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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第四十話 ハト・デンテⅡ

「それで、兄さんは勝ったのですか?」


 その日の夜の事だった。

 僕は多数の包帯を巻いたまま、ランファと夕食を共にしていた。頭などにも包帯を巻いているのだが、これは大怪我を負ったのではなく、擦りむいたから巻いているだけだった。エンリケさんが怪我を負った僕を心配して、大げさに巻いてくれたのだ。


「こんな格好をしているけど、ちゃんと勝ったよ。致命傷を僕が与えたって、凄く仲間も褒めてくれたよ」


 僕は誇らしげに言った。これらの傷は僕にとっては名誉の負傷なのだ。

 だけど、先ほど帰ってきた時に僕の様子を見たランファも、最初は大事化ととても心配してくれた。そんなに大怪我ではないからとても恥ずかしかった。


「それは凄いですね!」


「ありがとう。これもランファのおかげだよ」


 僕は心からランファにお礼を言った。


「私のおかげ……なのですか?」


「そうだよ」


 僕はランファの作ってくれたごろご野菜と魚のシチューにパンをひたして食べる。昔と比べると、野菜の大きさも揃って、味も美味しくなった。これも家族から離れて二人暮らしを開始したからだろうか。もっともその大半がランファの一人暮らしの期間だったけれど。


「私、何かしましたか?」


「昨日の夜に訓練に付き合ってくれたじゃないか。あの時の言葉がなかったら、きっと僕はやられていたかも知れない。本当に助かったんだ」


 心の底から強く僕はそう思っていた。

 あの時、土壇場の状況で体とアビリティが上手く動いたのは、ランファのアドバイスと前日の訓練のおかげだった。


「それはよかったです」


 ランファは嬉しそうに笑った。


「だからランファへのお礼に僕は何でもするよ?」


「いいのですか?」


「当然だよ」


「それなら今度は私を助けて下さいね」


「いいよ。どうやって助ければいいの?」


 うーんとランファは考えた後に、閃いたようだ。


「では! 私の“絵”のモデルになってください! 先生から言われているのです! 動くものの絵を描けって。いつも静止画ばかり書いているので、生きている物を描けと言われたのですけど、昼間は外に出れないので、兄さんがちょうどいいモデルと思ったのです!」


「いいよ。それぐらいならお安い御用さ」


 僕は二つ返事で頷いた。


「ありがとうございます!」


 僕はとても嬉しそうなランファの顔を見ながら、満足したように微笑む。

 そうなのだ。

 僕たちはお互いの“夢”の為に、小さな島から出て、この大きな町に来たのだ。


「応援しているよ」


 僕は冒険者になって英雄に、ランファは立派な画家に。僕が夢に一歩近づくきっかけをランファが与えてくれたから、僕もランファの夢の手助けがしたかった。


「はい! 兄さんも!」


 僕らはお互いの夢を歩む。

 どれだけ険しい道であっても、僕はこの道から逃げるつもりは一切ない。



◆◆◆



その日の冒険は、ハト・デンテと呼ばれる大きな鼠の姿をしたモンスターを狩る事だった。

僕たち『ブロート』のメンバーはその為に迷宮――ミラに潜っている。

周りは草木が生い茂る森林だ。ここはダンジョンの入り口にある訓練場などの安全地帯からすぐ隣にある区域であり、エリア1とも呼ばれているらしい。初心者御用達とも呼ばれており、その中でもハト・デンテは、僕たちのような駆け出しの冒険者にとっては最初に狩るモンスターの登竜門として有名なモンスターである。


「今日も元気に頑張ろう!」


 シンプルな金属の鎧をつけたリーダーであるエンリケさんは、とても元気な声で僕たちにはっぱをかける。

 鉄の剣を抜いて、いつでも戦えるように準備している。


「いつもエンリケは元気よねー」


 けだるそうな声を出すスティファーさんは、似合っていないチェインメイルとシンプルな剣が装備だ。やる気がないように見えるが、冒険者を続けているのだからどうやらこれは彼女のしたい仕事のようだ。


「イイ事ダロウ? オレモ元気ダゾ」


 エドワードさんは、快活な笑顔で元気をアピールした 太陽が強い南国出身なのでエキゾチックな肌に、僕と同じような剣はより輝いて見えた。

革の鎧を胸や腰などに最低限をつけている。アビリティを活かすためだ。


「そういう意味じゃないと思うがな」


 大男であるベンハミンさんは全身鎧を着ている。ずっしりと重そうに歩くが、疲れた様子はない。もう鎧にも慣れたと以前にベンハミンさんは語っていた。冒険に必要な筋肉は、日々の仕事と冒険だけでつけたようだ。未だに体が薄い僕にとってはそんなベンハミンさんが羨ましいとさえ思った。


