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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第三十二話 アビリティ

「どういう……意味ですか? アビリティの力は常に全開ですけど」


 僕がいつも使っている『空の剣アーカーシャ・カタール』は、常に全力だった。プリムラさんとの訓練の結果、アビリティが目覚めた時と比べると剣のスピードは多少マシになったかも知れないけど、それでもエンリケさんの『ラミナ』と比べると随分と落ちる。


「それは知っているよ。ティエ君のアビリティの詳細は聞いているからね。でも、そうじゃない。ティエ君が自分の腕で振っている剣に、アビリティを乗せたらもっと威力が上がるんじゃないかな? って前から思っていたんだよ」


「それは試しましたよ。でも、どうにもうまく行かないんです。アビリティが先行すると腕が引っ張られるし、剣の振りを意識するとアビリティが固まって振りを邪魔するんですよ」


 だから僕は自分で振るう剣をアビリティで使う剣の基本としているが、アビリティは使っていない。同じ動きをしていながらも、頭の使っている個所は違うのである。まるで左手と右手でそれぞれ同じ文字を同時に描いているような感覚である。


「それはきっと鍛錬不足だね」


「鍛錬……不足ですか?」


「ああ、そうだ。ちょっと訓練場にでも行こうか」


 それから暫く歩いてダンジョンの中に入り、見慣れた訓練場に僕らは辿りついた。やはり訓練している冒険者など一人もいなかった。ある程度のレベルまで上がれば、空に振るうのではなく弱いモンスター相手に力を試すのである。


「ティエ君、これを――」


 エンリケさんは僕へと木剣を投げ渡した。訓練場に落ちていた只の木剣である。だけど、他にもぼろぼろな木剣はたくさん落ちているというのに、エンリケさんは一本以外僕には渡さなかった。


「アビリティと共に振るんですか?」


 僕の問いにエンリケさんは頷いた。

 エンリケさんの言う通りに僕は『空の剣アーカーシャ・カタール』を持っている剣に纏わせる。光の粒子が剣に張り付く。そのどれもが弱々しい光だけど、これがないと僕のアビリティは発動しない。

 僕は息を整えた。手の中で剣が遊ぶ。僕の意識に反応して剣が動くのだ。僕は二つを連動させるように剣を振り上げた。

 そして、全力で振り下ろす。


「はっ!」


 だけど、僕の剣は普通に斬った時よりも遅かった。頭の中で描く剣の動きと体の動きが全く違い、剣は振っている途中で不自然に二度ほど止まりながら下へと振り下ろしたのだ。


「遅いね」


 そんな僕の剣を見て、エンリケさんは優し気に微笑んだ。


「だから言ったでしょう? それぞれで操った方が僕は強いんですよ」


 強いと言っても、マイナスがゼロに戻るだけで冒険者としては最底辺かも知れないけど。


「いや、そうじゃないよ。剣が止まる、って言う事はアビリティと剣を振るう事が上手く接続していない証さ。練習すれば君の振るう剣にきっとアビリティの力が乗せられる――」


「どういうことですか?」


「試しに私のアビリティを見てみようか。『ラミナ』ということは知っていると思うけど、最初は今よりも弱いアビリティだったんだ。見てて」


 エンリケさんがアビリティを使う。剣が鈍色に光る。だけど普段のエンリケさんのアビリティとは違って剣の刃ではなく、刀身全てが鈍色に光っていた。


「これだとね、何も斬れないんだよ」


 その辺りにある棒をもう一方の手で持ち、空中へと放り投げる。そのままアビリティを施した木剣で殴るけど、その棒は当たるだけで切れやしなかった。


「え、どうしてですか?」


 エンリケさんのアビリティは以前に受けた説明では、とても単純で使いやすいアビリティだったという記憶がある。それは切れ味を上げるというもので、僕が羨む剣の威力を上げるようなアビリティだ。


 だけど、以前に迷宮内でいつも使う時よりも強く光り輝いていている筈なのに、威力は下がっているみたいだ。不思議だった。何故、このような結果になるのかが僕には分からなかった。


「簡単だよ。私のアビリティはね、“切れ味を上げる”アビリティなんだ。決して剣の速さを上げるアビリティじゃない。だからこの使い方は無駄なんだよ。よーく見てみて。これだと刃にアビリティがのっていないだろう?」


 僕はエンリケさんの剣に顔を近づけて見た。じっくり目を凝らすと、確かに刀身は強く輝いているけど、刃には光が乗っていない。エンリケさんが言うにはこれが斬れない理由らしい。


