Chapter3 Rose jam inside the bread
優雅な時間が欲しい。もう、疲れたよ・・・。
そう思うようになったのは、結婚生活が始まって3年の時だった。
私は、桐生蓮香。子供もまだ、おらず、彼、桐生海斗と二人で暮らしている。
だが、彼は、仕事、仕事と言い、いつも家にいない。一人、家にいるのも暇じゃないかと思うかもしれないがそういうわけでもない。彼は、かなりの潔癖症なのだ。だから家にひとつもほこりがない。ちょっと外にいたいからと昼間、コンビニでのパートを始めると家に帰るたびに浮気していないか聞いてくる。もうそんな毎日に終止符を打ちたくて…。
ある日、パート先に新しい人が来た。名前は、池崎亮。私と同じくらいの歳だった。他のパートさんは、
「結婚してるの?」「どこに住んでるの?」
と聞いている。何だかファンの人みたいだった。彼は、すべて爽やかに答えた。そして私達は仕事に取りかかった。私は品物を並べたり揚げ物を揚げたりする係りだった。私がケーキを並べていると隣の棚で同じパートの人達が
「池崎君、まだ独身なんだって~」
「えー。マジ?あたし、タイプだから狙っちゃおうかな~(笑)」
と話していた。結婚なんて、苦痛で仕方ないのに…。
パートの時間がおわり、帰ることにした。更衣室に入ろうとしたとき、
「すみません。レジの打ち方、担当している人、わかりますか?」
と池崎君の声が聞こえた。
「えっ?レジ誰もいないの?」
と聞くと
「品出しに時間かかってるみたいで」
と彼は焦った顔で言った。私は、すぐに彼に教えた。すると、彼は申し訳ない顔をして
「すみません。急いでる中、足止めしてしまって…。」
と言った。
「大丈夫だよ。新人だから慣れるには時間が必要だよ」
と私もなぜか申し訳ない顔をして言ってしまった。
彼に軽く挨拶をして更衣室に戻り着替えてお疲れ様ですと言い、外に出た。私は、それまで気づかなかった。そこに夫がいたことを…。夫は店から出て私の腕を強く引っ張り、地面に叩きつけた。
「ねぇ。何色目使ってんの?お前には、こんなに立派な夫がいるんだぞ。浮気してたんだろ?あの男と。」
と夫は言った。
「彼にも聞く必要があるなぁ。」
そう言って、店に戻ろうとした。私はすぐに彼の足をつかんだ。
「何様のつもりだよ。離せ!」
と私を蹴った。すると、池崎君が外から出て
「桐生さん!大丈夫ですか?」
と駆け寄ってきた。夫は、
「彼女の浮気相手か?お前が?」
と見下した目で彼を見た。私は彼に戻るように言ったが彼は動かなかった。すると、夫は、
「助かったよ。俺は、もうコイツにうんざりだ。」
は?と私は言いそうになった。夫は、まだ続ける。
「コイツ、ほこり一つも残らないように掃除しろって言っても全然しねーんだよ。ましてコイツ俺に『少しぐらい手伝って』と言うんだよ。クタクタな俺にな。誰が金を稼いでやってんだか。パート始めるってきいて怪しいと思ったら浮気してたんだな。うわー。ちょうど良かった。俺もやっと恋人と暮らせる。」
と言った。
「浮気してるか聞いてたのは、別にどうでもよかったんだ。お前が浮気してるかって。」
と夫は、笑った。さんざん苦しめて来た奴が笑った。頭にきた私は
「どういうこと?それって…」
と言うと、彼はもう嬉しくて話を聞く耳を持っていなかった。さすがにそこまで言われると悲しくなる。私は、走ってしまった。悔しいのと後悔が入り混じった。そして涙が出そうになったとき、パンの甘い香りがした。香りをたどると小さなお店にたどり着いた。私はドアを開けた。すると若い女の人が
「ようこそ、レ・ジュールへ」
と言い、お店の説明をした。
「さぁ熱い紅茶ととともに人生にパンとジャムを…」
と言い残し、厨房にもどった。なんだか不思議な世界にはいった気分だった。
辺りを見回すとふと目にしたのはローズジャムがパンに包まれてるのがあった。私はそれをバスケットに入れ、試食する事にした。すると、今ままで欲しかった優雅な時間がきた気分だった。ローズティーもおいしかった。すると、先ほどきた若い女性、リサが来て
「このお店で優雅な時間を味わえるよう、庭で育ててる薔薇でお作りしました。」
と言った。本当に心癒され、優雅な時間だ。
外は、夕方になり始めた。若い男の人もきっと何か探しにきたのだろう。私はすぐに店を出ることにした。そして扉を閉めて家に帰ろうとすると同じパートの池崎君がいた。
「桐生さん!」
と彼は叫び、私に駆け寄った。
「桐生さん!僕じゃだめですか?」
と聞いてきた。
「いきなりどうしたの?」
と私が言うと
「あの後、桐生さん、泣きながら走るの見て、あなたの夫に説得したんです。どうか、一緒にいられるよう。だけど彼はもう愛人とコンビニに来ていて聞く耳もなかったんです。桐生さんが可哀想すぎます。だから、まだ結婚ではなく友人として力になれないでしょうか?」
と彼が説明した。私は、同期の彼が敬語でそんなかっこいいこと言ってしまうのを聞いてるとなんだか涙がポロッと出そうになった。私は彼を抱きしめ
「同期なのに敬語じゃなくていいよ。いつか付き合えたらいいな。」
と余計なこと言ってしまった。だが、彼は私をギュッと抱きしめ
「うん。そうだね。俺もそう、望んでる。」
といった。
5年後…。
「亮、お待たせ!」
私は手を振って、彼に抱きついた。
「早くしなきゃ映画始まるぞ」
と笑いながら言った。そして手をつないで走った。
そう。私達は、結婚前提に付き合うことになった。今の私の人生、バラ色に輝いている。




