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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第三十五話 深夜

 その日の夜、僕も興奮していた。

 眠れなかったのだ。

 エンリケさんの言葉に強く胸を打たれたのである。


 僕は、冒険をしたくて冒険者になった。冒険の果てが英雄だと思っているからだ。その第一歩を踏み出したのが、一人で戦った『ロシャ・フォルミガ』で、さらに大きな一歩が『ブロート』に属すること。その次の一歩が新しいモンスターである『ハト・デンテ』を倒す事だ。

 これを超えれば、小さいながらも遥かな道の果てに少しでも近づくと思うと、どうしても体が疼いて仕方ないのだ。


 外はすっかりと暗くなっていたので、僕は家の近くにある港の畔まで来た。目の前には黒で塗りつぶされたような海が波を打ち立てる音を奏でており、星明りのみでは岩でできた地面を間違えて落ちそうな危険な場所だ。だからここには誰もいないし、夜に歩くことは推奨されていない場所である。


 僕は海とはある程度の距離を保ちながらそんな場所で何本か持ってきたうちの木剣を振るう。

 プリムラさんのアドバイス通りに縦振りだ。

 それ以外の振り方は試さない。

 だから木剣に光の粒を纏わして、『空の剣アーカーシャ・カタール』を使う。これで僕は力を込めなくても、アビリティを操るだけで剣を操ることが出来る。自由に流れる剣を上に上げて、僕の全力の振りと共にアビリティを込めて剣を振り下ろした。

 だが――その剣は、僕の腕の振りに合わずに途中で動きを止めて下へと流れた。


「駄目だな――」


これでは普通に振るうよりも遅かった。

僕の口から思わず弱気の声が出た。

だが、エンリケさんのアドバイスとプリムラさんのアドバイスの元、これを習得できれば、僕は冒険者としてまた一歩強くいなる筈なんだ。だから体の動きを確かめながら何度も何度を剣を振るう。


剣が空気を斬り裂く不細工な音が波の音にかき消される中、僕は沢山の汗をかいていた。だが、一度として、体とアビリティは噛み合わない。それにむずがゆい思いをしながらも、僕は一心に剣を振るう。


だけど、どうしてもだめだった。

身体に集中すればアビリティがついてこず、アビリティに集中すれば、どうしても身体の動きが邪魔になってしまう。どちらかだけの方が、剣は早く鋭かった。


「はあ、はあ、はあ――」


 何度も剣を全力で振るったので、僕は思わず息が切れてしまったのでその場に座り込んでしまった。


「これじゃあ、駄目なんだよね」


 どうしてもうまく行かない現実に、僕は弱音を吐きながら空を見上げた。

 こんな時はどうしても空を見上げてしまう。

 そこには幾千もの星々が輝いていた。まん丸と大きな月に、空を縦断するような星の川、その他を覆い隠すように淡い星屑たちが輝いている。そんな僕の好きな星空は、故郷と同じ空だった。

 昔から、僕はこうやって星を眺める事が多かった。


「兄さんは相変わらず夜空が好きですね――」


 ランファの声が聞こえる方に僕は振りかった。


「こうやって夜に出かける事が多かったからね――」


 そこには、僕の妹であるランファがいた。

 彼女は夜の黒に負けないほど白かった。艶やかな白髪が星の光によって照らされているようで、島にいた頃と同じように星空の下で微笑んでいた。


「昔はよく遊んでくれましたもんね」


「ランファとは、夜にしか遊べないからね。おかげで夜目が育った」


「だからかくれんぼをしても、兄さんは私をすぐに見つけるから拗ねちゃう事も多かったです」


「夜のランファは綺麗で目立つからね」


 ランファは僕の言葉に目を点にして驚いてから、嬉しそうに笑った。


「そう言ってくれるのは兄さんだけです」


「そうかな? 父さんもよく言ってなかった?」


 僕の大きな父は妹のランファにデレデレなのだ。


「父さんは可愛いって言うのですよ」


「そう言えばそうだったね」


 僕たちはそんな風に夜の下で慣れた会話を交わした。

 ランファと話すのは、昔から夜が多かった。


「それで、兄さんはここで冒険者の訓練をしていたのですか?」


 ランファが僕の隣にしゃがむ。


「そうだよ。起こしちゃった?」


「いえ、起きていたからいいのです」


「そっか」


「その訓練は剣を振るう事ですか?」


「そうだよ」


「光を剣につけて?」


「それが僕のアビリティだからね」


「是非見てみたいです!」


 ランファのキラキラとした星のような赤い目に、僕はやれやれと微笑みながら「いいよ」と言った。

 こんな風に僕のアビリティを見せるのも初めてだったからね。


「これが僕のアビリティ――『空の剣アーカーシャ・カタール』さ」


 僕は持っている剣に光を纏わせた。まだまだ淡く、弱い光だ。それを県全体に馴染ませると、僕は持っていた手を離す。

 だけど、剣は地面に落ちる事はない。浮かんだままだ。


「それが兄さんのアビリティなのですか? 凄いです!」


「そうだよ。剣を自由に扱えるんだ!」


 真っすぐな瞳で褒めてくれるランファに照れくさくなりながらも、僕はアビリティを続ける。

 剣を人形のように自由に躍らせるんだ。振るうわけじゃないから遅くてもいい。暗闇でぼんやりと光る剣を空中で楽しそうに動かすのだ。それだけではなく、念のため予備に持ってきた剣も触れてアビリティを発動する。これで僕が動かせる最大の本数である四本を躍らせるのだ。


「兄さんのアビリティはとても楽しそうですね」

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