悪役令嬢の領地を攻める将軍の話
「プギュウー!また、失敗だと!この無能が!」
俺はユルゲン・ダッケ。今、陛下に叱られている最中だ。
陛下が直々に戦場に現れ逆感状を出されている状態だ。
ああ、感状って表彰状みたいな物で貴官の部隊の奮闘に感謝するとか書かれた紙だ。
数万の大軍をようしながら、たった3千の諸候を殲滅できないのだ。
敵は公爵家、陛下の元婚約者の家門だ。
陛下は婚約破棄をされて、更に討伐する決定をされた。
意味不明だろう?
数々の将軍が失敗して粛清、7番目の序列の俺が将軍になったのさ。
「陛下、大変申訳ございません。和平を検討されては・・・」
バギと大きな音は俺の頭から発した。
陛下が物を投げたのだ。足下を見ると文鎮が転がっている。
「キャア、陛下、怖い~」
「フリンダ、君を叱ったわけではないよ」
陛下の隣には男爵令嬢がいる。
全く、やってられないが部下の前で顔に出してはいけない。
ただでさえ低い士気が更に落ちる。
ワザとおちゃらけて部下に言った。
「陛下に叱られちゃったぜ」
「将軍閣下、今手当をします!」
さあ、どうしようか?
公爵令嬢の領地は山に囲まれている。
大きな道は1箇所のみだ。
そこを攻めると次々に兵は倒れる。
地面が爆発する。小さな鉄のツブテが飛んで来る。
「もしかして、黒髪族がらみか・・・」
黒髪族って一説には異世界から来た民族だ。
不思議な事に茶髪や金髪もいるが、時間が経つと黒髪になる。瞳は決まって黒だ。
色素が抜け落ちる様が不気味なので黒髪族と云われる。まあ、月のない夜の漆黒だ。
たった1人ついただけでも厄介だ。妙なスキルを持っている。
だから、こちらも大金をはたいて黒髪族を雇った。
「ケンイチ・ミタテです。ジョブは錬金術師です。ミリタリーにも詳しいですよ」
「よく来られた」
二十代前半か。それとも10代か、年齢が分からない。ケンイチ殿から事情を聞いた。
「地面が爆発するのは地雷です。鉄礫は銃ですね。私も銃を作りました」
「本当か?是非、我が軍に提供を願いたい」
説明を受けた。
「風魔法を応用して作りました。100メートル先の敵を倒せます」
「ほお、これで敵と同じ武器を持っていることになるのか、是非、買い取らせてくれ。それと地面が爆発するのは?」
「地雷は対戦車地雷でしょう。あれは振動式、磁気感知式です。大軍による振動で起爆したのでしょう。少数精鋭でゆっくり進めば安全です。踏んでも大丈夫です」
「そうか、そうなのか?」
銃を10丁ほど持たせて分隊で行かせた。強行偵察だ。
「ケンイチ殿も是非前線へ」
「えっ!」
驚いた顔をしている。
「実証は錬金術師の誉れだと聞きましたが・・・」
「でも・・」
無理矢理行かせたが。
ドカーーーーン!
