第10話 魔王の影と、静かな決意
(前回までのあらすじ)
フレデリク(フレド)は街の防衛戦で大規模な氷雪魔法を発揮し、魔王軍の本隊先遣を撃退。街は歓喜に沸き、フレドは王国からの勲章と顧問任命の話まで持ち上がる。パーティメンバーとの絆は深まり、魔王討伐への道が現実味を帯びてきた。フレドの「暖かい南の国で静かに暮らす」夢は、ますます遠ざかるが、根が真面目すぎる性格が彼を前に進ませる。
街の祝賀ムードは一夜で冷め、王都からの使者が到着した。
王都の騎士団長を名乗る厳つい中年男が、ギルドの会議室に俺たちを呼び出した。
部屋には支部長、市長、パーティの面々が揃っている。
使者は地図を広げ、重々しく口を開いた。
「魔王軍の本隊が南下を開始した。
目標は南の同盟国群。
このラグナス街は中継拠点として狙われている。
王国は全軍を動員するが、到着まで時間がかかる。
君たちに、先行して魔王軍の前線を撹乱する任務を依頼する」
ガルドが即座に答える。
「了解だ! 俺たちで道を切り開くぜ!」
エリナが地図を指差す。
「前線はここね……森を抜けて平原に出るルート。
フレドさんの吹雪で敵の進軍を遅らせられるわ」
ティオが少し震えながらも。
「僕も……みんなを守るためにがんばるよ」
リリが静かに。
「……魔王の首、ステーキより価値ある?」
使者が俺に視線を向ける。
「フレド殿。
君の氷雪魔法は魔王軍の闇属性に有効だと報告されている。
王国は君を正式に『氷の守護者』として任命する。
成功すれば、勲章に加え、王族並みの報酬と地位を約束する」
俺は一瞬、凍りついた。
(……王族並み?
俺、本当の王族なのに……
いや、もう家出した身だ。
そんな地位はいらない。
ただのフレドでいたいだけなのに)
でも、街の人々の顔が浮かぶ。
南の国々のビーチで笑う家族たち。
魔王軍がそこまで行ったら、すべてが壊れる。
根が真面目すぎる俺は、
また「ほっとけない」と思った。
「……わかりました。
協力します」
使者が頷き、任務の詳細を説明した。
目標は魔王軍の前線キャンプを奇襲し、補給路を断つこと。
俺たちは翌朝出発することになった。
夜、パーティの宿で最後の作戦会議。
ガルドが酒を回しながら。
「フレド、お前がいなきゃここまで来れなかった。
魔王軍相手でも、俺たちは勝てるって信じてるぜ」
エリナが微笑む。
「私たち、家族みたいよね。
フレドさんがいなくなったら、寂しいわ」
ティオが頷く。
「フレドさん、僕の大事な人だよ。
一緒に魔王倒して、平和になったら……みんなで旅行しよう!」
リリが珍しく言葉を続ける。
「……フレド、逃げないで。
ステーキ、一生分おごる」
俺はビールを一口飲み、
静かに呟いた。
「……ありがとう。
みんながいなきゃ、俺はとっくに逃げてた」
本当は逃げたかった。
暖かいビーチで一人、波の音を聞きながら昼寝したかった。
でも、今は違う。
このパーティ、この街、この世界を守りたいと思った。
それは、王族教育で刷り込まれた義務感なのか。
それとも、みんなとの絆が俺を変えたのか。
(……どっちでもいい。
今は、前に進むしかない)
翌朝、俺たちは街を出発した。
馬車ではなく、徒歩と馬で森を抜け、平原へ。
道中、魔王軍の小規模斥候を何度も遭遇したが、
俺の吹雪とパーティの連携で瞬殺。
平原に出ると、魔王軍の前線キャンプが見えた。
テントが数百、兵士が数千。
中央に巨大な黒い旗が立っている。
ガルドが息を飲む。
「でけえ……本気で来てるな」
エリナが魔法を準備。
「フレドさん、全体を凍らせる?
それとも一点集中?」
俺は深呼吸し、
【オーロラの導き】に耳を傾けた。
(……全体を凍らせる。
補給を断てば、進軍が止まる)
「みんな、俺の後ろに下がって」
俺は平原の中央へ一人で歩き出した。
魔王軍の兵士たちが気づき、警戒の声が上がる。
指揮官らしきデーモンが叫ぶ。
「人間の魔法使いか!
殺せ!」
闇の矢が飛んでくる。
俺は【霜王の加護】で身を守り、
一気に【氷雪支配】を最大出力で発動。
平原全体が凍り始めた。
地面が白く輝き、テントが氷に覆われ、
兵士たちの足が凍りつく。
補給物資の山が氷の塊に変わる。
続けて【北風の咆哮】の最大版。
巨大な吹雪が魔王軍を飲み込む。
数千の兵が凍りつき、動けなくなる。
パーティの面々が俺の後ろから援護。
ガルドの剣、エリナの火、リリの矢、ティオの回復。
連携は完璧だった。
魔王軍は大混乱に陥り、
指揮官が最後の抵抗で闇の渦を放つ。
でも、俺の吹雪に飲み込まれ、凍りついた。
戦闘終了。
平原は氷の荒野と化し、
魔王軍の前線は壊滅した。
パーティが俺に駆け寄る。
ガルドが涙目で。
「フレド……お前、ほんとに神だ……」
エリナが抱きつく。
「これで南の国は守られたわ……ありがとう!」
ティオが泣き笑い。
「フレドさん、僕たち……勝ったよ!」
リリが静かに。
「……フレド、ステーキ、無限」
俺は膝をつき、空を見上げた。
(……終わった。
魔王軍の進軍は止まった。
南の国は安全だ)
でも、俺の心はまだ落ち着かない。
王都からの使者が駆けつけ、
勲章を授与。
「フレド殿、王国は君を『氷の英雄』として迎える。
王族の血筋を認め、正式に王位継承権を……」
俺は手を挙げて止めた。
「……いや、いいです。
俺はフレドのままでいたい。
これ以上、地位はいりません」
使者が驚く。
「しかし……」
俺はパーティの面々を見て、微笑んだ。
「俺は、この人たちと一緒にいたい。
魔王の本拠地まで……行きます。
でも、それは『英雄』としてじゃなく、
ただのフレドとして」
ガルドが笑う。
「それでいいぜ! 俺たちの冒険は続く!」
エリナが頷く。
「一緒に、魔王倒そう!」
俺は空を見上げ、
静かに呟いた。
(暖かい南の国で静かに暮らしたかった。
でも、今は違う。
みんなと一緒に、世界を守りたい)
どこまで行っても静かに暮らせない俺の悲劇は、
新たな旅の始まりとなった。
――完結(もしくは続編へ)
(第10話 終わり)




