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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第四十一話 日常

「今日も勝ってきたよ!」


「それはよかったです」


 その日の夕食の事である。

 僕の目の前には、僕と全く似ていない妹であるランファがいる。彼女は白い髪と赤い目をしており、精巧な人形のように美しい顔つきだ。芋っぽい僕とは正反対である。並んで兄妹と言われた事はなく、他の兄弟の中でもランファは突然変異のような妹だった。

 そうだとしても、彼女は異物などではなく、僕の大切な妹であり、互いの夢の理解者であり、幼き頃より最も親しい友人でもある。


「今日の夕食はおいしそうだね!」


「兄さんの為に作ったのです! 今日も頑張ったのですからたくさん食べて下さいね!」


「いつもありがとう」


 この日も僕はいつものように自宅で、ランファと共に夕食を食べる。今日もランファが用意してくれたもので、ジャガイモと魚を蒸したものだった。それに塩と酢をかけて食べるのである。僕はランファにお礼を言ってから、控えめに調味料をかけ、ナイフとフォークで柔らかい魚を口に入れた。蒸しただけなのに甘い味わいで美味しかった。


「今日の冒険もハト・デンテですか?」


「そうだよ」


「大変でしたか?」


「もう慣れて来たよ。今日は三体も倒したんだ!」


「それは凄いですね! 流石兄さんです!」


 ランファはいつもこうやって満面の笑みで僕の話を聞いてくれて、全てを肯定するのだ。そんなに大したことはしていない筈なのに、僕はとても嬉しいと思う。次もこうやって冒険を沢山話そうと思うのである。


「ありがとう」


「次の冒険はどんな冒険をする予定なのですか?」


 ランファはいつもこうやって僕の冒険話を楽しみにしているのだ。

 彼女は雪のように白い肌をしている。太陽に晒せばすぐに焼けてしまうほどに弱く、外に出る事は月が出ている僅かの間だけだ。だからランファにとっては僕の外での出来事を聞くことによって、外に出ている感覚に浸るらしい。


「次の冒険もハト・デンテって言っていたけど、それが終わったらまたロシャ・フォルミガかな? 挑戦もそうだけど、稼ぎを増やそうとも考えているみたい。今はどっちが稼げるのか試しているんだ」


 エンリケさんは今日の冒険が終わった後にこう言っていた。

 ――暫くは、稼ぐことに集中したいと思う。最近はずっと冒険をしているから、皆の武器もだいぶ刃こぼれとかしているだろう? お金を稼いで装備を整えてから、次の“挑戦”にステップアップしたい。『ブロート』もそれぐらい成長できたと思うんだ。


 エンリケさんは熱くそう語っていた。

 僕も強くそう思う。僕だって、初めてロシャ・フォルミガを倒した時と比べると強くなった。だから次のステージに行きたいのはやまやまだけど、僕の剣は四本とも既に刃こぼれしている。ぼろぼろであった。他の仲間達もそうだった。今のままだと次に挑戦するにはいささか準備不足なのは間違いなかった。


「……生活をするのにも結構お金がかかりますもんね」


「……バイトしててもそれは変わらないね」


 ランファの意見に頷くように僕は苦笑いをする。

 これまでの僕は冒険の為に投資をするほどのお金はなかった。冒険者としての稼ぎは雀の涙程度で、バイトで何とか生活しているほどである。ランファは師匠であるルイザさんの助手で僕よりもお金を貰っているらしいが、余った分は画材に投資しているので僕と同じようにお金がないみたいだ。


「ランファは最近どうなの?」


「最近は絵を描ける時間も少しずつ増えてきて、もっと頑張らないといけないな、と思っています!」


「そっか。お互いに頑張ろうね」


「はい!」


 僕たちはお互いの状況を確認しつつ、これからも頑張ろうという事になった。



 ◆◆◆



 僕の一日は海でのバイトから始まる。

 漁師の手伝いだ。朝から船主と一緒に海に出て魚を取り、街に戻ると魚の荷卸しと運搬作業だ。もうこの仕事をするのも随分と長い。最初の頃と比べると随分と楽になった。冒険者の徒弟制度を卒業してからだから、二年半ほどは経つだろう。その間にいつも量に出ている船の船主からはそろそろ船の仕事に専念するのはどうか、と誘われてはいるけど、僕は未だに冒険者にしがみ付いている。


 それが終わってからいつもは迷宮に潜るのだが、この日は違った。

 休暇である。

 冒険者と言っても、僕は毎日迷宮に潜っているわけではない。迷宮に潜ってモンスターを倒すと言うのは重労働だ。だからこそ心身ともに休めなければ、いつか疲労してモンスターに殺されてしまう。それを避けるために、いつもいいパフォーマンスを発揮するために休むのだ。


