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追放された悪役令嬢、帳簿一枚で王国を買い叩くことにしました ~金貨三千万枚の請求書を添えて。愛でパンは買えませんわ~  作者: かめかめ


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第10話:空売り(ショート)の断罪、あるいは神を名乗る詐欺師の最期

 大陸中央銀行は、レティシア・ヴァインベルクの要求を「交渉」ではなく「宣戦布告」と解釈した。


 彼らが選んだ手段は、剣でも毒でもない。

 数字だけで国家を殺す、最も静かで、最も残酷な暴力――

 帝国通貨〈帝国マルク〉に対する大規模空売り攻撃。


「レティシア様! 街が……!」


 財務総監執務室に駆け込んできたカシアンの顔は、青白かった。


「物価が一晩で三倍に跳ね上がっています! 民が銀行に殺到し、商人たちは取引を停止……このままでは――」


 言葉の続きを、彼は飲み込んだ。

 帝国が、本当に崩れる。


 だが。


 大窓から帝都の混乱を見下ろすレティシアは、

 まるで舞踏会の余興でも眺めているかのように、紅茶を一口啜った。


「あら。ずいぶん賑やかですわね。……でも安心なさい、カシアン」


 彼女は微笑む。


「これは暴動ではありませんわ。バーゲンセールですの」


「……は?」


「中央銀行は今、『帝国は破綻する』という噂を流しながら、帝国マルクを売り浴びせています。

 ですが――彼らが売っているのは」


 レティシアは机の引き出しから、一枚の契約書を取り出した。

 皇帝フェルディナンドの署名が、確かにそこにある。


「昨日までに、私が刷らせた“裏付けのない紙幣”だけですわ」


 カシアンが息を呑む。


「中央銀行は、自分たちが最も嫌悪してきた行為をしている。

 ――価値のない紙に、“価値がある”と信じて売っているのですもの」


 レティシアは立ち上がり、冷たい声で告げた。


「命令を出します。今この瞬間をもって、帝国は金本位制への完全移行を宣言。

 旧マルクの買い取りは、全面停止ですわ」


「そ、そんなことをすれば……!」


「ええ。失敗すれば、帝国は即死します」


 さらりと言い切った。


「ですが成功すれば――中央銀行は、死にますわ」


 指が鳴らされる。

 財務官僚たちが一斉に魔導通信を起動した。


 同時刻。

 中央銀行〈天秤の塔〉最上階。


「なぜだ……なぜ買い手がいない……!?」


 静寂の執行官エドワード・フォン・カローは、初めて声を荒げていた。


 彼らが売り浴びせた帝国マルクは、

 誰からも見向きもされない“紙屑”に変わっていた。


 逆に。


 彼らが保有していた金準備、担保資産、信用証券の半分以上は、

 既にレティシアの命令で、帝国金庫へと移送されていた。


「ば、馬鹿な……通貨は中立だ……!

 我々は秩序を管理してきた……神の代行者だぞ……!」


 その声に、魔導通信越しに、レティシアが微笑む。


「違いますわ、エドワード」


 冷酷に、楽しげに。


「あなたたちは神ではない。

 ただの――遅れてきた投機家ですわ」


「っ……!」


「中立? 秩序? 公平?

 ……全部、あなたたちが“金を刷るための物語”でしょう?」


 沈黙。


「そして今、あなたたちはその物語の中で、

 最も卑しい行為――空売りで死にました」


 数時間後。


 〈天秤の塔〉の門前に、帝国騎士団が整列していた。

 先頭に立つのは、カシアン。


 かつて正義を叫んだ騎士は、

 今や無言で、差し押さえ命令書を突きつける。


「……抵抗は?」


 部下が問う。


 カシアンは一瞬だけ目を伏せ、そして答えた。


「許可されていない」


 剣が抜かれる。


 それは戦争のためではなく、

 徴税のための剣だった。


 すべてが終わった後。

 レティシアは帳簿を閉じ、満足げに呟く。


「世界恐慌? あら……」


 唇に、悪役令嬢らしい微笑。


「あなたたちが、いつも起こしていたことでしょう?」

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