしも試験が無い世界だったら。
試験勉強という苦行から現実逃避するため書きました。
これって誰もが一度は夢見るんじゃないですかね?
「はあ、勉強辛いなあ……」
俺、本郷登はシャーペンを置いて、勉強机の中で頭を抱えていた。
何せ、明日は期末試験なのだ。
そう。ほとんどの学生(頭良いやつは対象外)が最も恐れる出来事トップ5に入るというあの期末試験なのだ。
机にはまだできていない課題やテスト範囲がずらりと広げられている。まず一晩でできる量ではない。
そして今、『できる! 高校一年生の試験はこれでOK!』などという怪しい雰囲気しかない参考書を諦めたところだ。
——何が『できる!』だ。まったく解けやしねえぞおい。できない内容なら『君にはできない!』にタイトル変更しろよ。
そう頭の中で参考書に文句を垂れている間にも、刻一刻と貴重な時間は過ぎていく。
……これはもうだめだな。
「あーもう無理! もう寝る!」
机に置いてある時計を見ると、そろそろ明日の試験日になりそうな時間帯だ。眠気もほぼマックスに近い。
そういったわけで俺はベッドに眠り込む。
課題や勉強は? そんなの知らん! 俺には困ったとき助けてくれる猫型ロボットがいるわけじゃねえ!
そう言い訳と現実逃避を頭の中でしていたら、さっそく眠気が襲ってきた。
その眠気に抵抗せず、すぐに意識が落ちていく中俺は思った。
「……もしも、試験が無い世界だったらなぁ……」——と。
翌朝。俺はまさに幽霊のような面持ちで教室の扉を開けた。
教室に入ってすぐに、とても快活そうな声が耳に届く。
「よぉ、登。ってか目の下のくまやべぇぜ? 何かあったのか?」
「いや、遅くまで試験勉強していたからさ……。ちょっと休ませてくれ、浩二」
こいつは親友の平野浩二だ。ある小説を読んでいたことが分かり、それ以来親友になっている。ちなみにこいつも『毎回試験用紙が雪景色になっているやつ』の一人だ。俺もだが。
だから、試験当日はいつも俺と同じような状況になっているはずだが……
「なあ浩二。お前試験勉強はしたのか?」
「試験勉強? 何それ?」
「おい、その後には『おいしいの?』がつくだろ? そんなボケよりも、試験勉強はどうなんだ?」
「いや、マジでなんだその単語? 初めて聞いたが……」
「いやいや、ボケるのも大概にしろよ。ほら、今日の時間割だってそう書いてあるだろ?」
まあ、これを見せればボケるのはやめるだろう。
そう考えて鞄から、今日の時間割を出すが——
「……はぁ?」
——俺が一瞥した時間割には、試験などという文字は一切書かれていなかった。
「ほら、今日は普通の時間割だろ? おいおい、まさか本当に試験勉強……だったけ? があると思っていたのか?」
「……」
浩二からの質問に答えられず、俺はただ動揺するだけだった。
「じゃ、じゃあ年間行事表は!?」
一年間の学校行事すべてが載っている年間行事表を、自分の手帳から取り出して開くが、そこにも『試験』という文字は書かれていない。
表の中から、『入学試験』『中間・期末・学期末試験』『~資格試験』というすべての試験が消えていた。
「ま、まさか本当に——」
——俺は『試験』が無い世界に来たのか?
それを認識した俺がすぐに実行したことは、『授業中居眠りをすること』だった。
とはいっても、別に俺一人が寝ているわけじゃない。教室にいるほとんどの奴が寝ているのだ。起きているのは本当に『勉強が嘘偽りなく好き』なやつだけだった。
先生もその『勉強が好き』な人しかおらず、学校内にいる先生の数がかなり少なくなっていた。残ったのは前から授業するのに熱心だった先生だけ。どうやら、それ以外の人は別の仕事についているらしい。どうでもいいが。
ともかく、俺はこの世界にきてめちゃくちゃ喜んだ。浩二に精神科の病院を進められたぐらいだ。
だってあの『試験』が無いんだぜ! あの『試験』が!
