第四十四話 技
その日、僕は解散すると家の近くにある空地へと向かっていた。
頑張るしかないのだ。彼らのように、冒険者を辞めたいと思わないように。僕には大きな目標があるのだから。
そんな思いを抱えらながら、剣を振るうのである。
僕は剣をつまむように持つ。
練習したい技は、もちろん本日の冒険でも成功した槍の如き一撃である。
この技は最近編み出したものだった。
本来なら、名前を叫ぶという行動は無駄に等しい。技の威力が上がるわけでもなければ、特殊な効果があるわけでもないのだから。
だけど、僕は技名を叫ぶのだ。
それは僕の師匠とも言える存在であるプリムラさんの言葉があるからだ。
「ねえ、ティエ君、どうしても私が攻撃を出すときに“わざわざ”技名を言っているか分かる?」
それはかつて、プリムラさんが迷宮内の練習場で、僕がプリムラさんの剣を見ていた時の話だった。
プリムラさんはアビリティを発動する時に、わざわざ技名を例えば「『星のごとき一撃』!!」のように叫ぶのである。それから剣の軌道にきらきらとした夜空に輝く流れ星のように、剣の軌道の尾を引いて輝くのである。
その姿は美しかった。
まるで剣が星のように輝いていて、プリムラさんの剣の軌跡が、まるで流星かのようだった。
僕のそんなプリムラさんお剣の素振りの姿を、無心に見ていたのである。
「……分からないです」
僕はその姿に疑問すら抱かなかったからだ。
「じゃあ教えてあげる」
プリムラさんは少女のように可愛らしい笑みで、僕へと「秘密だよ」と人差し指で口元を遮った。
「ありがとうございます」
「私がね、自分の中で“ルーティン”を作るためだよ。事前に一定の動きを考えといて、技名を言うということを切っ掛けに、同じ行動を行うためなんだ。同じ行動をすれば、同じ攻撃力の技が出せる。これはね、常に迷宮でモンスターを狩ることを強いられる冒険者にはとても重要な事なんだ」
「どうしてですか?」
「だって、いつも同じ攻撃ができる、ってことは同じ強さのモンスターなら簡単に倒せる、ということでしょう? これってね、意外と難しいんだよ。結構、気分とか、その日の調子でアビリティの使い方も変わっちゃうものだから」
「そうなん……ですね」
「調子がいい時はそのままでいいかもしれないけど、調子が悪い時に同じ行動を行うためのきっかけがルーティンなんだ。だからティエ君も、いつも同じ威力の攻撃が出せるように練習したらいいと思うよ」
僕はこのようなプリムラさんの言葉を大切にしていた。
このミラにおいて、プリムラさんは数多もの冒険者の中で、頂点に近い実力を持っているとされている。それは様々なベテランの冒険者がいるのにも関わらずだ。これは聞いた話なんだけど、どうやらプリムラさんはアビリティに目覚めた頃から強かったらしい。期待の新人が成長した結果、頂点に近い冒険者になったのだ。
そんなプリムラさんの言葉を思い出しながら、僕は剣をつまむように持ち、突き出しながら力強く叫んだ。
「槍の如き一撃!」
僕が編み出した、僕だけの技である。
技名を叫ぶことによって、僕は常に同じ動きが出来るようにするのだ。こうすることで、アビリティと、僕の身体の動きが組み合わさる事が出来る。何度も行う事によって、少しのずれや、“溜めの長さ”、隙の大きさなどを修正するように体を動かすのだ。
そうすることによって、一度作った技をブラッシュアップしていく。より強く、より鋭い技になるように改良を重ねていくのだ。
「ティエ君、冒険者にね、完成なんて言葉はないよ。常に修行中だから、一度できた技にも満足しないように、常に上を目指しながら剣を振ると、もっと強くなれる、と私は思うな」
まるで隣にプリムラさんがいるように彼女の言葉を思い出しながら僕は剣を振るう。
それが一通り終われば、今度は剣を上から下に振り下ろすのだ。何度も、何度も。この際にもアビリティを組み合わせる事を目的としているが、こちらはやはりうまく行かない。まだまだ技名をつけるのは先になりそうだ。
それでも、僕は冒険者として、成長を続ける事は止めない。
◆◆◆
『ブロート』で次に行った冒険は、角を生やした鼠の形をしたモンスターであるハト・デンテを何体倒せるか、という事だった。
ミラの中でも、入り口にあるセーフティエリアにほぼ隣接していると言っていい森のエリア。木々にモンスター達が隠れたそのエリアで、僕たちは耳を敏感にさせながらモンスターを探す。
「ティエ君! 右だっ!」
先にモンスターを見つけたエンリケさんが、僕に指示を出す。
「分かりましたっ!」
僕はすぐに剣を抜くと、ハト・デンテへと斬りかかった。アビリティを使っている暇も、技を繰り出す余裕もなかった。
「皆! 畳み掛けるんだ!」
僕がハト・デンテをけん制している間に、仲間達も思い思いにモンスターへと攻撃していく。それぞれの強みとアビリティを活かしながら。
それと同時に、僕は仲間達と入れ替えるように後ろへと下がる。
「『空の剣』!」
それから僕はアビリティを発動させて、剣を浮かせてハト・デンテを攻撃するのだ。攻撃数が増えた事により、ハト・デンテは戸惑っている。
その隙に仲間達がハト・デンテの急所を狙う。僕も技を貯めそうかと思ったけど、その前に仲間達がハト・デンテを倒しきった。
「さあ! 次はカルヴァオンをはぎ取るぞ!」
エンリケさんの指示が飛んだので、死体となったハト・デンテを僕たちは解体していく。
冒険者はモンスターを倒す“だけ”では、収入にはならない。その体内にある“カルヴァオン”を売ることでやっと収入を得る事が出来るのだ。モンスターの他の肉や骨などの部位も対象のお金にはなるが、それは随分と安く、持ち帰る労力に見合うほどではなかった。
今回のハト・デンテは僕が持っていた剣ではぎ取った。それをポーチに入れて、また新しいモンスターを探す。お目当ては当然ながらハト・デンテである。
「こんにちは!」
「おう!」
「お前たちも頑張れよ!」
そうしている間に、何組かの冒険者とすれ違った。
誰もが僕たちよりも年上そうで、ベテランの冒険者だと僕は思った。中には同年代の冒険者もいたけれど、彼らはベテランの冒険者のパーティーメンバーだった。僕たちのように新規のパーティーではないのは、彼らに光るものがあり、既に活躍しているパーティーの目に止まったからだろう。
「どんどん奥に進んで行きます! 凄いですね!」
そんな彼らを見て、リーリオさんが羨ましそうに言った。
こんな場所で足踏みしている僕らとは違って、才能のある冒険者は正式に冒険者になってから数か月で下層を突破し、中層、もっと才能のある者は深層にさえ挑戦できる冒険者もいると聞く。
そんな中、僕らは最底辺をずっと彷徨っている。
この辺りで精力的にモンスターを倒している冒険者はほとんどいない。徒弟制度の卒業シーズンは多いけれど、それを超えてある程度経つと、ハト・デンテを卒業して、次の狩り場へと移るのだ。そのステップアップも組合にはおすすめが記載されている。
「私たちは安全マージンを取っているからね。彼らと比べると、ゆっくりの足並みだから、ね。先に行ってみたいかい?」
エンリケさんが覚悟を決めた様に、僕たちへと振り返った。




