バウハウス
町に帰った翌日、目を覚ますと隣には緑髪三頭身の幼女が寝ていた……ということはなくさすがになく昨日はハンナさんのところで狸の姿のまま上手いことみんなから料理を餌付けさせお腹いっぱいになると今度は夜中まで酒を飲んでいたらしくべろべろになるまでただ酒を飲むと森に帰ったようだ。
さて、まずは朝の日課からだな。
ぐっと一度背伸びをしたら階段をおり、井戸に行き顔を洗うとすでに日課となった朝のスキルの動作確認をするして軽く汗を流すと井戸で汗を流し、朝食を食べに食堂に向かう。
「おはうようございます。 ハンナさん。 昨日はパティがご迷惑お掛けしました」
「ああ。 おはようさん! ホープ。 ああ、昨日の白いたぬっころのことかい? いいよ。 お客たちも気に入ってたようだしね。 迷惑は掛けてないよ」
「そうですか。 それじゃあお詫びにはできませんけど、いつもお世話になっているお礼ということでこれ。……よかったらこれでおいしいアプルパイをまた作ってくれませんか?」
そう言って袋から出したように見せかけてアイテムボックスからゴールデンアプルを取り出してカウンターに置く。すると大きく目を見開いたハンナさんは驚いたように言った。
「……あんた、これ。 ゴールデンアプルじゃないかい!? どうしたんだいこれ!? 今年はまだ市には出回ってないはずだよ!」
「いや、昨日その妖精の森辺りを通ったんですけど道に迷ってしまって。 その時に迷ってるうちにたまたまゴールデンアプルがなってる木を見つけたんですよ。 でもどうやって行ったのか覚えてないんでもう一度そこに行くのは無理でしょうけど。 それでその時帰り道を教えてくれたのがさっきのパティだったんですよ。」
「そうだったのかい。 そりゃ運がよかったねぇ。 もしかしたらパティちゃんは精霊の使いなのかもしれないよ」
「……はは、そうかもしれませんね。 それにあいつはアプルパイが大好物みたいなんでまた作ってあげてくれませんか?」
「そうかい。 そういう事ならいっぱい作ってやらなくちゃねぇ!」
「ええ、よろしくお願いします」
「やだよ。もとはあんたがくれたもんなんだ。それぐらいお安い御用だよ。 まったく、ありがとねぇホープ。 さぁ、朝ごはんは出来てるから今日もいっぱい食べていっぱい稼いでおいで!」
そういって山盛りの具だくさんスープとパンを出してくれる。
「はい! いただきます!」
* * *
さて今日は何をするかといえば、老樹エンティアに言われた家を探そうと思っている。
もしかしたら、この町にもあるかもしれないと言われていたからだ。
確かに今の宿は人もいいし、料理も美味い、居心地も最高だ。 しかしいつまでも甘えるわけにはいかない。ハンナさんにいうと怒られるだろうが、結局俺は客でしかない。 いつまでも世話になり続けるわけにもいかないだろう。俺の為にも店の為にもその方がいいと思う。それにこれからも夕飯を食べに行ったり料理を習いには行くつもりだ。
さて、そうと決まればまずあの飲んだくれを呼ぶか。 ええーっと、どうやってどうやって呼ぶんだっけ? ……ま、まぁとりあえず呼びかけてみるか。指輪に向かって呼びかけてみる。
「おーい。 パティー。 聞こえるか?」
あいつ二日酔いか?
「おーい! ちんちくりん妖精! 短足! 寸胴体……」
「誰が寸胴じゃあー!!ってホープかよ。 ああ~頭いて……」
「飲み過ぎだ。 ところで、この指輪壊れてるぞ」
「壊れてんのはお前の頭だ。ったっく。 ああ、そういや使い方教えてなかったか? ふぁーあ……んんーっと! そいつに魔力を送ってみそ。 少しでいいから、そんでアタシが来るよう念じてみなさい」
「お前の頭が壊れろ。 っと……こうか」
少し時間が掛かったが魔力を少しだけ指輪に送ってみる、すると指輪の石が少し光る。 そして、パティをイメージしながら来い!と念じると頭に重さを感じる。
「じゃじゃじゃーん! パティちゃん今日も可憐に登場!」
といって俺の頭で両手を上げてクルクル回るパティが現れる。
「頭の上で回んな!」
ぶんっと頭の上で手を振るとひゅっと飛んで目の前に森であった時の妖精の姿で現れる。
「おはよー! のんたん! いい朝だねー!」
「人を白いくまみたいに呼ぶんじゃない。 てか人前ではホープって呼べっていったろ」
「まぁまぁ。人には見えてないから大丈夫だしょ」
「だしょて……。 声は聞こえるだろ」
その時、後ろから声が掛かる。
「おーい!アニキ! おはようございま……べほまっ!」
ザキが最後までいい終わる前に駆け出すとドロップキックをぶちかました。
「おお! オカ○ばりのいいドロップだ!」
