第3話:泥を舐める王子と、国を売った令嬢
王都外縁、下水処理区。
エドワードは、黙々と篩を動かしていた。
篩を振るたび、爪の隙間に入り込む汚泥が、
かつて座っていた玉座よりも重く感じられる。
「休むな」
監視員の声に、彼は頷く。
その時、異質な香りが漂った。
帝国式装甲馬車。
降り立ったのは、漆黒のドレスのレティシアだった。
「久しぶりですわね、エドワード」
「……見に来たのか」
「いいえ」
彼女は首を振る。
「制度が、正しく機能しているかの確認です」
労務条件。食事。医療。
淡々と確認される項目。
「……俺は罰を受けているのか」
「いいえ」
即答。
「あなたは、選んだ結果を生きているだけ」
(――ええ。これでいい。
これが、あなたの“愛”の着地点)
「あなたの労働は、王都の疫病を減らします」
「……聖女は」
「希望した職に就いていますわ」
保護ではなく、労働。
「……そうか」
去り際、レティシアは一度だけ振り返る。
「あなたが“何もしなかった王”として記録されるか、
“最後に働いた男”として忘れられるかは、
これから次第ですわ」
一拍。
「……ああ、帳簿はもう読めるようになりまして?」
馬車は去った。
残されたエドワードは、再び篩を握る。
馬車の中。
レティシアは帳簿を閉じ、静かに息を吐く。
(感情的な清算は終わり)
帝国は強大だ。
皇帝は慈善家ではない。
この国は、まだ彼女のものではない。
ただ、値札が付いただけ。
「さて……」
彼女は微笑む。
「いくらで売るべきかしら」




