すべてがXになる
すべてがYとなる。
少年たちには希望がなかった。
いや、希望が持てなかった、というほうが賢明であろう。
本来の少年たちが持つ将来の夢や希望。
それらのものを持つことができなかった。
少年たちはその現実に、嘆き、悲しみ、苦しみ、憂鬱であった。
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高い山々に囲まれた広大な平野。
そこにある山国アルベ国。
アルベ国はX家とY家が政治を行っていた。
冷静で合理的な政治を進めるX家と温かく人情味のある政治を進めるY家。
双家は時として対立してきたが、互いに助け合い、アルベ国を発展させていった。
平和な山国だった。
とても平和な山国だった(・・・)。
1年前の2048年12月31日にX家の家長X・イルネがクーデタをおこした。
イルネを中心とするX家が政治の重要機関をつぶし、国軍を乗っ取った。
そして、彼は年明けとともにこう言い放った。
「この国はぬるい! この国に絶望している! この国は最悪だ! Y家が進めてきた非合理的でぬるい政治ではだめだ! こんな国はもう見捨てるしかないんだ! こんな国はもう滅ぼせ! ここに宣言する。 この国を終わらせる!!!」
X家はそれから恐怖政治を行った。
Y家のものを武力で追放した。
政治はX家のやりたい放題だった。
逆らうものは、国軍によって消された。
働けるものは、奴隷のように働かせた。
老人は、収容所に入れられた。
子供は、国軍の兵士となるため厳しい訓練を受けさせられた。
国民の人権と財産を剥奪し、道具のように扱った。
全世帯に監視カメラと盗聴器が設置され、電話やネットや手紙もX家に監視された。
反乱分子は完膚なきまでに潰された。
毎日が地獄だった。
逃げることもできなかった。
国民には自由がなかった。
しかし、X家のものはとても豪勢な暮らしをしていた。
国民から巻き上げた財産で遊び、国民を遊びで殺す。
X家のやることはすべてX家によって容認された。
すなわちそれを訴えても、X家に逆らったとみなされ消される。
国民はX家を恐れ恐れ恐れた。
憎しみの感情すらおこらなかった。
こんな状況で希望が持てるものがいるであろうか?
いや、ない。
希望を持ってもすぐにそれが阿呆な考えだと思い知らされる。
少年たちには希望がなかった。
すべてがYとなる。