「なるほど、あれがドロップキッ……あれー!」
ドロップキックをかましたあと倒れている体制のまま、横でメモを取っているヤマの足を掴むをホールドし内側に回転する。
「次はドラゴン・スクリューだー! いいぞー! もっとやれ!」
そしてそのまま流れる動きで四の字を決める。
「痛い痛い痛い痛い! 無理、無理です! アニキ」
そうしていつの間にか百十センチほどになった、着物姿の童女パティがだん、だん、だんとカウントを取り始めた。
「わん! つー! すりー! かんかんかん!」
と言いながら手を交差しながら振ると俺の腕を取って上にあげる。するとザキが起き上がってくる。
「い、いやー。 今日の勉強になります。 今日はプロレスってやつっすね? ところでさっきからいるその変わった服着た可愛い嬢ちゃんは誰っすか?」
「かわいい!! よし! よくいった! アネゴということをゆるしてやろー! なでろなでろー!」
「……はぁ。 なんでもない。 今日はいつものセット三回やっとけ。 じゃな。 行くぞーパティ」
「あいよー!」
ザキに撫でられてたパティがとことことやってくる。
「「ありがとうございましたー!」」
そういってザキヤマ兄弟が頭を下げてくる、全部を俺がやっていたのをいつの間にか真似していた。
「ところでなんだその格好は?」
「パティちゃん座敷童バージョンだ」
「……そうか。 それより今日はお前の親父さんが言ってた家を探すぞ。 どこか知ってるか?」
「おおー。 あれね。 場所は知らねえけど、場所を知ることはできるよ」
「なに? どうやって?」
「ん? 爺さんの生命力を探って、うーん……ちょい待ち。 むむ! こっちか!」
両手の人指し指をこめかみに当て目をつぶるとそれらしい場所を見つけたらしくバッと前を向くと駆け出した。
「おい! 急いぎすぎてこけんなよ」
だだだっと駆けるパティを見失わないように追いかけると住居地区に行くかと思いきやどうやら広場の方に向かっているようだ。 そのまま広場に出るとクレープを売ってる出店に並んだ。
「家、見つけたんじゃねぇのかよ! なにクレープ買おうとしてんだよ!」
「おじさん! このちょこばななくれーぷください!」
「なにナチュラルに注文してんだ!」
「はい。 バナナクレープお待ちっ!」
「おやじも渡すんじゃねぇよ!」
「はい。 3カルクスな。」
「金取るのかよ! 俺が作り方教えてやったんだろ!」
「「ケチだね~」」 おやじとパティが顔を合わせてハモる。
「可愛くねぇんだよ。 ……ったく。 ほらよ。 3カルクス。 いくぞ、パティ」
パティの後ろ襟を掴み引っ張っていく。
「じゃなーおやじー。 うまいぞーこれ」
と言いながらパティがおやじに手を振る。
「おう! ありがとな! また来な、嬢ちゃん! それとホープもな」
* * *
「はー美味かった。 よし、じゃあいくか!」
「……頼むぜ。 ほんと……」
ぴょんと噴水の淵から飛び降りると歩き出した。
「大丈夫だよ。 そろそろだから」
そう言うと北の通りに抜ける道に入ると今度は左の小道に入った。
「ここは……大体防具屋があった通りの裏辺りか……」
すると、急にパティが止まる。
「なんだ行き止まりだぞ……使えん奴だな」
「へっへっへっ。まぁ待ちなって。 もらった鍵に魔力を込めてみな」
「鍵? ああ、あの枝のことか」
アイテムボックスから『神樹の枝』を取り出すと魔力を込めてみる。すると『神樹の枝』が、ぱーっと輝いたかと思うと枝の根本の方が鍵の形になった。すると、んっとパティがその行き止まりの塀をあごで指すので、その塀に近づいてみるとその塀の壁がぎゅるっと歪んだかとおもうと濃い赤茶色い屋根に木の柱、薄い橙っぽい茶色の塗り壁のいかにも中世といった二階建ての家が現れた。そして目の前には横に切った楕円形の木の扉があった。
「勝手に人が入り浸らないようにちゃんと偽装の魔法が施してあんのさ。 その鍵に魔力を込めると主人として認められられ扉が現れるって寸法よ。セ○ムもびっくりのセーフティーだろ?」
「セキュリティな。 まぁ似てるけども……にしてもすごいな。 とりあえず中に入ってみるか」
「いこう、いこう」
虎が輪っかを咥えた鉄製のドアノブの下にある鍵穴に鍵の形になった『神樹の枝』を差し込みゆっくりと回す。するとガチャンッと中で丈夫そうな鍵が外れる音が聞こえた。ゆっくりと鉄のノブを引きギギッという音とともに扉が開かれる。
「「お、おおーっ」」
