表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/42

第三十六話 深夜Ⅱ

「そうかな?」


「そうですよ。それに遠くからモンスターを倒せるのですから、とても有能なアビリティだと思います!」


「そんなに強くはないんだけどね」


 どうにもアビリティだけだと決定力に欠けるのだ。


「そうなんですか?」


「うーん、どうにも威力がね、弱いみたいなんだよ。もう少し強かったら遠距離でもモンスターを倒せると思うんだけどね」


「それなら、いつかアビリティが強くなった時は、兄さんの独壇場になりますね! その日が楽しみです!」


「あはは」


 僕は乾いた笑みしかでなかった。

 いつかプリムラさんも同じような事を言っていたような気がするけど、本当にそんな日が来るのかな。


「それで、兄さんはどんな訓練をしていたのですか?」


「アビリティと、体の動きを連動させる訓練だよ。一つだと弱いけど、二つの力を合わせれば、少しでも威力が上がると思ったんだ」


 これはプリムラさんのお墨付きなので、うまく行けば『ロシャ・フォルミガ』も一人で真正面から倒せると信じている。


「そうなんですね! 少し訓練を見させて貰ってもいいですか?」


「もちろんだよ! うまく行かないけどね」


 僕はランファの目の前で剣を持ち、アビリティを剣に纏わせる。そして、全力で剣を振るった。だけど、結果はやはり、軌道が途中で止まり、その後が遅くなる。どうにもうまく行かなかった。


「それが、うまく行っていないのですか?」


「そうだよ。これをスムーズに行えるようになればいいんだけど、どうにもうまく行かなくてね。僕の身体の動きとアビリティの動きがかみ合わないんだ。だから練習あるのみだと思ったんだ」


「そうなのですか……」


 ランファは腕を組みながら悩んでいるようだった。


「どうかしたの?」


「実はですね、私も似たような事を悩んでいたことがあったのです。絵についてです。ルイザさんは絵を美しく書くのですけど、私の絵はとても不細工でした。それをどうしようか迷ったんですけど、ルイザさんはこんなアドバイスをくれたのです」


「どんなアドバイスだったの?」


「“真似”をしたらいい、と言ったんですよ。ルイザさんの書いている隣で、全く同じように書くのです。そうするとほんの少しの色使いや私がついつい使ってしまう癖の矯正に役立ったのです」


 僕は徒弟制度時代の教官の言っていることを思い出した。

 曰く、優秀な戦士であっても、模倣から始まると。優秀な戦士の剣の振り方を見て、それを真似る事が強くなる第一歩だと言っていた。だからまずは教官の基本的な剣の振り方から真似るのだ、と言われて僕はそれを必死になって真似ていた記憶がある。


「それはその通りだね。僕の教官も同じことを言っていた」


「兄さんはアビリティの動きと剣の動きを一緒にするのでしょう?」


「そのつもりだよ」


「だからですね、“真似”をしたらいいと思ったのです」


「体の動きを、ということ?」


「そうです!」


「それはしているつもりなんだけどね」


 そもそも僕の『空の剣アーカーシャ・カタール』の扱い方は、僕が必死になって学んだ剣の振り方から始まったのだ。最初はふらふらと扱うしか能がなかったアビリティを、だ。


「でも、動きが止まるという事は、兄さんの身体とアビリティの間にずれが生じているのだと思います。それを解消するのは、私がやったみたいに“隣”だと思うのです!」


「隣?」


「そうですよ。剣を振ったその横で、アビリティで鏡写しみたいに動かすのです。ほら、このように」


 ランファは両手の指を一本立てて同じように動かした。まるで文字を描くように。


「なるほど。それは一理あるかもしれないね」


 僕は持っていた剣を浮かしたまま、先ほど横に置いた剣を拾い上げた。

 そして今度はアビリティを使わずに剣を振るい、隣でアビリティを使ったまま同じ軌道を目指すのだ。

 なるほど、と僕は思った。

 確かに二つの軌道は違った。速さも、タイミングも、軌道も。似ている筈なのに大きく違ったのだ。だから僕はまずは盾振りだけを意識して、何度も、何度も振るった。隣での『空の剣アーカーシャ・カタール』による剣が同じ動きになるように。