爆音が響き黒煙が柱にように空に立った。
騎士達が戻って来た。ケンイチ殿はいない。
「ご命令通り先頭を歩かせたら、飛び散りました」
「肉片になったので遺体の持ち帰りは出来ませんでした」
「そうか、ケンイチ殿、武勲の戦死をされた。敬礼!」
・・・やっぱりダメか。ケンイチ殿、何故か他人事のように話した。
だから奴を行かせたのだ。
「銃はどうだった?」
「全く役に立ちません。弓の方がはるかにマシです」
「そうか・・・敵の銃が優れているのだな」
それから王国から使者が来た。
「ダッケ将軍閣下、陛下から攻めよとの王命でございます」
「あ、そう・・・準備中だと伝えておけ」
ここから王宮まで20日、いや、早馬で10日か。
後10日で勝利して戦勝報告をもたらせて20日。
20日で連絡がないと俺の処刑をつげる使者が来るな。弱小騎士爵の子息だもの。
俺の出来る事はこのまま領地を囲い。塩攻めにすることだ。
あの領地は自活出来るが塩だけは他領地からの交易に頼っていた。
逆に攻めては来ないだろう。
しかし、
「見張りだけは厳重にしておけ!」
「「「畏まりました」」」
あらゆる所に高台を築いて決死の見張りを立てた。
何故なら、見張りは銃とやらに狙われた必ず死ぬからだ。
謂わば、見張りは鉱山のカナリアだ。
「おう、見張りを交代するぜ」
「将軍閣下!」
「1人分だけどな。相談して休め」
1日一回は兵の代わりに見張りを交代した。
しかし、次の日の夜。俺が休んでいるときに。
攻撃を受けた。
「敵襲です!」
「な、何だと!」
戦死者数百名、同士討ちも含まれている。
遺体を確認したら、小さな穴が空いている。鉄礫と、金属の丸い物が落ちていた。
「馬鹿な。ネズミ一匹入れないようにしていたのに・・・」
「申訳ございません!」
「見張りは?」
「全員、気がついておりませんでした!処罰します」
「やめておけ。黒髪族がらみだ。どうせ人智の及ばない力だろう」
どうする?大軍で無理攻めをするか?
まるでチェスのコマのようにバタバタと倒れた様子が思い浮かぶ。
そろそろ俺の処刑の使者が来るか?
俺は敵公爵に使者として赴くことにした。一応、スキル鑑定魔道具をつけておく。方眼鏡だ。
一人丸腰で両手を挙げて谷間を歩く。
何千人もの死体を重ねた谷間の道だ。死体は既に片付けられていた。
すると、一人の少女が現れた。斜面の岩陰に隠れていたのだろう。全身マダラ模様の騎士服だ。鉄兜までマダラ模様で工房眼鏡をかけている。黒髪族か?
背中に何か背負っている。あれが銃か?木と鉄で出来た魔道具というイメージだ。
それを構えながら出てきた。
「誰か!」
「ユルゲン・ダッケ。ファルコ王国将軍だ」
一瞬、目が見開いた瞳は工房眼鏡越しでも分かった。色は茶色だ。黒じゃない。
鉄兜からのぞく髪も茶髪だ。つまり、この女神の地の民だ・・・・
鑑定眼鏡に反応しない。スキル無しの平民か・・・
「この道をまっすぐ進め」
「了解した」
少女が俺の後ろにつき、銃を構えている。
谷間では丸い何かを埋めている作業員を目撃した。
「あれが地面を爆裂させる魔道具か・・・」
「そうだ」
「あれは人が乗っても爆裂しないのではないのか?」
「重武装の者が乗ったら爆裂する。それは間違った認識だ。そう言い切るのは馬鹿だとマスターが言っていた」
マスター、やはり師匠がいるのか?
あまりにもあっけらかんに軍事機密を話す少女に戸惑いを隠せない。
「良いのか?」
「どうせ、爆裂する何かだと分かっているだろう・・・それにこの意味が分かるか?」
谷の壁に埋めている。なだらかな斜面だ。
と言う事は大軍が通ったら生き埋めになるのか?
公爵の屋敷に着いた。
「ご挨拶を申し上げます。ダッケ騎士爵の子息ユルゲンでございます」
「久しいな。成人の時以来か・・」
普通に会話した。
「降伏して頂けませんか?このまま戦っても未来はございません。いずれじり貧になります」
「もう、どうあっても民を守らなければならない・・・それにご存じの通り黒髪族殿がついた。長引かせて義士が立ち上がることを願うのみだ」
「そうですか・・」
「ごゆるりと過ごして下さいとは言えないのが辛いところ、食事を提供します。食べたら帰られるるが良い」
有難く頂戴した。
とりとめもない食卓だったが、机の上には・・・
「これは塩?!」
「はい、黒髪殿が異世界から召喚して下さいました」
みたら、贅沢にもガラスの瓶か?綺麗な真っ白な塩が入っている。
更に異国の文字が綺麗に瓶に魔道で浮かんでいる。
塩攻めは無理か・・・
「さあ、帰りは人と馬をつけます。帰られるが良かろう」
「はい、有難うございます」
送りオオカミはあの少女でも黒髪族でもない。
この世界の騎士だ。
俺は振り切った。
「ちょっと待たれよ!」
馬を走らせ。演兵場に赴く。
いた。訓練をしている。
「ほふく前進!第5!」
この地の兵士が地面を伏して進んでいる。これは・・・・
その時、声をかけられた。
「やあ、敵さんかい?」
振り向くと黒髪族だ・・・30代前か・・・笑顔だがケンイチ殿とは違う。闇のある笑顔だ。
「マツナガ殿!そいつは敵の将軍です」
するとそのマツナガと言う黒髪族は笑った。
「分かった!見せてやろう。しかし、意味は教えないぞ」
ただ、兵が地面を這う姿を見せられただけだ。
片眼鏡でマツナガを鑑定する。
ピコン!スキル現代武器召喚・・・ジョブ、訓練教官、戦闘工兵、小銃手・・・
こいつか、武器の供給と訓練を請け負っていたのか?
