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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第四十二話 商人

 リーリオさんと共に向かったのは、商店街の端だった。まだまだ正午と言えど、空に太陽は明るく輝いている。つまり、街に行き交う人々は多い。ある者は八百屋や肉屋に食料を買いに、ある者は服や日用品などを両手に抱えている。また別の者は両手に鎧を抱えて運んでいた。


 きっと誰もが売りに来ているか、買いに来ているか、はたまたその両方か。国内外から集まる様々な物を目当てに人が集まっているのだ。

 そんな中で僕は同い年であるリーリオさんと隣を歩いている。いつものローブ姿ではなく、肩を出したワンピース姿の彼女はとても魅力的だった。とはいえ、僕も彼女もまだまだ14歳だ。町の行き交う大人たちから並んで歩く僕らを見て、微笑ましく見る者が多い。


「お二人さん、焼き鳥はどうだい?」


「お嬢ちゃんにはこのお花がよく似合うよー!」


「坊主! うちには珍しいものが沢山あるよ!」


 ミラの商人たちには活気が満ち溢れていた。僕たちが歩いているだけで、様々な人たちが声をかけてくる。誰もが商品を売りたくて必死だ。特に買い食いが出来るような屋台の美味しそうな香りには、思わず買ってしまいたい気持ちになった。

 だけど、毎月厳しい生活を送っている僕に、それらを気軽に買えるような財力はないため、ぐっと息を飲んで我慢した。


「今は必要ありません!」


 リーリオさんはそれらの勧誘を断りながら先を急ぐ。目的地はこの先だ。

 僕たちのお目当ての場所は、人ごみの中にあった。お店自体は煉瓦状の立派な家ではなく、車輪がついた小さな屋台であった。人でにぎわっており、エンリケさんの元気な声が他の商人たちに負けないように聞こえる。


「さあさあ! 今日のメインはこれだっ! この赤い香辛料は遠い海からやって来たものだ! ちょびっと辛いけど、料理に少し入れると刺激的な味がするよっ! 海の向こうではとても人気なものさ! だって、食料の保存にも使えるし、刺激的な調味料は胡椒しかないからね! 一度食べれば嵌ること間違いなし! このトウガラシが欲しい人は買って行ってよー!」


 エンリケさんが売っているのは、見た事がない赤い植物だった。どうしてか分からないけど、見続けると体が熱くなりそうな気がする。刺激的な味は僕はあまり好まない、と思う。


 遠くから僕は見ていたけど、どうやらそのトウガラシを買って行く人は多かった。しかも塩よりも高い値段だのに、大量に買っていく人が多い。彼らはエンリケさんと顔なじみのようで、どうやらトウガラシは買った事があるようで口々に「楽しみだ」「これが美味しいんだよね!」と言っている。


 そんな大盛況が続き、エンリケさんが売っている他の果物や干し肉などもどんどんと売れていき、みるみる間に全ての商品が売れていた。

 その間、エンリケさんは集客のみに集中し、スティファーさんとエドワードさんが品物の数とお金の計算を、最後のベンハミンさんが屋台の裏にある追加の在庫を出し、次々と補充するのだ。

 そういやって四人は、凄い売り上げを出していた。


「四人とも凄いですね!」


 お客さんがはけてからリーリオさんが皆に話しかけた。僕も彼女の後に続いている。


「いやいや、恥ずかしい所を見られたね」


 エンリケさんは照れていた。


「こんなに大量の商品を仕入れて、しかも売りさばくなんて凄いですね!」


 僕は殆どなくなった商品を見て言った。


「ちょっとした知識を使っただけだよ。商品だって、どれも人気な物を集めただけさ。トウガラシは珍しいけど、別の町ではとても流行っていてね。ここでたまたま仕入れている人を見つけたから、無理を言って譲ってもらったんだ。あともう少し在庫が倉庫にあるから、もう少し儲かることは出来るね」


 エンリケさんはずるがしそうな狐のような笑みを浮かべている。冒険者と言うよりも、まさしく商人と言った顔だった。


「エンリケ君はねー、私たちにおこずかいを沢山くれるんだけど、今日のような大儲けは珍しいのよ。これはボーナスが期待できるかな?」


 スティファーさんがキラキラとした目をしている。どうやらお金は好きなようだ。僕も好きだ。


「あはは。考えておくよ。冒険に言っている日はこのように売ることは出来ないから、当面の生活費も計算しないといけないからね」


「もちろん分かってるー。期待しているよ、って事だよー」


「はいはい」


 手でVサインをするスティファーさんに、エンリケさんはやれやれと言った。


「二人は休暇を楽しんでいる?」


「ええ。おかげさまで。たまたま出会ったリーリオさんと話していて、エンリケさん達の仕事が見たくなったから来たんです」


 僕はリーリオさんと一緒に来た経緯を丁寧に説明した。さっきからちらちらとベンハミンさんが僕たちの方を見ているからである。これは後から知った話だけど、『ブロート』のパーティーは皆が若いらしい。

 エンリケさんが16歳で、他の人たちは15歳のようだ。


「なるほどね。どうだった?」


「ティエ君は、冒険者よりも商人の方が似合っている! と言っていました!」


 リーリオさんは胸を張って言った。


「うわー! それは言わないで!」


 聞いた時に悪い印象を与えるかもしれないから。

 だけど、それを聞いても、エンリケさんはおかしく笑うぐらいだ。


「確かにそうかもしれないね。皆もよく働いてくれるからね。でも、これが私の夢なんだ。幼い頃に聞いた英雄伝説。私はね、幼い頃に英雄たちの冒険を聞いて、特にアルタイル様の話を聞いて、この道を目指したんだ――」


 僕はエンリケさんの冒険に対する強い気持ちを、初めてここで聞いたような気がする。

 気持ちは痛いほどよく分かった。

 僕だって、幼き頃に呼んだ英雄のお話から、冒険者を目指したのだから。その点ではエンリケさんと一緒である。


「オレもだ。オレはアルタイル様がライバルのレグルス様と戦う話が好きなんだ」


 そんなエンリケさんの話に、以外にもあまり言葉を発さないベンハミンさんが恥ずかしそうに頷いた。

 英雄に目指す男の子はどこもそんなに変わらないようだ。


「私は新しい技を作った時の話だよ。さて、せっかく『ブロート』が集まったんだ。片付けが終わったらりんごジュースでも飲みながら明日の冒険の話でもしようか?」


 エンリケさんの一言に、僕たちは大きく盛り上がり、僕とリーリオさんも片付けの手伝いをすることにした。

 リンゴジュースはとても美味しいけど、高価だから滅多に飲めない高級品なのだ。


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