「本当にないですね」


「これを、刃のみに力を乗るようにする」


 エンリケさんの剣の輝きが変化する。刀身に乗っていた光が刃のみに移動する。輝きはさっきよりも弱いかも知れないけど、僕にはなぜかその件の姿が力強いように感じていた。

 エンリケさんが僕に落ちている木の棒を投げるように言ったので、斬りやすいように力を調整してエンリケさんの前に投げた。

 エンリケさんの剣が煌めく。木の棒は剣によって弾かれる事はなく、すとんと二つに分かれて地面に落ちた。僕が普段からよく見ているエンリケさんの剣であった。


「やっぱり凄いですね! エンリケさんのアビリティは!」


 僕にはできない剣なので、やはり『ラミナ』のようなアビリティには憧れがあった。


「そうかい? 私にはすぐにティエ君も同じことが出来るようになると思うけどね」


「そうですか?」


「そうだよ。私も最初はアビリティが上手く扱えなかったんだ――」


 ――エンリケさんがアビリティに目覚めたのはどうやら一年ほど前の事らしい。

 当時のエンリケさんは僕と同じセウの徒弟制度を利用していたんだけど、やはりアビリティに目覚めた事で卒業条件を満たした。だけど、目覚めたアビリティは悲惨なものであった。

 冒険者が望むアビリティは単純だ。強くて、使いやすいアビリティを望む。使いにくくても、とても強力なアビリティならパーティーにひっきりなしに誘われる。

 それら以外のアビリティを持っていないのなら、特殊なアビリティが冒険者には人気だ。

 例えば――収容系のアビリティである。目覚める人物は少ないが、手に入れられば誰もが欲しがるアビリティである。それは多数の荷物を異空間に入れる事が出来る。

 そうじゃないアビリティなら僕のように誰からも望まれないのである。当時のエンリケさんも似たような立場だったようだ。僕と同じように教官からは冒険者を諦める事も進められたらしい。


 だけど、エンリケさんは諦めなかった。幼少期に冒険者の師事を受けた事があって、その時に受けた言葉を指針にしているらしい。

 それが――アビリティは冒険者の“可能性”だ。その強さに関わらず、希望を持って接してみると世界が変わるよ。と言われららしい。


 エンリケさんはその言葉を胸にアビリティの可能性を探した。それが切れ味だったようだ。他の冒険者のように剣を包みこむのではなく、刃のみにアビリティを集中した。その結果、切れ味というアビリティの本来の使い方を知ったみたいだ。


「だから私は、どのようなアビリティでもモンスターと戦える要素があると思っている。私だってそうだったし、他の冒険者だってきっとそうだ――」


 それが、エンリケさんの指針だそうだ。

 今の『ブロート』もそんな思いから使ったらしい。集めたメンバーは一般的には使えないアビリティ、とされたメンバーばかりなのだ。もしかしたらエンリケさんに誘われなかったら冒険者を引退していたメンバーも多いらしい。


「――ティエ君、私の見立てなら、君のアビリティはきっと君の振るう剣にも力を与えてくれる。そうなれば、君はもっと強くなれる筈だ。だって、君のアビリティは剣を自由にするアビリティだろう? それが君が振るう剣だけ不自由なのはおかしいと思うんだ」


「…………分かりました。そうなるためにはどうすればいいんですか?」


 エンリケさんの言いたいことはよく分かった。

 だけど、そこに至るまでにどうすればいいかが分からない。


「単純だよ。訓練だね」


 エンリケさんはこれしかない、と強く断言した。


「え?」


 僕は呆気に取られてしまった。

 そんな単純な答えだとは思わなかったのだ。


「私の『ラミナ』も努力することでしか強くならなかったからね。それでも才能ある冒険者と比べると酷く弱いけど」


 エンリケさんは自嘲しながら言った。


「……でも、エンリケさんは強くなったんですよね?」


「そうだよ。以前よりも強くなった。だからティエ君もそうなると思う――」


 頑張るんだよ、とエンリケさんは僕の肩を優しく叩いた。

 僕の胸がすっと温かくなる。これはプリムラさんの言葉の時にも感じた事だ。誰かに後を押されるとこんなにも力が湧いてくるなんて、昔の僕には全く感じなかったことだった。


「分かりました! 頑張ります!」


 僕はエンリケさんの期待に応えるように強く言った。

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