訓練できるのか?黒髪族は一人で活動すると聞いていた。もし、黒髪族の能力で部隊をつくったら、そりゃ、恐ろしい事になる。
その後、公爵の騎士に叱られて陣地に戻った。
すぐにやったことはほふく前進とやらだ。
「将軍!何を・・・」
いいから見張りはそのままだ。
夜、ほふく前進をした。
そしたらすんなり我が軍の見張りを突破出来た。見張りは寝ていない。
「代われ!俺の代わりに地面に伏してくれ」
「・・・はい」
高台から見たら兵が見えない。暗闇では地面に近い者は見えないようだ。
普通、松明を焚いて夜襲をするのではないのか?
全く、予想外の事だ。
これで敵の夜襲できた理由は分かったが対処が分からない。敵は高度な集団行動が出来る。
どうしたらよい?
数日考えたら王国から使者、いや、陛下が来た。男爵令嬢と一緒だ。
「ユルゲン!処刑だ!余が直接指揮を執る!」
「陛下!意見具申し上げます。あの谷間の道は無理です。時間が掛かっても道を新たに作り攻略しましょう!」
「ブギュウー!メリングが生きていたら、フリンダが怖くて眠れない!そんな事も分からないのか?プギュウー!」
「いえ、公爵には黒髪族がついております。道には恐ろしいワナが仕掛けられています」
ああ、男爵令嬢がメリング様にイジメラレたとの噂を聞いたがガセだろう。
どうすれば良い?
王命に従い処刑されるのが是。
しかし、兵は?今度は恐らく数万の兵が生き埋めになる。
しかも。
「余はここで見ている!全軍出撃せよ!」
前線にも出ないか・・・・
解決する方法は一つだけある。
「陛下、申訳ございません。数々の失態のお詫びに・・・」
「何だ。ブギュウー!命乞いか?」
「陛下、失敗した騎士は処刑してあげるのが慈悲だわ」
「殺して差し上げます」
思いっきり剣を横に振るったら、陛下の首は空を舞う。
これもう、面白いほどに、まだ、首は飛んでも怒っている表情を崩さない。
バタンと太ったが地面に落ち。首も近くに降りた。驚いた顔をしている。見たのかな。自分の体を・・・
「ヒィ!」
口に両手をあて驚いている男爵令嬢も斬ってあげた。
「これでメリング様からの恐怖はなくなりますよ」
二人仲良くこの地に埋葬してあげた。
「皆の者に告ぐ!王宮に帰るぞ!不満のある者はすぐに軍を抜け。故郷に帰るのも王都に行き知らせるのも可だ。しかし、時間がない早く決めてくれ」
落伍者は・・・
「申訳ございません。母上が1人でおります」
「おう、親孝行をしてくれ、路銀を渡そう」
数十人だけだった。
「将軍閣下、これからどうされますか?」
「分からん!」
さて、この大軍で王都を占領するしかないじゃないか?
まあ、とにかく公爵と和睦しよう。とだけ考えた。
「あれ、公爵の言った義士って、俺か?」
嫌な感じがした。梟雄にもなれないし義士にでもなるしかないのか。
まあ、あの黒髪族とだけは相手をしたくない。
それが俺の行動原理だ。
最後までお読み頂き有難うございました。