「何をしようかな?」


 前まではこういった休暇の日はランファの絵のモデルになったのだが、もうそれも終わってしまった。

 それまでは訓練をしていたのだが、どうやら休暇に訓練をするのはあまりよくないらしい。

 だからこの日は町に出て、ぼーっとしてみる事にした。


 僕の住んでいる町である『ミラ』は、港町である。もちろん船が止まっている海岸もあるけど、砂場で簡単に海に出られる場所もある。もう夏なので薄着で泳いでいる人もいた。僕はそんな海岸が見える位置の縁に座って、ぼーっとしていた。


「あれ、ティエさん?」


 そんな時、後ろから声をかけて来たのがリーリオさんだった。彼女の優し気な声は冒険の時によく聞いている。この声でギフトを扱うのだ。


「あれ、リーリオさん?」


「はい! 私です!」


 リーリオさんは座っている僕の顔を上から覗き込むように見た。リーリオさんのあどけない笑顔が僕のぼーっとしている呑気な顔のすぐ前まで迫った。


「うわっ!」


 その距離があまりにも近いので、僕は驚いたように離れた。


「元気ですね! ティエさんは!」


「そうかな?」


 それから僕はワンピース姿のリーリオさんと横に並んで海を見た。真上にある太陽によって水面が真珠のようにキラキラと輝いている。その中に多くの人が入って行くのだ。あそこに混じれたらどれほど気持ちいいだろうか。僕はそんな気持ちに浸ってしまった。


「そうですよ! 私は今朝の仕事で疲れました!」


 リーリオさんもどうやら午前中は僕と同じように仕事をしていたようだ。彼女の仕事は定食屋の手伝いらしく、朝から仕入れ先まで魚を取りに行き、そのままお店で仕込みを手伝っていたようだ。おかげで料理が上手くなったとリーリオさんは自慢げに語っていた。


「僕も疲れたよ」


「でも、ティエさんはいつもこの後に訓練をしているのでしょう? エンリケさんから聞きましたよ。仕事だけじゃなくて、迷宮探索の後にも訓練をしているって」


「あはは」


 僕は隠すように笑った。

 それをエンリケさんに注意されて、現在はこうして休んでいるのである。


「そう言えば、知っていますか? エンリケさんのところでベンハミンさん、スティファーさん、エドワードさんの皆さんが働いているって」


「そうなの?」


 皆とは同じパーティーだけど、そこまでプライベート一緒にいているわけではない。僕は殆ど一緒におらず、リーリオさんもほぼ他の仲間とは一緒にいないようだ。

 その反面、エンリケさんの周りには他の仲間達が頻繁に集まっているようだ。


「どうやら四人で商いをしているらしいですよ」


「それは凄いね。どこかの親方の下で働いているの?」


 僕の質問に、リーリオさんは首を横に振った。


「それがですね。違うらしいのですよ。一からエンリケさんがお店を作り上げて、売り上げを上げているみたいです。それも四人が食べていけるほどのお金を稼いでいるのです」


「それは凄いね」


 僕は驚きのあまり、開いた口がふさがらなかった。

 漁師の手伝いをしているけど、一攫千金を狙って商人や料理屋になる者も中にはいる。だけど、大抵の話はうまく行かない事が多い。そんな中で、一から作り上げて成功すると言うのは才能があるという事だ。


「本当に凄いですよね! 私なんて単なるバイトですし!」


「僕もだよ。もう商人を目指した方がいいんじゃない?」


 あまり言いたくはないけど、ブロートは数あるパーティーの中でも落ちこぼれに等しいパーティーだ。牛歩のような速さで成長している。数日で一気に成長するようなパーティーではない。これからも冒険者として成長するかは賭けに近い。

 そんな中で商人としてある程度の稼ぎを得ているのなら、そっちに専念した方が成功はすると思う。


「あはは。私もそう思います! あ、よかった一度見に行ってみませんか?  私も興味があるのです!」


「勝手に見に行っていいのかな?」


「商人ですよ! お客さんには優しく接するものです!」


 自信満々にリーリオさんは言う。


「なら、いっか。よし行こう!」


「その意気です!」


 僕はリーリオさんの口車に乗せられて、エンリケさんのお店に行くことになった。


「ところで、お店の場所はどこで知ったの?」


「ベンハミンさんに聞いたら顔を赤くしながら教えてくれましたよ! あまり喋ってはくれないのですけど、私が聞いた事には答えてくれるのです!」


 なるほど、と僕は頷く。

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