扉の先はすぐ階段があり、ちょうど俺の肩ぐらいの高さにフロアの床があった。その短い階段を上がるとそこは木造の木のいい香りのするリビングダイニングになっていた。大体20畳ほどのその部屋は必要最低限の家具、四人掛けのテーブルと四脚の椅子、二人掛けのソファしか置いてなかった。右手には調理用なのか暖炉がある。その横には調理台、水が出る樹が付いてるの流し台があり、左奥には納屋らしき部屋。さらに左奥には二階への階段が見える
階段の先には真っ直ぐ廊下があり、左手には窓が付いている。どうやら北の通りのようだ。どうやら外観と中身の造りはまったく関係ないらしい。廊下の左手には二つドアがあり反対側の廊下の先にももう二つドアがある。まず目の前の二つ続いたドアの先はどちらも4.5畳程のベッドと机があるだけのシンプルな部屋だった。反対側の廊下の先のドアはシャワーとトイレだった。シャワーヘッドが樹だったのがファンタジーだな。
「いやー結構いい家だな。 綺麗だし思ったより高機能の設備がついてるし、ただお風呂がないのは痛いな」
「ふー二人で住むにはちょうどいいね? のんちゃん!」
「お前の部屋はないけどな」
「えー! やだやだ! やだやだやだやだ……」
床で駄々をこねているあほを無視していると、ふと正面の壁に何かあるのに気づく。
「……ん? なんだ?」
近づくと目の前の壁に半透明のガラスのような画面が現れる。
HOME画面 総マナポイント 0ポイント
・レイアウト
・増改築
・設備増設
・アイテム購入
・現在状況確認
「うーん? なんだなんだー?」
パティが起き上がってくる。 相変わらず立ち直りが早いやつだ。
「なぁ……この『マナポイント』ってのはなんだと思う?」
「えー? ああ、多分魔物から取れる石のことだね」
「石? ……ああ、魔石の事か。 なるほどな」
「ふーん、これで色々弄れるわけかー」
「勝手にいじんなよ」
「……ちっ」
色々と触って確認してみたところ、レイアウトは現在の家具、設備、部屋の移動が出来るようだ。 増改築はそのまま、家を大きくしたり増やしたり出来るようだ。 設備増設はそのまま設備を増やす、または新たな施設も増やせるようだ。 アイテム購入ではアイテム、小物から家具に至るまで色々なアイテムを購入出来るようだ。最後はそのまま現在の状況が確認出来る。 どうやら、レイアウトと確認以外の何かを増やす場合はマナポイントつまり、魔石が必要になるようだ。 当然大きさやアイテムの質によってポイントが変わるようだ。
さっそく、アイテムボックスに残っていた、スプリングマウスの魔石を入れてみる。ポイントのところを触るとマナ追加とあったので触ると壁から木の受け皿が出てくる。魔石を置くと壁に飲み込まれていった。 すると総マナポイントが300ポイントになった。これで一番下のランクの家具が一つ買えるくらいのポイントだった。
「まず風呂に、家財道具に、冷蔵庫……うーん、色々買わなきゃならんものが山ほどあるな……」
「にしてもなんでもあるねー。 おっ! ゲーム機まである」
「……はっ? いやいやそれはおかしいだろ?」
「だってあるぜ。 ……ほら?」
「ほんとだ……」
この場に俺たちだけだったから気づかなかったが、確かにおかしなことだらけだ。
暖炉はいい。だが水が出る樹の流し台、というかそんな水道みたいなシステムってこの時代にあるのか? 井戸から水を汲んでくるもんじゃないのか?
ハンナさんのところでは毎回井戸から水を汲んできていたし。何よりシャワーがあるってのはおかしいだろ、銭湯はあったがシャワーは見たことがない。多分、他の『流し人』の来た世界もしくは時代にはなかったんじゃなかろうか。
「これ……もしかして俺の記憶が影響を与えているのか?」
「それはあるだろうねー。 じゃないとこんなハイテク製品ないでしょ? まぁかなり魔法で代用されてるみたいだけどさ」
「そうみたいだな……冷蔵庫じゃなくて魔冷蔵庫になってる」
「まぁ便利になるならいんじゃない? その分かなりポイントが掛かるけど」
「ますます、夢が広がるな」
「しかしその夢にはかなり遠そうだけどねー」
「なら頑張って稼ぐぞ!」
「風呂のために!」 「マ○オのために!」
「「おー!!」」
こうして俺たちは拠点を手に入れた。
ちなみにその夜、言いづらかったがハンナさんに家に移ることを話したところ
「なんだい! そんなことかい。 そんな事、気にしなくていいんだよ! その代りちょくちょくうちに顔出すんだよ」
とやっぱり気持ちよく言ってくれ、さらにそれなら色々必要だろうとお古の調理道具を譲ってくれた。
やっぱり、ハンナさんには敵わないと改めて感じたのだった。
いやーいい家でしたね。
ちなみに一番好きなプロレス技はフランケンシュタイナーです。