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第3章 第1話 南の太陽と、ようやく訪れた静けさ

魔王の城が崩壊してから数週間が経った。

俺たち「ガルドの冒険隊」は、王都での盛大な祝賀パーティを適当に切り上げ、

馬車を飛ばして南へ向かった。

報酬として王国から支給された金貨は山ほどあり、

馬車は豪華な寝台付きの大型仕様。

荷台にはステーキ用の肉、果物、ワインが山積みだ。

ガルドが馬車の外で馬を操りながら大声で笑う。

「ははは! 魔王倒した英雄パーティが、ビーチリゾート旅行だぜ!

 フレド、お前の夢がようやく叶うな!」

エリナが窓から顔を出し、風に髪をなびかせながら。

「南のエルドラシア王国南部、サンライズビーチ……

 聞いた話だと、年中太陽がギラギラで、夜でも半袖で平気だって!

 私、泳ぎたいわ〜!」

ティオが荷物の中から日焼け止めクリームを出して。

「みんな、日焼けに気をつけてね!

 フレドさんも、初めてのビーチだから楽しみだよね?」

リリが馬車の隅で干し肉を齧りながら。

「……ビーチでステーキ焼く。

 波の音聞きながら」

俺は馬車の窓から外を眺め、

ゆっくりと息を吐いた。

(……本当に来たんだな)

景色はどんどん変わっていった。

黒氷の山脈の寒々とした風景から、

緑の丘陵、川沿いの村々、そして

海の匂いが混じり始めた。

空は青く、太陽は暖かく、

風は優しく頰を撫でる。

俺の胸に、ずっと抱えていた願いが、

ようやく形になりつつある。

サンライズビーチに到着したのは、

夕暮れ時だった。

黄金色の砂浜がどこまでも続き、

波が穏やかに打ち寄せ、

遠くに椰子の木が揺れている。

小さなリゾート村があり、

木造のコテージやオープンカフェが並ぶ。

観光客が笑い声を上げ、

子供たちが砂遊びをし、

カップルが手をつないで散歩している。

俺たちは村の端にあるコテージを借りた。

海の見えるテラス付きの部屋。

ベランダに出ると、波の音が直接耳に届く。

ガルドがビールを手に叫ぶ。

「乾杯だ! 魔王討伐成功と、

 フレドの夢の実現に!」

みんなでグラスを合わせる。

俺は冷えたビールを一口飲み、

体が溶けるような心地よさを感じた。

「ありがとう……みんな」

俺は静かに言った。

「ここまで来れたのは、お前たちのおかげだ。

 俺一人じゃ、絶対にここまで来れなかった」

エリナが微笑む。

「私たちもよ。

 フレドさんがいなきゃ、魔王倒せなかったもの」

ティオが頷く。

「これからは、ゆっくりしようね。

 毎日ビーチで遊んで、夜はバーベキューして」

リリが肉を焼く準備をしながら。

「……毎日ステーキ。

 約束」

その夜、俺たちはテラスでバーベキューをした。

ガルドが肉を豪快に焼き、

エリナがフルーツカクテルを作り、

ティオがサラダを盛り付け、

リリが黙々とステーキを頰張る。

俺はビールを片手に、

波の音を聞きながら空を見上げた。

星が近くて、暖かい風が肌を撫でる。

王宮の堅苦しい儀式も、

酒場の喧騒も、

洞窟の寒さも、

魔王の闇も、

全部遠い記憶のようだ。

(……ようやく、静かに暮らせる)

翌朝、俺は一人でビーチに出た。

朝日が海面を金色に染め、

波が足元を優しく洗う。

砂浜に座り、

膝を抱えてぼんやりと海を眺める。

誰も俺を「英雄」と呼ばない。

誰も「顧問になってくれ」と頼まない。

誰も「魔王軍が!」と騒がない。

ただ、静かだ。

波の音と、遠くの鳥の声と、

時折通りかかる観光客の笑い声だけ。

俺は小さく笑った。

「これが……俺の望んだ生活か」

でも、その静けさは長く続かなかった。

昼過ぎ、村の広場で小さな騒ぎが起きた。

リゾート村の村長が困った顔で叫んでいる。

「困った……!

 ビーチの沖に、巨大な海魔獣が出現したんだ!

 観光客が怖がって、客足が遠のいてる……

 誰か、倒してくれないか!」

村人たちがざわつく。

俺は遠くからそれを見て、

ため息をついた。

(……またかよ)

ガルドが俺の肩を叩く。

「おい、フレド。

 聞いたか? 海魔獣だってよ。

 お前の氷雪魔法なら、海でも効くんじゃね?」

エリナが目を輝かせる。

「海の上に氷の橋作って、みんなで倒しに行こうよ!」

ティオが心配そう。

「でも、フレドさん……休みたいよね?」

リリが肉を齧りながら。

「……海のステーキ、美味しそう」

俺は海を眺め、

ゆっくり立ち上がった。

根が真面目すぎる俺は、

また「ほっとけない」と思った。

(……少しだけ、

 村の人たちの生活を守るか。

 それで、本当に静かに暮らせるはずだ)

俺はみんなに笑いかけた。

「よし、行こう。

 海魔獣、凍らせてやるよ」

ビーチに立つ俺の周りに、

冷たい風が吹き始めた。

波が凍りつき、

氷の道が海の上に伸びていく。

南の暖かい国で静かに暮らしたかった俺の悲劇は、

ここでもまだ、終わっていなかった。

――続く

(第3章 第1話 終わり)

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