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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第三十八話 決戦

「冒険者カ?」


 エドワードは最初、その音を冒険者かと思った。


「違うと思います。冒険者なら、前の踏み固まった道から来るべきです。わき道から来るのは――」


 リーリオさんの鋭い考察と共に現れたのは、見慣れた顎であった。虫の姿をしている『ロシャ・フォルミガ』だ。


「皆、戦闘態勢! こいつは狩るぞ!」


 エンリケさんの言葉と共に、僕たちは戦闘態勢へと移行した。

 『ロシャ・フォルミガ』との戦い方は心得ている。


「まずは私からっ!」


 最初に動いたのは、リーリオさんだ。彼女は祝詞を唱えて、僕たちに風のギフトを施してくれる。少しだけ僕たちの背中を風が押すのだ。


「次は僕ですねっ!」


 次は僕の『空の剣アーカーシャ・カタール』だ。気持ちは浮つかないように注意しながら、剣を浮かせて『ロシャ・フォルミガ』へと飛ばす。目的は『ロシャ・フォルミガ』への牽制だ。決して倒すことが目的ではない。

 いつもと一緒だ。狙い通り、『ロシャ・フォルミガ』は僕の剣に気を取られた。


「ベンハミン、スティファー!」


「分かっている!」


「はいさー!」


 エンリケさんの声と共に、二人は『ロシャ・フォルミガ』へと突撃した。どちらもアビリティは使っているが、ほとんど意味はなかった。二人のアビリティ使用条件は厳しいのである。

 だが、『ロシャ・フォルミガ』への攻撃手段を持っていないわけではない。持っている剣を振るうだけで、それはモンスターにとっての脅威になる筈なのだ。「

 二人が振るう剣は雑に『ロシャ・フォルミガ』の側面を狙う。足を狙うが、『ロシャ・フォルミガ』の動きは早く、胴体に当たる。二人の剣は弾かれた。


「エドワード!」


「分カッテイル!」


 次に動いたのはエドワードさんだ。足元にいる二人を邪魔に思った頃に、エドワードさんがロシャ・フォルミガを真正面から突撃するのだ。頭を振って仲間達を探しているロシャ・フォルミガだが、固い頭部に剣が当たると目がエドワードさんに向く。


「『大山猫のリンセ・ペルナ』!」


 エドワードさんはロシャ・フォルミガの目が自分に向くと、すぐにアビリティを使った。まるで足が薄い毛が生えたように光が宿る。『大山猫のリンセ・ペルナ』は俊敏な脚力を得る事が出来るのだ。エドワードさんは剣を持っているが、それを振ることはなくロシャ・フォルミガの注意を惹きつける事に注力する。


「はああああああああああ!!」


 そして出来た隙を狙うのが、エンリケさんだ。既に『ラミナ』はつかっているようだった。叫ぶエンリケさんの一撃は、ロシャ・フォルミガの足を簡単に断ち切る。一つ、二つと。


「それ、もーらい! 『血のサンゲ・ジェアダ』」


 そんな傷口をベンハミンさんが撫でて、アビリティを使う。すると淡い黄緑色の血が光ってベンハミンさんの剣に纏わった。

 それを使うと、これまで斬れなかった筈のロシャ・フォルミガの細い足が簡単に断ち切れるようになった。

 ロシャ・フォルミガの機動力を奪ってから、無防備なロシャ・フォルミガの口内へエンリケさんの剣が突き刺される。それから、力尽きるのを待つのである。


「やったぞ!」


「やりましたね!」


 エンリケさんは勝鬨を上げ、僕らは大きく喜んだ。そして柔らかくなった胴体を斬り裂いてカルヴァオンを取り出そうとした時――僕らの背後で音が鳴った。それは何か巨大な物体によって草木が押されて擦れる音だった。


「まさかっ!」


 現れたのは僕たちの狙いの『ハト・デンテ』だった。

 事前に仕入れた情報よりも、大きい気がするのは気のせいだと信じたかった。

 『ロシャ・フォルミガ』とほぼ同じサイズか、より小さいと聞いているのに、この個体の『ハト・デンテ』は大きかった。まるで鼠の姿をした牛のように大きかったのだ。


「はぐれかっ!」


 エンリケさんが確信を持って言った。

“はぐれ”とは、冒険者の間では、通常とは異なるモンスターの事だ。例えば、通常では出現しないモンスター、例えば、通常種の異常個体のモンスター、出現する場所が違うモンスターが“はぐれ”と言われている。

 このモンスターは通常種よりも、大きな事が特徴的なモンスターだった。


 ――ふっ、ふっ。


 そんな『ハト・デンテ』は鼻を大きく鳴らした。

 そのまま『ハト・デンテ』は、最も近くにいたリーリオさんへ、真っすぐ角を突き出すように突進した。


「えっ、えっ!」


 リーリオさんは動けない。

 慣れていないからだ。リーリオさんはギフト使いとして、これまでずっと皆の後ろで安全な状況でギフトを使っていた。それが典型的なギフト使いの動きだからである。

 これまでの戦いでも、リーリオさんはモンスターに襲われる事はなかった。ずっと後ろで距離をとっていたからだ。

 剣を持っていても、咄嗟に体をガードすることも出来なかった。


「危ないっ!」


 そんなリーリオさんを抱きかかえるようにして、移動させたのが最も近くにいた僕だった。アビリティの性質上、僕以外の皆はモンスターに近づかなければいけない。もしアビリティを使えない者だったら、持っている剣で戦うしかないのだ。

 だから遠距離で戦える僕だけが、リーリオさんの近くにいた。

 僕の身体は自然に動いた。仲間を助けるために。


「大丈夫かっ!」


 エンリケさんはすぐに僕たちを心配するが、僕とリーリオさんは土にまみれているだけで怪我はなかった。


「だ、大丈夫ですっ!」


「僕もですっ!」


 だからリーリオさんと僕はすぐに返事をした。


「よし! 皆、もう作戦なんて関係ない! 突撃だっ!」


 エンリケさんは叫んだ。

 当初の作戦では、エドワードさんが翻弄し、他の仲間によって『ハト・デンテ』に突撃して少しずつダメージを稼いでいって、エンリケさんが大ダメージを与えて皆で畳みかけるようにとどめを刺すのだ。


 だが、それは『ブロート』が先に『ハト・デンテ』を見つけた時のプランである。まさか『ロシャ・フォルミガ』と対峙した後で、『ハト・デンテ』に襲われると言うハプニングに出くわしたのだ。

 まさかこんなことになるとはだれも思わなかった。


「行くぞっ!」


「はいはいさー!」


「分カッテイル」


 エンリケさんの言葉に、ベンハミンさん、スティファーさん、エドワードさんが反応し、新たなる作戦はないまま突っ込んだ。

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