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第1話 暖かい国に憧れて

俺の名前はフレデリク・グスタフ・フォン・フロストクラウン。

フィヨルドヘイム王国の第二王子だ。

……だった。

今はただのフレド。

南の暖かい街の酒場で働く、どこにでもいるバイトだ。

フィヨルドヘイムは北の果ての雪と氷の国だ。

オーロラが綺麗で、フィヨルドの景色は絶景で、王族の血筋は古い。

でも正直、寒すぎる。

毎年冬至の裸湖水泳儀式とか、毛皮の礼装が重すぎて動けないとか、

3時間議論して何も決まらない議会とか……

いや、別にしきたり自体が嫌いってわけじゃない。

義務はちゃんとこなしてきたし、王族として恥ずかしくない立ち振る舞いは心がけてきた。

問題は、俺が「暖かい国」を見てしまったことだ。

隣国の王子結婚式に随行したとき。

南の同盟国、エルドラシア王国の祝宴。

太陽がギラギラ照りつけて、夜でも半袖で平気。

ビーチで冷えたワインを飲みながら、みんな笑って踊ってる。

果物が山盛りで、雪なんて見たこともないって顔してる。

あれを見て、俺は決定的にやられた。

(あそこで暮らしたい……)

(誰にも邪魔されず、静かにビール飲んで昼寝して、暖かい風に吹かれて暮らしたい……)

それから何度も交流会や結婚式に出席するたび、憧れは増す一方だった。

兄上は「王族の務めだ」と真面目にこなしてるけど、俺はもう限界だった。

だから家出した。

王宮に置手紙を残して、

「外交の経験を活かして民の暮らしを見学してきます。心配しないでください」

って書いて。

(本当は二度と戻る気ないけど)

そして今、俺はラグナスの街外れにある酒場「南風の杯」に転がり込んだ。

理由はシンプルだ。

もっと南——本当に太陽がギラギラで、夜でも暖かくて、ビーチでビール飲んで昼寝できるような国——まで行く旅費がなかった。

王宮を出るとき、金貨数枚と宝石少しだけ持ってきたけど、馬車代と宿代でほぼ底をついた。

王族だから自分で金稼いだことなんてない。

だからここで働いて、旅費を貯める。

それだけだ。

「料理運んで、皿洗って、客に酒注ぐだけ。

 絶対に余計なことはしない。

 帳簿とか経営とか、絶対に見ない。

 俺はただの旅人フレドだ」

そう心に誓って、俺はマスターに雇われた。

マスターはガタイのいい中年男で、名前はボルド。

いい人そうだけど、最近店の売上が落ちてて頭を抱えてるらしい。

初日の夜、閉店後にボルドさんがため息まじりに帳簿を開いていた。

「……また赤字か。仕入れ値上がってるのに、客単価が……」

俺は皿を拭きながら、チラッと帳簿を見た。

(……原価率68%? 在庫回転率この低さ? 賃金体系もバラバラでスタッフのモチベ……

 ……いや、見なかったことにしよう)

でも、次の日も、その次の日も、ボルドさんのため息は増える一方だった。

ある夜、常連の爺さんが言った。

「ボルド、この店もうダメかもな……俺も他の店行こうかな」

その瞬間、俺の中で何かがキレた。

(……この店が潰れたら、俺の旅費の当てがなくなるじゃないか!

 もっと南のビーチに行く夢が……!!)

「マスター、ちょっと帳簿見せてください」

俺は自分でもびっくりするくらい自然に言っていた。

「……え? フレド、お前会計わかるのか?」

「少しだけ。旅の途中で商人の手伝いしてたんで」

(嘘だけど、王宮の教育で国家予算管理してただけだけど)

それから俺は、旅費のためだけ——本当に旅費のためだけ——に、

酒場の経営を改善し始めた。

メニューを見直して原価率を下げ、

季節限定の凉しげなドリンクを追加(俺のスキルが無意識に店内を涼しくしてるのもあって大ウケ)、

スタッフの賃金を成果連動に変えてモチベアップ、

仕入れルートを最適化。

たった2週間で、店は黒字転換。

1ヶ月後には客が入れないほどの大繁盛になった。

「フレド! お前天才だ! 給料3倍にするぞ!」

「この店、街一番の人気店になったな!」

「市長が視察に来たいってよ!」

……やばい。

旅費はすぐ貯まったけど、

俺、また目立っちゃったかもしれない。

暖かい南の国で静かに暮らす夢が、

また遠のいた気がする。


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