「元気なのはいい事だと思います!」


白いローブで全身を包み、杖を持つリーリオさんはエンリケさんを真似るように大きな声を出した。いつもリーリオさんは笑顔で元気だけど、今日はより一層気合が入っているようだ。


「僕も精一杯頑張りますね!」


 僕もリーリオさん達を真似るように右手に持っていた剣を掲げた。僕は鎧を殆どつけていないけれど、背中に背負った四本の剣が重いのである。だからせめてもの重量を軽くするために、鞘に剣は入れていないので刃が当たってがちゃがちゃと鳴る。早く軽い鞘が欲しいな、と少しだけ思っている。


 僕たちがそんな風に森林を歩いていると、木々の奥にハト・デンテを見つけた。角を生えた大きな鼠である。最初に戦った時と比べると随分と小さいが、どうやらこれが通常サイズのハト・デンテのようだ。

 最初の時のような威圧感は感じなかった。


「ハト・デンテはいつものように倒すぞ」


 小声で指示を出すエンリケさんを習うように、僕らは中腰になって草木に身を隠している。

 ハト・デンテを倒すのは、これで四度目であった。最初の時とは違い、もうハト・デンテに先にこちらを発見されるような真似はしていない。迷宮内を慎重に進んで、先にハト・デンテの足跡などの痕跡を見つめて後を追うのである。まだ進むだけで出会ったモンスターを全て倒せるような強さは、僕のパーティーの誰もが持っていないのである。


「まずは僕から――」


 と、言っても、他のモンスターを倒すときと変わりはしない。

 僕の仕事は基本的には、『空の剣アーカーシャ・カタール』によって剣を浮かしたまま敵に向かって遠距離から攻撃するのである。

 そうするのにも理由があるのだ。このパーティーである『ブロート』には、遠距離攻撃できる者は僕しかいない。だから最初の牽制は僕の仕事になるのである。


 僕は背中の剣を全て手に持って、きらきらとした光の粒子を全ての剣に纏わせるとそのまま空中に浮かせた。そしてそのままハト・デンテへと真っすぐに飛ばすのだ。


 僕の剣はハト・デンテに近づくと、全てが弧を描いて見事な振り下ろしを見せる。それはハト・デンテの皮膚に薄く食い込んだ。出来れば肉まで斬りたいところだけど、今の威力ではまだ足りない。


「よしっ、突撃だっ!」


 僕の攻撃を見たエンリケさんが、仲間達に命じた。


「オレカラダッ!」


 全員がほぼ同時に駆け出したけど、最も足が速かったのがエドワードさんだ。彼は足に猫の様な爪を生やすアビリティである『大山猫のリンセ・ペルナ』を使って、走る速さが早くなっている。僕の剣に翻弄されるハト・デンテの真後ろから飛び上がって、臀部を深く斬りつける。

 ハト・デンテは呻くように鳴いた。


「もう私の出番とはね!」


 そして次にエンリケさんがハト・デンテの側面から回るように走る。剣の刃に光を纏わせた『ラミナ』によって、深く斬りつけた。


「次はオレだな――」


 ハト・デンテが抵抗とばかりにエンリケさんに大きな口を広げて向けようとするが、注意を奪うようにベンハミンさんがハト・デンテの顔を剣で殴る。アビリティは使っている。赤い光を剣に纏わす『血のサンゲ・ジェアダ』だ。でも、そのアビリティに殆ど意味はなかった。何故なら切った敵の血を攻撃力に変えるアビリティでだからだ。連戦を殆ど行わない『ブロート』ではほぼ無用の長物と化していた。

 ハト・デンテの気が一瞬だけベンハミンさんに削がれた。


「私ねー」


 その間にスティファーさんが、エンリケさんがつけた傷を剣で刺す。彼女はアビリティを使っていなかった。

 そんな連続攻撃によって、ハト・デンテの動きは怠慢になる。


「よし! あとはとどめだ!」


 それからは破竹の勢いで仲間全員でハト・デンテをめった刺しにした。

そこで僕も当然ながらハト・デンテに突撃し、力いっぱい剣を振るって何とかハト・デンテの皮膚に浅く傷をつける事に成功した。


四回目のハト・デンテ戦はこのように成功を収めた。

だけど、この日の冒険はまだ終わらない。この日は三時間の短い冒険が終わるまで、戦えるだけハト・デンテと戦うという新たな事に挑戦しているのだ。それから暫く経って、この日は一日でなんと三体のハト・デンテを同じような戦闘で倒すことが出来た。


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