白銀の騎士
今日も今日とてギルドに出かける。夢の為には大量の魔石が必要だという事で早速、効率よくがっぽり魔石が稼げるクエストはないものかと朝早くからギルドに来たものの……
そんな都合のいいことなどはなく、あるのは塵ほどにもならない常時クエストか、護衛、土木工事の手伝い、倉庫整理、犬の散歩、……etc.
あるとすればこのパーティ推奨の緊急クエストか……。
「なーに悩んでんだよ。 アタシとあんたがいりゃ十分だって」
「簡単に言うな。 どれだけの数がいるかわからないんだ。 いくら力があっても数の暴力には敵わないことはまれによくあるんだよ」
「やだねー。 ぴよっちゃって、このピヨ吉が! かあさんお前をそんな子に産んだ覚えはありません!」
「……いくら煽っても今日は乗らんぞ」
「ちっ!」
俺の隣で浮かんでいるパティと話しながらどれを受けようか悩んでいた。 そして、一応張り出されたクエストを見てみようと手を伸ばしたその時、 にゅっと隣から透き通るようなきめに細かい肌をした綺麗な手が伸びてきた。
「「……ん?」」
手を伸ばしてきた相手を見ようと隣を見ると、相手も同じことを思ったのかちょうど目が合った。
そこには、少し前にハンナさんの宿で朝の稽古の時に会った銀髪の美少女が立っていた。
目線からいって俺より少し低いくらいか。
銀色のプレートメイトに細身の綺麗な装飾の施された剣を携えた美少女。
その後ろには濃い黒のような紫、褐色の肌、長い髪を後ろで結んだ少し気の強そうなメイド服の美女がいた。
「ん……君は、あの料理の美味しい宿で会った……」
「ホープだ。 ランクはこの前Cランクに上がったばかりだ。 それで君は」
「ああ、すまない。 名前を名乗っていなかったな、私の名はクリスティ……いやティナだ。 後ろは私の連れでアナミナという、 今は二人で組んでやっている、ランクは同じくCだ」
「お嬢様のお世話をしております、アナミナと申します」
そういって、上品に前に手を重ねゆっくりとお辞儀をする。
「……どうやら複雑な事情の様だな。 敬語じゃなくていいのか?」
「ああ、必要ない。ただ昔、家が騎士をやっていたというだけだ」
「それで……失礼ですが、ホープ様の隣にいらっしゃる可愛い方はどちら様ですか?」
「は? 何を言っている、アナミナ。 誰もいないじゃないか?」
「お嬢様のその大きいだけのなんの役にも立たない節穴の目ではお見えになられないかもしれませんが…… 確かにおられますよね? ホープ様」
……こいつ今、とんでもない毒吐かなかったか? 隣では若干ティナが涙目になっている
「……お前、パティが見えるのか?」
「ええ、これでも攻撃するだけの脳筋お嬢様と違い、少々魔法を嗜んでおりますので。何か魔力のような塊があり空間を歪めていましたので」
「いや……私だって少しは……」
やっぱり間違いないこいつとんでもない毒舌女だ。
隣では完全に涙目のティナが立っている。
「……パティ、出てこい」
「あっちゃー! みつかっちったか!」
姿のパティがすっと現す。 これはさっき知ったのだが妖精は基本的に人には見えないが、もし存在を認識された場合は、その相手の前にに姿を現さなければならない掟らしい。ちなみにパティはその気になれば自由自在に姿を見せることも声を出すことも消すことも変身しなくとも出来るそうだ。
あのふざけた変身は対人用とあとはただの趣味というかほとんど趣味だそうだ。
ちなみに通常のあれもほんとの姿ではないらしい。なぜあれなんだというと省エネの為とその方が妖精っぽいからだとか。
休話閑題
「ああ……やはり妖精の方でしたか」
「ん? どういう事なのだ? 何かいるのか?」
「パティ」
「ちっ、しゃあーないのー」
ティナにも見えるようにパティが調節する。
「な、なななにゃんだ!? 急に珍妙な小人が空中に!」
「ああん!? 誰が珍妙じゃわれ。 ちょっとあるくらいで調子のんじゃねーぞ。 ああん!?」
「ど、どこを見ておるのだ……!?」
「パティ……」
「その通りでございます、お嬢様。 そんなものはただの脂肪の塊です。 調子に乗らないでください。」
「な、なんなのだお前まで!」
「お前らなぁ……」
その後、パティについて簡単に報告しておいた。 アナミナはそうですかと逆にこっちが驚くほどに
簡単に受け入れたが、ティナの方はそんな話は聞いたことがない、とずっと騒いでいた。
* * *
「それはともかく、このクエスト受けるのか?」
「ああ……いや、受けようかと悩んでいたのだ。 このクエストは緊急クエストだ。 もし対応が遅ければこの町にも被害があるかもしれない。 このクエストはパーティ推奨だ。 確かに私たちはパーティを組んでいるがたった二人だ。 パーティは基本六人で一パーティ。 ゆえにこのクエストを受けるか悩んでいた。 それに今は正直入用でな……このクエストはその、報酬がいいのでな」
「まぁこちらも同じようなものだ。 どうするか悩んでるところだった」
「そうか! ならばこのクエストだけでいい。 私たちと臨時パーティを組まないか? 」
「そうだな……いいかもしれない。 どうだ、パティ」
