転生
ふと目を覚まし、起き上がる。
周りを見渡し、自らがそれほど大きくない檻に収容されている事に気付く。
まずは周囲の危険を確認する為に、首を左右にひねろうとする。
しかし少年の意思通りに動いていないのだろう、ロボットのようなカクついた動きで頭を動かしている。
動かし辛そうにしつつも、時間をかけて周囲を見渡す。
頭の上の回転するもの以外、危険物はなさそうだと把握する。
ほっとため息をつくが、急に苦しみだす。
「痛っ。」
突然、頭の中に情報の波が流れ込む。小学生、中学生、高校生、大学生、就職、そして交通事故で死ぬ。誰かの人生を高速で再現させられている。頭が燃えているような痛みを感じる。
一通り映画のような映像が終わると、続いて女神様の映像が流れる。
どうやら元の体の持ち主の記憶のようだ。幸せな最後を迎えることが出来た人生ではなかったようだが。
それを見終わると同時に、最後の贈り物というのがこの世界の常識という事に気付くが、心の中を埋め尽くす感情が突然湧き出し、動揺してしまう。
目の前が歪み、ふと涙を流している事に気付く。腕で顔を拭こうとするが手が届かない。
(あれ、拭けない?なんで?)
そういえば、足も上手く動かせていない。なんだこれ、体がおかしくなってしまったのか。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ。」
ドタドタッ!!
ガチャッッ!!
「どうしたの!?凜ちゃん大丈夫!?」
扉を叩くように巨人が入ってくると、僕を持ち上げた。急に自分の3倍近い高さまで上げられた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ」
「はいは~い、どうしまちた~。ままはここでちゅよ~。おなかへったのでちゅか~。」
そういって僕を胸へと近づける。お腹が減っていたのか、反射的に食いつく。
・・・・そうか、転生とは赤ちゃんからやり直すことだったのか。
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正面から飛んできた本を避け、右から飛んできた枕を右足で受け止める。
そのまま左を向くと、左前方からナイフが飛んでくる。
それを避けつつ、柄を左足で蹴り上げる。回転しながら上空へと上がったナイフを見極め、左手でキャッチする。
「ふ~、何とかまともに動くようになってきたなぁ。でもまだまだ頭が重いなぁ。」
ナイフを床において、軽く伸びをする。向こうの世界と同じように、この世界でも魔法は使える。魔力そのものは回復が遅い為、修行以外で使うのは難しい。女神様にも注意を受けているので、第三者がいるところでは使うつもりがない。特に身体能力強化の修行以外には使わないようにしている。
そもそも、なぜ幼児なのに鍛えてるのか。それは前の持ち主の記憶のおかげだ。僕は今、人間という種族のようだが、その人間の幼児時代は非常に重要らしい。神経系というものがあって、それを鍛えやすいのが幼児のようだ。その神経系を鍛えると、反応と体の使い方が上手くなりやすいと証明されている。この世界がどの程度危険か分からないが、簡単に殺されない程度に鍛えることにしている。また戦争が起きたら、今度はあんな苦しみを味わいたくないから。自分を、大切な人を守れるのは、自身の力だけだと身に染みて理解できたから。
哀愁漂う空気になってしまったが、それほど悲しい人生ではない。むしろ楽しく生きている。
ただ、親の言う事を素直に聞きすぎて、天才だと騒がれてしまっているようだ。どうやらお父さんは亡くなっている為その分の愛情を僕に注いでおり、ちょっとした事で大騒ぎしたがる。
「凜~、もうすぐ御飯できるわよ~」
「は~い」
ドアの向こうから母さんが声をかける。返事をすると、満面の笑みになる。ちゃんと返事をしただけですごく嬉しそうにしてるのを見るのは好きだ。愛されてるという実感が沸く。
とてとてとリビングへと歩いていく。壁を後からつけた為、部屋から歩いてすぐだ。とはいっても、幼児の僕では時間がかかる。
リビングへと着くと、自分用の小さなイスにしがみ付きながら登る。自分の身長より高いから慎重に登らなければ・・・・・、おお、今のはTVで言ってた「だじゃれ」とか言うやつじゃないか。
そんな馬鹿なことを考えつつ、イスに座る。目の前にはお皿が一つだけある。真ん中で3箇所に分かれており、野菜など異なる食べ物が綺麗に盛り付けられている。肉だけでなく、野菜もしっかり甘味があって食べやすい。この世界は科学という技術の発展のおかげで、食糧事情はすごく良いみたいだ。
少し大きめの皿に入ったそれをスプーンで掬ってどんどん食べる。修行をしているだけあって、すごくお腹が減る。食べても食べても、おなかが減る。その割には体が大きくならないんだよなぁ
「もう少し大きくならないのかなぁ。」
小さく口に出したその言葉は、母親には届かなかった。