俺とチートと草原と
目覚めるとそこはまたしても真っ白な世界だった。
そう、そこは真っ白で暖かく柔らかくてもこもこだった。
「……ってもこもこ?」 がしっ
「……ふにゃ?」
俺の顔の上で手足を伸ばし脱力した格好で寝ていたであろう、もこもこした何かを掴みあげ、体を起こしてみるとそこは心地よい風がそよぐ草原だった。
空はどこまでも高く、抜けるような青空に綿あめの様な雲が浮かびぽかぽかとした柔らかな日差しが草原に降り注いでいた。地面には柔らかく青々とした緑が辺り一面に広がり動物が草を食べたり日向ぼっこをしていた。
少し遠くには木々が見える。どうやらここは森に囲まれた草原のようだ。
「はぁ。 これはまた」
俺は口を開けたまま五分ほど辺りを一通り見渡し、掴まれたままいまだ眠りこけている何かをそっと隣の草の上に置くととりあえず状況確認しようと頭を整理する。
まず確かさっきまで俺はわけのわからん白い空間にいて、そこで扉を開けたはず、まぁ扉というか戸だったわけだけど。
しかしあれは……夢だったのか?
まぁとりあえずあれが夢だったは置いといて、その前の記憶はさっき白い部屋で確認した時と同じようだ。ただあの時とは違い寝起きのような感覚はない。むしろぐっすりあとのように意識はすっきりとしている。
とりあえず、ここはどこなんだ?
「あるとしたらヨーロッパのどこかだと思ったんだが……」
そういって隣のだらけきった格好のまま寝ている物体をみる。
「こんな動物見たことないしな」
そこには白い狸のような30センチほどの生き物がすぴすぴと鼻提灯を作りながら寝ていた。
ただそのおしりには尻尾が三つあった。
さらに遠くの空にはプテラノドンのような生き物ギャーギャーと鳴きながら数匹飛んでいた。
「……白亜紀?」
タイムスリップ? いやいや こんなもこもこ図鑑でも見たことないし、じゃあ……あれか?
異世界トリップってやつか? 最近ネットよくこういう小説みていたし、もしかして夢でも見てんのか?
そう思って頬を思いっきり叩いてみたが、ただ痛いだけだった。少し涙が出た。
「いやいや、まじか。RPGじゃあるまいし. いや、いっそステータスでも出でくれたら分か……」
その時、ピロリ~ンというふざけた電子音と共に急に目の前に見慣れたメニューが現れる。
・ステータス
・アイテム
・装備
・ジョブ
・スキル
・固有能力
・パーティ
・設定
おいおい。 ご都合主義もいいとこだな。
まぁこちらにしたらご都合主義万々歳なんだけど。
とりあえず、自分の能力を把握しとくべきだよな。
メニューをいじってみることに。
* * *
結果的にいうとそれは所謂チート能力だった。
目の前に映し出されたそれは単純にイメージするだけで自由に操作できた。例えば見たい項目を開けと考えれば開き、閉じろと思えば閉じるといった具合だ。当然、メニューの表示も自由に消したり開いたりできた。
まずステータスの開くとこういう表示が出てきた。
名前:紡木 望
年齢:21
性別:男
種族:人族
Lv.1 HP:20(5) MP:7(5)
ATK 6 (2)
DEF 5 (2)
INT 3 (2)
MND 4 (2)
AGL 7 (2)
DEX 5 (2)
LUK 68(2)
……なるほど。まさにRPGだな。アルファベットの表示はそれぞれ、レベル、体力、魔力、攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法守備力、俊敏性、器用さ、運を表しているのだろう。
これがどれ程の強さなのかはわからないが、まぁチート級に強いわけではなさそうだ。
括弧の中は何か補正値だろうと次に装備を見てみたが、装備なしになっていたので、今着ているジーンズやTシャツ、腕時計は装備品には当てはまらないようだ。
次にアイテムを見てみると空の枠が10×10の100個あった。試しに近くに石を入れてみようとアイテムボックスと念じると自分のななめ右辺りに直径10㎝ほどの小さなブラックホールのような穴が現れたので、入れてみるとアイテム画面の一番左上の枠に石の絵が表示された。
その枠を押してみると石ころと書いてあり、石の画像とその下に「ただの石ころ」と表示された。
さて次にジョブを開いてみる、単語の意味からするとRPGでいう職業みたいなものか。
[異邦人]
・異邦人 Lv.1
職業なのかこれ? 一番上の一と書かれた枠にも同じように異邦人とあり、どうやらすでにセットされているようだ。
多分さっきのステータスの補正はこれのおかげだろうとさらに詳細を表示するよう念じるとこう書かれていた。
異世界から流れてきたもの。
効果 全ステータス補正(極小)
そして次にスキルを開くといくつかあった。
[特殊スキル]
・異世界言語技能
・必要経験値減少
・獲得経験値上昇
・スキル・ジョブ入手条件緩和
おおっこれはありがたい! てかかかなりチートっぽいな。やはり経験値の概念もあるようだ。特殊スキルという事は一般じゃないって事か?
まぁそうだろな。誰しもが持ってたらみんな英雄だろうしな。
というか完全にネタバレじゃないか。やっぱり異世界なのか。まぁ試してみないことにはわからないがとりあえず、言葉の心配はいらなそうだ。
言葉が通じずいきなり牢獄なんてまっぴらごめんだ。
次はお待ちかね固有能力をみる。
RPG化
???
なるほどな。この画面はこれのおかげか。
RPG化には『メニュー操作、特殊スキル』と書いてあった。
さっきのはジョブじゃなくてこっちのおかげだったのか。
その下の???についてはまだわからなかった。多分まだ使用不可能なのだろう。
残りの二つのうち一つのパーティは案の上、俺の名前しかなかったが俺を除くと5つの枠があったので六人で一パーティとなるのだろう。
最後の設定では背景の色や文字のフォントなどまさに設定が変更できた。どんだけRPGなんだ。なかでも表示設定というところを任意にしてさっきの石ころを意識して見てみると石ころの上に石ころと表示された。
隣でぐーすかと寝ている白い狸のようなものをみると「ホワイトラクーン」と表示された。
そのまんまかいっ!と思ったが多分スキルの異世界言語技能が適当に変換してくれているのだろう。ただこれは表示のみの機能のようだ。
よし、これでまぁ大体の能力は把握できただろう。
確認をし終え一息落ち着くと周りを改めて見渡す。そしてなんとなく前の世界のことを思い出す。
……まぁどうせ前の世界にはあのくそ親父しかいねし、どうせいなくなったことにも気づかんだろ。他にはそこそこ仲の良かった友達やそれにあいつのことは気がかりだが……ん?あいつ?あいつってだれだっけ……?
うーん、だめだ思い出せん。
なんとなく心に引っ掛かりを感じるがまぁ思い出せないなら大した奴じゃなかったんだろう。
とりあえず、異世界に来てしまったんだ、確かに戻りたい気持ちがないわけじゃない。不安だってある、だけどせっかくなら違う世界を見て回りたい。なにか使命があるわけじゃなさそうだしな。なんにしろまずは生き残らなきゃな。異世界に来たがいきなり死にましたは御免だ。
近くに村か街に辿りつけるかわからないが、いつまでもここが安全とは限らない。まだ日も高いし、まずは森を抜けて人里を目指すか。
そうして、俺は勢い良く立ち上がり歩き出した。
風に吹かれて消えてゆくのさ。
ちなみにステータスの値は括弧の中の数値を含んだものになります。
あと次回から特殊スキルは省かせていただきます。
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