さよなら、綺麗な私
冷淡に考えようとしてみても、やっぱり涙がこみ上げてくる。ああ、私汚れちゃったんだって。
元が綺麗かどうかなんて関係なくて、それに、いつかはそうなるってことも分かってる。けど、中一は速いよね。まだ半年前までは小学生だったのに、これから楽しいこと一杯あるんだぁって毎日が輝いて見えたのに、父さんのせいで、風景も霞んで見える。
誰かに父親に犯されたってばれるのが怖くて、暫く学校にも行っていない。お母さんは元から忙しいからまだ気付いてない筈。
私のお母さんはとても汚い人間です。綺麗な笑顔と優しさで、たくさんの家出した女の子を集めて、体を売らせてます。けれど、自分は父さんに愛されて幸せに暮らしています。
カチャリ、とドアノブが動きかける。でも、鍵を掛けてあるから中途半端な位置で止まってしまう。ドアの向こう側で、低く舌が鳴った。
「玲、起きているんだろう?」
酔っているのか、呂律が回っていない。
「何か用?」
「鍵を開けて中に入れてくれ」
懇願するような声、気持ち悪い。
「それでまた、私を犯すの?一回したからもう良いだろうって?ふざけんなよ」
ぼそぼそと何かを言っている。どんな言い訳も聞きたくない。
「玲、話し合おう・・・」
「何を?ねぇ、何を話すって言うの?あんたが、話し合おうって?ってゆーか、気持ち悪いんだよ。自分の娘に欲情しやがって、別にお母さんに言っても良いんだよ?」
この男は、父さんは金持ちの資産家の御曹司として生まれて、政略結婚をさせられて、お母さんを唯一愛した。財産目当てだった他の女とは違って、お母さんは無条件に俺を好きになってくれた、俺が愛してるのはお母さんだけなんだよって酔うたびにそう言ってきた。
それを、裏切ったんだ、この男は。
「あんたと話し合う気なんてない、おやすみ」
そう言って電気を消して、息を潜めた。暫くして、苛立たしげに廊下を歩く音が聞こえたから、もう今日は諦めたんだろう。