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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第三十七話 森林

 次の日、僕たち『ブロート』は迷宮に潜る前に訪れる必要のある受付に来ていた。そこでは本日の迷宮探索の予定を簡易的に伝えなければならないのだ。そしてその探索があまりにも無謀な場合、受付嬢から予定変更を進められることもあるようだ。これはあまりにも無茶な冒険をする冒険者が過去にいて、そのような者は冒険に失敗し、重大な過失を負う事が多かったので出来る限り事故を減らしたい国側の配慮であった。


 そんな迷宮探索の予定の提出は、慣れているエンリケさんがいつも行ってくれている。僕も何度か提出したことがあるけど、慣れていないと時間がかかるのだ。


「さて、皆、準備はいいかな?」


 受付嬢に書類の提出を終えたエンリケさんは僕たちの元に帰って来て、興奮を隠せないような様子だった。

 それもその筈。

 本日、僕たちは『ブロート』としては久しぶりの“冒険”を、挑戦をするのである。不安もありつつも、新たな場所の開拓は冒険者の醍醐味だ。例えそこは既に誰かに攻略された後の地だったとしても。


「もちろん!」


 だから僕は元気よくエンリケさんに応えた。

 朝はたっぷりと寝た。今日は漁師のバイトがなかったので、昨日の夜に頑張った分、今日の朝はいつもよりも長くベッドから起きられなかったのである。

 だけど、僕が起きた時には既にランファは起きて、いつものようにイルザさんの元で訓練に励んでいた。同じアパートの一角で行われており、どうやら厳しい言葉をいわれているようであった。


 その様子を見て、僕も頑張らなくてはいけない、と思った。ランファだって、厳しい言葉を受けながら歯を食いしばり、必死に食らいついているのだ。一度手放せば二度と手に入らない画家という道。その厳しい夢に向かってランファも努力している。それに感化されない僕ではなかった。


「同じく!」


「当然でしょー」


「私モダ」


「頑張ります!」


 僕の言葉に続くように、ベンハミンさん、スティファーさん、エドワードさん、リーリオさんが続いた。

 誰もが冒険のその先を夢見ているのだろう。それが何なのか、僕は知らない。まだ彼らの事を深くは知らないからだ。僕のように英雄になるのが冒険の果ての目標なのかもしれないし、また別の理由かもしれない。迷宮に望む事は人によって違うのだ。


 だけど、思いは一緒だ。

 僕たち『ブロート』は『ハト・デンテ』を倒したいのである。


「いい感じだ。じゃあ、行こう! 冒険へ――」


 エンリケさんは焦る気持ちを抑えるようにゆっくりと組合から出た。僕たちも足並みをそろえてエンリケさんの後に続く。

 『ミラ』の入り口を超えて、階段を降りた先にある壁によって囲まれた安全地帯に降りる。隣の訓練場ではかつての僕たちように見習い冒険者達が、教官であるカラコゥが訓練を行っていた。


 激しい怒号と共に見習いたちが剣を振るうのである。かつての僕がそうだったように。その真剣な目とひたむきさは、今でも見習う事があると思うほどだった。


「彼らは冒険者になる為に挑戦している。私達もそうだがね」


 エンリケさんは熱い瞳で彼らを流し見ながら、訓練場の横を通って森林へと降り立った。

 エンリケさんが向かったのは、高い木々が並ぶ森林だった。僕がかつて一番最初に迷宮に挑戦し、『ロシャ・フォルミガ』を探した場所である。これは後から知った話であるが、どうやら密林には『ロシャ・フォルミガ』はあまり出ないらしい。『ロシャ・フォルミガ』が主に出現するのは反対側にある草原だ。あの時に『ハト・デンテ』と出会わずに『ロシャ・フォルミガ』と出会ったのは運が悪かったのか、よかったのか、僕には何とも言えなかった。


「さて、ここからが迷宮の本番だ。私達は『ハト・デンテ』を探す。すぐに見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない。もしも『ロシャ・フォルミガ』と出会った時は予定通り前哨戦として狩るとしよう」


 エンリケさんは自信満々に言った。

 僕たちは一歩一歩注意しながら先へと進んだ。『ブロート』として密林に入ったのは初めての事だった。これまではずっと草原に潜っていたので、先が開けた視界でありモンスターは全部視界の中に入った。

 だが、森林は違う。木々に視界が阻まれているので、モンスターがどこから現れるのかは分からない。

 とはいえ、『ブロート』が通る道は今までの冒険者が通った道であり、踏み固まった道だ。だから左右の木からモンスターが現れないか注意するのである。この道を行けば、迷宮の更なる奥へ行ける。浅層から中層へと続く道だ。外で手に入れた情報では、ここから遥かなる先に。


 だが、僕たちの目的はそうじゃない。それを目指すのはもっと強くなってからだ。個人として、パーティーとして。だから今じゃない、とエンリケさんは笑った。


「さて、どこに『ハト・デンテ』はいるのかな?」


 エンリケさんは周りをきょろきょろと見渡しながら『ハト・デンテ』の痕跡を探す。この近くに目的のモンスターがいることを信じて。


「全く物音が聞こえないな」


 ベンハミンさんが怖い面持ちで言った。

 迷宮内は予想とは打って変わって物静かだった。どうやら初心者御用達の訓練所周りには誰もいないようだ。


「もう新人たちは育ったんじゃないのー? だって、有能な新人だったらここぐらい簡単に突破するだろうしー」


 スティファーさんの遠慮ない言葉に、僕たち一同は押し黙った。


 彼女の言う通りだったのだ。

 優秀な冒険者は、たかが『ハト・デンテ』如きで、『ロシャ・フォルミガ』如きで、躓きなどしない。道端の小石と同じように踏んで乗り越えるだけだ。


「スティファーの言う通りだね。でも、遅い早いだけが重要じゃない。僕たちは堅実に、それでも確かに高みを目指すのさ」


 だけど、スティファーさんの挑発に、エンリケさんは乗らずにむしろより強く言った。


 ――そんな時、僕たちの右で音がなった。木々の間の葉が擦れる音だ。

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