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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第二十九話 打ち上げ

「かんぱーーい!」


 エンリケンさんの掛け声によって、僕たち『ブロート』は全員でグラスをぶつけあった。

 といっても、誰もアルコールを飲める年齢ではないので水か果実を絞ったジュースである。僕は甘い柑橘系の果実を絞ったジュースを飲んでいた。とても美味しいのだが、普段飲みするにはとても高すぎる飲み物だった。


 本日、『ロシャ・フォルミガ』を四体を倒した後に宴会に選んだのは、『ブロート』がいつも通っていた酒屋だった。

 といっても、普段から『ブロート』が通っていたわけではない。初めてモンスターを倒した時や新しいメンバーを加入した時のお祝いとして、利用することが多い酒屋で名前を――アヴェンテュラという。冒険者に利用されることが多い酒場なので、“冒険”という名前をつけた酒場だった。


 周りでは、『ブロート』よりも明らかに上位と思われるパーティーが幾つもメンバー同士でテーブルについて、冒険について話し合っている。新しいはぐれについての話や、中層や深層での冒険についてだ。どうやらこの場にいる冒険者は中流からベテランが多いようだ。


 そんな中でこの店を最初に選んだのはエンリケさんのようだ。

 このお店をよく使っている理由としては、エンリケさん曰く「馴染みのお店だからね」という事らしい。

 僕は知らなかったのだが、ここはエンリケさんはどうやら商人で稼いでいる親の元で教わった店の一つらしい。


「このもも肉を食べますか?」


 このお店の名物料理であるシュラスコが若い女性の給仕によって運ばれてきた。それは一つの串に大きな肉が刺されており、それをナイフで切り分けて客に提供するスタイルなのである。


「全員にお願いします。特にぶ厚めで」


 エンリケさんが可愛らしい顔をした女性の給仕に頼んだ。


「かしこまりました」


 給仕は全員の皿の上に分厚い肉をナイフで切り分けていく。特に大きい体のエドワードさんは二枚も皿の上に入れてもらっていた。僕は少し遠慮して、一枚である。

 あぶらがきらきらとした見るからに美味しそうなお肉が僕のお皿の上に置かれた。


「今日は私のおごりだからね! 皆、次の冒険に備えよう!」


 どう考えても安くはない酒屋の筈だが、どうやらここはエンリケさんが全て奢ってくれるようだ。

 いつも思うのだけど、冒険者としての稼ぎは殆ど無い筈なのに、このお金がどこから出てくるのか不思議である。


 僕たちはエンリケさんの声と共に、目の前のお肉にかぶりついた。特に僕はテーブルマナーなんてあまり知らないけど、フォークとナイフを使う事だけは親から教わったので苦戦しながらも食べていく。

 ふと横を見るとエドワードさんはフォークだけを使って豪快に肉へと被りついていた。それを見たエンリケさんは「いい食べっぷりだ!」と笑っている。どうやらあまり気を使わなくてもいい場らしい。


 それからも僕たちは黙々と食べ進めていく。

 次は肩肉が運ばれてきたので全員がお皿の上に乗せてもらった。他にもサラダやパン、また別のお肉など次々と料理が運ばれてくる。食べ盛りの僕たちはどれも頂くので、すぐに机の上は埋め尽くされた。