元居た世界の学生諸君ほとんどが一度は願うであろう願いが今、完璧に叶ったのだ!
正直、今まで生きてきた人生で一番うれしい出来事であるのは間違いない。
俺はその日、常時ドーパミンが分泌されているような状態で一日を過ごしたのだった。
「おはよう!」
次の日。俺は手本のような『満面の笑み』を浮かべて教室へ入った。
実は起きてから元居た世界に帰ったのではないかと心配したが、そんなことはなかった。しっかり年間行事表で今日を行事を確認してある。
ただ、『幾何学的論理問題』という謎の行事が今日あったが、そんなことは些細なことだ。浩二にでも聞けばわかるだろう。
というわけで工事にこのことを聞くべく、俺は浩二の席に向かった。
「おはよう。こう……じ?」
「ああ、おはよう……登。俺はもうだめかもしれん。ていうかもうだめだな」
俺の挨拶を返した工事の声は、絶望に満ち溢れていた。
「お、おい。何があったんだよ?」
「何があった? はっ、エリートは余裕みたいでいいなぁ! こっちはもう補修確定だってのによぉ!」
「はぁ? エリートってどういう……というか補修!?」
ま、まさか。ここでも何か『試験』的なものがあるのか。しかし、浩二は俺を『エリート』と呼んだ。だとすれば『もともと俺が得意なこと』が試験になっているかもしれない。
だとすれば、まだチャンスはある。一体どんな試験内容なんだ?
「な、なぁ。今日の授業で一体何をするんだ? 教えてくれ!」
これは変な奴と思われても仕方がないだろう。元居た世界だったら、試験当日に『試験って何だ?』と質問してくるようなもんだからな。
しかし、浩二は俺の熱意が伝わったのか、怪訝な顔をしながらも授業内容を教えてくれた。
「……今日は『幾何学的論理問題』の日だ。まあ、簡単に言えば『パズル』だな。今から高難易度のパズルが教室にいる生徒全員に出題されて、早押し形式でそのパズルを解く。今日丸一日使うから、120問出題される。それで3問こたえきれなかった奴は、10問連続正解するまで居残りだ。ちなみに、他の奴から答えを聞くのはもちろん禁止だ。教えたやつも居残りとなる。とはいっても、『毎回60問以上』を解いているお前だったらそんな真似しないだろ?」
俺は浩二の説明を聞きながら、血の気が引いていくのを感じた。
「はぁ、いいよなぁ。お前みたいに『趣味がそのまま学校に認められる』奴は。俺なんて今まで本番で5問も解けていないんだぜ?」
——俺はパズルが『得意』ではない。むしろ『大の苦手』だ。
「ま、今回もその頭脳のすごさってやつを見させてもらおうか。頑張ってな。『学校総合一位』さんよ」
「お、おう……」
この時点で、俺にとって終末を告げる授業始まりのチャイムが鳴り響いた。
「じゃ、じゃあな……」
「おう。俺はもうだめだが、登ならまた『100問回答』できるはずだ! 頑張れよ!」
そう激励されながら、俺はゆらゆらした足取りで自分の席に座る。
すぐに先生が教室に入ってきて、各自の席に回答ボタンを配っていく。配られていく席に座っている生徒の表情は様々だ。
自信がありそうな顔。不安げな顔。こっちを睨み付けている顔。何かを悟ったような顔。
その様子を見ながら、俺は思った。
——どこにも、完全に楽ができる世界ってないんだな、と。
一応設定。
・勉強は、『社会に出て役に立つように』『趣味』『パズルの論理的思考、問題文の読解力などが身に付くため』行われています。
・転移先の浩二は勉強はめちゃめちゃ得意。だが、学校のはあまりにも簡単すぎるため居眠りしている。(それでもなぜかパズルは解けない)
突っ込みはあるでしょうが、これはコメディーです。
感想等よろしくお願いします。