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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第三十四話 ハト・デンテ

 その日、『ブロート』のパーティーメンバーは、いつものお店に集まっていた。今日はカフェでの利用だ。六人揃ってコーヒーを飲んでいる。ちなみに僕は砂糖とミルクをたっぷりと入れているけれど、エンリケさんはブラックで飲んでいた。


 港町であるミラにおいて、コーヒーは海の向こうの温かい地域から船によって輸入される。多少高価ながらも他の町に比べれば安く手に入りやすいので、ポピュラーに飲まれている飲み物だ。


「私は甘い方が好きです!」


 ギフト使いなのでいつも後方にいるリーリオさんはテーブルの中央にあるガラスのポットに入った砂糖をたっぷりと入れていた。どうやらこのお店は高価な砂糖を自由に使っていいらしい。なんて太っ腹なんだろうか。砂糖って、南国の方で手に入るから安いものじゃないのに。


「お子ちゃまだなー、リーリオは」


「じゃあ、スティファーさんは大人なんですか?」


「大人だよー、ほら、ミルクも砂糖も一杯ずつだから!」


 スティファーさんは平べったい胸を張った。なのに顔はいつも通り感情の読めない表情をしていた。


「スティファーさんも入れているから一緒ですよ! ほら、大人というのは、ベンハミンさんのように苦いままで飲む人を言うんですよ!」


「ふん――」


 ベンハミンさんは鼻で笑った。


「そう言えば、ティエ君も沢山いれているよ」


「ええっ!?」


 エンリケさんはいたずらな笑みを浮かべたまま、僕のコーヒーを指差した。確かにリーリエさんのようにたっぷりと入れているけど。


「ティエ君は私と同じですね! 甘いの好きです!」


「……そうなのかな?」


 苦いのは飲めないけど。


「ティエもまだまだ子供だな」


「あはは」


 スティファーさんから鼻で笑われたけど、不思議と悪い気はしなかった。それは表情は薄かったけど、温かく微笑んでいたからだと思う。


「ソウ思エバ、ティエハ卵ヲ食ベレルノカ?」


 エドワードさんは目の前にある卵サンドを指差しながら言った。

 それはとても美味しそうであった。白いパンに潰した卵を挟んだ食べ物であるが、僕は殆ど食べた事はない。


「食べれますよ。あまり食べた事はないですけど」


 故郷の島にいた頃は、卵なんてほとんど食べる機会がなかった。島にも当然ながら食料の為に家畜用の鳥はいたが、その全てが島長の所有物であり、卵を手に入れられるのは年に数回である。

 その代わりに量で簡単に手に入る魚卵の方が食べる事が多かった。潰しても目玉焼きのようになることはないしとても塩っぽいけど。僕にとって卵と言えば、鶏卵ではなく魚卵なのだ。


「食ベテミロ。ココノ卵サンドハ美味シイゾ」


「ありがとうございます!」


 僕はエドワードさんから差し出され卵サンドを手に取った。白いパン生地はとてもふわふわで持つだけで折れそうだった。僕はそれを崩れないように優しく持って、口へと運んだ。唇で噛み切れるほど柔らかかった。卵はとても濃厚で、まろやかだった。噛み締める毎に濃厚な味わいが口の中に広がり、ほのかなぴりっとした胡椒の辛みが味を引き締めているのでとても美味しい。


「ドウダ?」


「美味しいです!」


 沢山食べたくなる。しかも卵サンドを食べている途中に飲むコーヒーが最高だ。卵サンドのうま味を包み込んで、より美味しく感じられる。


「モット食ベテイイゾ」


「え、いいんですか?」


「アア、ドウセココノゴ飯モエンリケノ奢リダロウカラナ」


「そのつもりだけど、食べすぎだった場合は別料金を貰うからな」


「エンリケハ手厳シイナ。ジャア、次ハツナサンド二シヨウカ。マダティエモ食ラレルヨナ?」


「全然大丈夫です!」


 昼食は家でランファと一緒にパンとチーズを食べたけど、お腹いっぱいまで食べたわけではない。朝からの漁業のバイトで疲れているのだ。

 どれだけ冒険者として活動しようと、未だに漁業のバイトを余裕でこなせる日は来ない。揺れる船の上での労働は、僕にとっては『ロシャ・フォルミガ』を倒すのと同じくらい苦労することだった。これを毎日行っている漁師の人は本当に凄いと思う。


 それからは他愛のない雑談が七人の中で行われた。僕はまだ『ブロート』に入ったばかりなので、遠慮してあまり話さなかったけど、どれも他愛のない会話であった。最近できた美味しいお店やそれぞれが行っているバイトの話。どうやらエンリケさんと一緒にバイトしている者もいるようだ。

 そして話も一段落落ち着いてきた時、エンリケさんが満を持して立ち上がって言った。


「さて、本題に入ろうか――」


 その言葉には確かに“熱”が籠っていた。


「そろそろだと私は思っているんだ!」


 エンリケさんは慣れた所作でティーカップをつまみ上げ、コーヒーを一口飲んで心を落ち着けてから言うが、どうやら興奮は隠しきれていないようだった。


「何がー?」


 スティファーさんがコーヒーをちびちびと飲みながら聞いた。


「新しいモンスターへの挑戦だ! そろそろ『ロシャ・フォルミガ』を狩るのも飽きてきただろう? 私は飽きていたところだ――」


 冒険者とは、冒険を行うから冒険者と言われている。

 その冒険とは、僕は挑戦の事だと思っている。新しい事に挑むと言う冒険をするからこそ、冒険者はより高みに行けると信じている。


「――でも、そういきなり強いモンスターに挑むのは気が引けるとは思わないかい? 私たちは『ロシャ・フォルミガ』をそれなりに倒せるほど成長したけど、『ブロート』はまだまだ弱い! だから、いいモンスターを私は探し出した! それが、『ハト・デンテ』だ!」


 エンリケさんは強く言った。

 『ハト・デンテ』というモンスターを当然ながら僕は聞いた事があった。『トロ』で冒険者を学んだ者なら、一度は耳にする名前である。

 それは『ロシャ・フォルミガ』と並んで、初心者御用達のモンスターである。


 『ハト・デンテ』はネズミによく似たモンスターとされているが、その大きさは『ロシャ・フォルミガ』と同じようにやはり大きい。80センチほどだ。人よりかは小さいが、やはり鋭い牙を持っているモンスターなので一般人には危険なモンスターであるとされている。

 最も、一般人とモンスターが戦う事はないけど。


「イツ狩ルンダ?」


「明日だ。明日の冒険は、私たちにとって大きな意味となる! さあ、より冒険者としての高みを目指すために、新しい冒険をしよう!」


 エンリケさんは拳を突き上げて、強く宣言した。

 その言葉に、僕の胸も熱く高鳴った。


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