「えー、私たちで十分だろ? それに取り分が減っちまう」
「……確かに、報酬は半分になってしまうが……」
「うーん……ならばどうだ? 実は俺たちの目的は魔石の方なんだ。 俺たちは魔石をお前たちは報酬と魔石以外の素材ということで?」
「そうか! それならば問題ないな! どうだ、アナミナ?」
「お嬢様がそうおっしゃるなら私は異存ありません」
「パティお前は?」
「んー。 このおっぱいねーちゃんは気に食わないが。マナが手に入るなら我慢するかー」
しぶしぶといった感じで了承するパティ。
「なら、成立だな。 これからよろしく頼む」
「ああ! こちらこそよろしく頼むぞ!」
そういって右手を出して来たのでそれに応じるように握手する。
女性特有の柔らかな感触に少しだけドキドキした。
「それでその臨時パーティとやらはどうやってやるんだ?」
「ああ、まずはギルドで登録しよう」
そういってちょうど居たトリスのカウンターへ向かった。
「ちょっと! ホープさん! なにやってたんですか!? ちょっと騒ぎになってましたよ!」
「ああ、すまない。 ちょっと話し合いをしててな」
「もう、今日は人が少なかったからよかったものの、気をつけてくださいね! 目立ちたくないんですよね?」
「ごめんごめん。 今度から気を付ける」
そんな俺たちの様子を見ていたティナがトリスに話しかける。
「トリスはホープとは普通に話しをするのか。 なにやらずいぶんと仲がいいのだな」
「ひっ、ティ、ティナさん。 そ、それにア、アナミナさんも」
「お前たちと話すときは違うのか?」
「ああ、年が近いのでな。 話しやすいと思って最初にいったのだか。 どうしてか、私やアナミナにはずっとこの調子なのだ」
「ああ……こいつ、あがり症で対人恐怖症だからな。 特にティナは話し方が騎士っぽいし、アナミナは雰囲気が少しきつそうだからな、びびっちまったんだろう」
「そうだったのか。 それは知らなかった。 すまない。 ならばそう言ってくれればよかったのに」
「す、すいません!」
「いや、怖がらせるつもりはなかったのだが」
「ところでトリス。 臨時パーティってのを組むにはどうすればいいんだ?」
「り、臨時パーティですか? えーっと、それではパーティとなる方全員のギルドカードを出していただけますか?」
「わかった」
そういって、俺たち三人のギルドカードを出す。
「はい。ではホープさん、ティナさん、アナミナさんのお三人でよろしいですか?」
「ん? ティナの分はいいの……ぃった!」
言い終わる前にアナミナがティナの頭を叩く。
主人の頭をメイドがど突いてもいいのだろうか?
「な、何をするのだ、アナミナ」
涙目でアナミナを見るティナ。
「先ほど聞いたことすら忘れる空っぽの脳みそしかないお嬢様は黙っていてください」
「ひ、ひぃぇぇぇぇ」
そのやりとりを見て耳を折って頭を抱え、机の下に縮こまるトリス。
「そんなびびらんでいいから、トリス。 続けてくれ」
「は、はい。 ではパーティ『栄光の騎士』にホープさんが臨時で加わるということでよろしいですか?」
「『栄光の騎士』?」
「うぅ……それは私たちのパーティの名だ。 いい名だろう?」
頭を擦りながらティナが言ってくる。
「そ、そうか……ああ、それで構わない」
「はい。ではパーティのリーダーはどうしますか?」
まだ痛そうにするティナに目を向ける。
「私はホープがリーダーで構わないぞ」
「お嬢様が言うのであれば、私もそれで構いません」
「……そうか」
「それではリーダーはホープさんでよろしいですね?」
「ああ。頼む」
「それでは、これで臨時パーティ登録完了しました」
そう言って、カードが返される。
その時ピローンと音が鳴る。 とりあえずそれを無視したままトリスに話しかける。
「ありがとう。 それで、ついでにあの緊急クエストを受けたいんだが?」
「はい。 ゴブリン討伐の緊急クエストですね?」
「ああ。それだ」
「はい。それではリーダーであるホープさんだけでいいのでもう一度カードを提示していただけますか?」
ああといってまだ腕輪に戻す前だったカードを渡す。
「はい。 これで完了です。 でも気を付けてくださいね! しっかりとした数は把握されてないので無理をせず、もし危険と判断したら迷わず帰って来てくださいよ!」
「ああ、わかってるよ。 今回は俺だけではないからな、そこら辺はしっかり判断するよ」
「ならいいです。 ほんとちゃんと帰ってくださいね」
「ああ。帰ってくるよ」
そういって心配そうに釘をさしてくる。
「ほんとに仲がいいのだな。 安心しろ、トリス。 ホープは私がしっかり守ってやる!」
「え? は、はい。 えーよろしくお願いします」
「……うわぁ」
パティの変な声を上げる。 当然、周りには聞こえてない。
「すいません。 こういう方なのです、お嬢様は」
「何の話だ?」
「……じゃあ、行ってくるよ」
「えっ、あっ! はい。 気を付けてください!」
心配するトリスを背にみんなでギルドを後にする。
ついにヒロイン?登場しました。
そして毒舌メイドさんも。
ディナーの後に謎解きはしません。