「どうだい、ティエ君、ここのお店は美味しいかい?」


 僕が大きく切り分けてもらったお肉にニンニクの効いたソースをかけてから食べていると、ふとエンリケさんに話しかけられた。


「美味しいです! 今までで食べた料理の中でとっても!」


「おお! それはよかった! ここのシェフもきっと喜ぶと思うよ! 今日の勝利はティエ君の賜物だからね!」


「いえいえ、そんな事はないですよ! エンリケさん達の実力があってこそです!」


「いやいや、そんなことはないよ。私達は……出来た冒険者じゃないからね」


 エンリケさんは苦笑しながら言った。

 ゴブレットに入ったグレープフルーツジュースを一気に飲んだのか、酸っぱかったのか顔をしかめた。


「どういうことですか?」


 僕は首を捻った。


「だって、ほら、私なんて弱いだろう?」


「……そうですか?」


「ああ、そうさ。もっと強い冒険者なんていくらでもいる。それこそ徒弟制度を卒業して、アビリティを手に入れたばかりの冒険者でもね」


 エンリケさんは自嘲していた。

 確かに、そうかもしれない、と思ってしまう僕がそこにはいた。

 僕だって、最初は手に入れたアビリティが弱かったから冒険者を諦めそうになった一人なのだから。


「エンリケの言う事は一理ある。オレも人の事は言えないが――」


「確かにそうだね。私みたいなアビリティは冒険者の中に数多くいる。でも。『ラミナ』のように、『ロシャ・フォルミガ』の装甲すら斬り裂けないアビリティの冒険者なんて誰も求めていないんだよ――」


 エンリケさんは悲しそうに語ってくれた。


「そうですか……」


「これでも私は商家の出でね、一人息子だったから跡継ぎを期待されていたんだけど、何故か絵本の英雄に憧れてね、家を飛び出したドラ息子なんだ。私自身夢を持っていたから冒険者を頑張っているんだけど、まさかアビリティにも見放されるとは……」


 エンリケさんは半分嗤いながら語っていた。


「でも、だからこそ私も拾ってもらえたっていうかー、このパーティーの人って基本的に全員半端って言うか、弱いからねー」


 スティファーさんはつまんなそうに肉を大きな口でがっついていると、大きな胸に肉のたれが落ちたので手元にあるナフキンで拭いていた。

 その言葉に、他のメンバーもうんうんと頷いていた。


「あ、そしたらエンリケさんのパーティーを作るまでのお話をしたらどうですか? ティエさんにも知ってもらういい機会だとは思いませんか?」


「よし、そうだね! じゃあ、私のつまらない話でもしようか」


 リーリオさんの提案で、エンリケさんのパーティー制作秘話が簡単に説明される。

 どうやら、エンリケさんはアビリティが覚醒した後に、元々徒弟制度の時に約束をしていた冒険者達とパーティーを組もうと思ったのだが、彼らは素晴らしいアビリティに目覚めたようですぐに別のパーティーにスカウトされてその話は無くなったらしい。

 それから新しいパーティーを組もうと冒険者を探したが、もう誰もがパーティーを組んでいたのであまり物ばかりで『ブロート』を作ったようだ。そして新しく冒険者を始めた者達の中にはやはりその過酷さに辞める者も多かったので、新しいメンバーを募集しても集まるのは誰からも必要とされていない落第者ばかりだったようだ。

 最後に抜けたメンバーは最初こそ弱いと思われていたアビリティの持ち主だったけど、どうやら使い方が間違っていたようでそれをエンリケさんが指摘するとすぐに成長してより上のパーティーへと出世したようだ。


「だからね、ティエ君、君以外のパーティーメンバーは全員落ちこぼれだね!」


 エンリケさんは快活に言った。


「いや、僕だって、強くはないですよ……」


 でも、僕だってきっと『ブロート』の皆と同じなのだ。


「そうなのかい? 一人でロシャ・フォルミガを倒せる前途有望な冒険者だと思うけどね」


「それは……! 頑張ったからですよ……」


 二年ほどの間、絶え間なく修業したからである。その間は迷宮内でアビリティを使う事はあっても、冒険することはなかった。

 ずっと鍛えてやっとの思いでロシャ・フォルミガを倒したのである。有望な冒険者だったらアビリティに目覚めたその日にロシャ・フォルミガ程度倒しているだろう。


「……君はそう思っていないかも知れないが、君は『ブロート』の期待の星なんだ! 君のおかげで今日の冒険も成功したしね! これからもよろしく頼むよ!」


 僕はテーブルから身を乗り出したエンリケさんから握手を求められた。その手は以前よりも強く、そして期待のようなものを感じていた。

 そして、僕が食べ過ぎて眠くなった頃にも仲間達が話していたが、あまりよくは覚えていなかった。


「……この子のおかげで……もう少しで暫くは……いい生活が……」


「……次の標的は…………簡単……そうだね……」


「エンリケも……新……狩りなんて……」


「相変わらず……悪いことを……考える…………」


 そしてこれは目が覚めた時の話だけど、どうやら僕は仲間に抱えられて家まで帰ったようである。


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