 まず、速さを合わせるのが難しかった。


「兄さん、ルイザさんが人はだれしも、最初からすべてうまく行くことは出来ない、と言っていました。遅くてもいい。訓練なのだから、最初はどんなに遅くても、美しい筆跡を真似る事から始めた方がいいと」


「……確かに」


 教官も、不細工な早い振り方よりも、遅くとも綺麗な振り方の方がいいと言っていたことを思い出す。

 僕もその言葉に従った。まずは体の動きを確認する。亀のような速さで剣を振るうのだ。そしてアビリティも使う。同じく亀のような速さで。速さを無視すると、より剣の軌道に集中することが出来た。

 ずれは少なくなった。だけど、やはり剣はずれる。僕の身体と、アビリティの剣は違っている。


「兄さん、人の身体は完璧ではありません。完全な円を再現は出来ません。兄さんのアビリティは“綺麗”すぎます。私も同じことを言われた事がありますから円を描く時に」


 確かにそうだ、と僕は思った。

 僕の『空の剣アーカーシャ・カタール』での剣の動きは“円”だった。かつて教官から剣は半円を描くように、と口を酸っぱくしながら言われたからかもしれない。いわば、理想の剣なのだ。円の軌道が、モンスターを斬るには最適だと教えられた。だけど、僕の身体は理想の剣を再現することは出来ない。


 次は、僕の体によりアビリティによる剣を合わせる。僕の不細工な体の動きに。それを何度も続けた。するとどうにか形になってきたように思えた。


「それから二つの動きを合わせるのです。今度も速さは気にせず、まずは形から。人の身体の動きは複雑です。それを剣だけで再現するのはまずはゆっくりからじゃないと」


 真っすぐなランファの言葉に従うように僕は少しずつ“ずれ”を修正していく。まずは遅い剣から、途中で剣が止まらないようにアビリティと体を合わせるのだ。


「力を抜け、とも言われました。余分な力は淀みを生むと」


 一心不乱に剣を振るう僕はもはやランファの言葉に返事すらしなかった。だけど、耳だけは彼女の言葉に向けていた。ランファの言う通り、僕は体から力を浮いた。力を込めれば込めるだけ、剣の動きが歪になる。より理想に近い『空の剣アーカーシャ・カタール』に動きが合わないと感じたからだ。


 僕に必要なのはすり合わせる事だ。

 より理想的な動きである『空の剣アーカーシャ・カタール』はずれる身体に、元々骨の構造から完全な真円を描けない体はより円の動きが出来るように。

二つを一つにする。その為に、僕は何度も剣を振るった。そして――ついには二つの動きが“重なった”。


「やったよ! ラン……」


 そしてついには理想的な動きが遅いけれどできた時に、歓喜の声を上げようとしたんだけど、僕の事を見守ってくれていたランファがすっかり寝ていることに気が付いた。


 そうだよね。結構な時間が経ったし、昼間もずっと絵の練習をしているランファには夜中まで起きているこの時間は辛いものだったのかもしれない。僕も気を抜くと口から欠伸がこぼれそうだった。


 夜風に当たったままだと風邪を引きそうなので、僕はランファを背負って帰宅することにする。当初の目標だったアビリティと体の融合はひとまずうまく行ったのだ。


 すーすーと、ランファの寝息が僕の首筋をくすぐる。

 持ってきた剣はアビリティによって浮かせたまま、僕は夜道を歩いた。

背中に感じるランファのぬくもりは、僕にとっては懐かしい事だった。

僕が島の実家にいた頃、よくこうやってランファと夜に外で遊ぶと、先にランファが力尽きて僕が背負って帰る事が多かったのだ。あの頃の僕はずっと外で遊んでいたけど、ランファは一日の全てを家で過ごしていた。外に出るのは夜のほんの短い時間だけだ。だからランファは体力があまりなかったのである。

その時と今の状況はよく似ていた。


「ランファ、頑張るよ――」


 僕はここまで付き合ってくれたランファに感謝しながら、明日の冒険へと強い決意を固めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