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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第二十一話 ステラ

 この日の僕の一日は、プリムラさんとの訓練から始まった。

 いつものようにプリムラさんと“試合”をするのである。

 と言っても、実はプリムラさんと久しぶりだ。この間まで僕が入院していたと言うのも理由の一つだが、どうやらプリムラさんが忙しかったらしい。


 僕たちが潜る迷宮『ミラ』の深層まで“遠征”に出かけていたようだ。

 遠征とは、日帰りの筈の迷宮探索を、何日にもかけて行うことである。

人は眠らなくてはならないので、迷宮で一晩を明かすのだが、誰かが常に寝ずの番をしなければならず、遠征は非常に難易度が高い冒険となっている。それこそ、熟練の冒険者しか行わないだろう。


 だけど、僕の目の前に立つプリムラさんに疲れた様子は見えない。

 一日ゆっくりと休息したから、と言っていたけど、数日にも渡る冒険の疲れがまさか一日でとれるとは到底思えなかった。


 無理をしているのか、それとも隠す技術が上手いのか、もしくは本当に体を回復させる方法があるのか、どれが真実なのかは僕には分からない。

 ただ一つ、分かることと言えば、目の前にいるプリムラさんはいつものように“強い”ということだ。


「いつでもかかって来ていいよ。いつも通り、私は“アビリティを使わない”から。でも、ティエ君は好きに使ってね――」


迷宮『ミラ』の中にある誰もいない訓練場で、プリムラさんは僕の目の前で木剣を握ってそんな風に笑っていた。

いつものように美しいプリムラさんだけど、やはりこうやって戦うとなると怖さを感じる。

これが冒険者なのだろうか、と僕は思った。


多くのモンスターを殺して流した血が、プリムラさんを強くさせている。

僕もいずれは彼女の様な強さに届くことはできるのだろうか、と焦る程プリムラさんは強かった。


「今日こそ怪我させてあげますよ」


 だからこそ僕は、威勢を張るように言った。


「ふふん! それは楽しみだね!」


 僕はそんなプリムラさんに不意打ちとばかりに背後から浮いている剣を落とした。


「いい一撃だね!」


 だけど、まるで後ろにも目があるかのようなプリムラさんは、簡単にその剣を持っている木刀で防ぐ。


「はあああ!」


 その間にプリムラさんに距離を詰めて、上から剣を振り下ろした。


「……これはまあまあだね」


 だけど、構えもしていないプリムラさんの細腕に、僕の全体重を乗せた剣までも簡単に防がれてしまった。

 理由は簡単だ。


 ――ステラだ。

 プリムラさんは体の中を巡る熱を集めて、身体強化を行ったのである。僕も少しは使えるけれど、少し使えば体が動けなくなるから基本的には使わない事を推奨されている。


「これは、そこそこだね――」


「ならこれはどうですか!」


 僕は四方八方から次々と剣を振るった。

 どれも『空の剣アーカーシャ・カタール』で浮かした剣だ。僕はそこに人がいることをイメージして、弧を描くかのように剣を振るう。


「前よりもバリエーションが増えたかな? 多彩になったね!」


 プリムラさんは次々とその剣を弾いて行く。

 その動きは滑らかで、力強い。

 弾かれても何度も迫り来る僕の剣を、次々と飛ばしていく。

 だけど、それはあくまで僕にとっては“牽制”でしかない。本命は僕が持っている剣だ。現状、僕が自分で振るう剣が一番強いのである。


「そろそろいい頃かも知れないね!」


「何がですか!」


 僕は何度もプリムラさんと剣をぶつけ合うけど、やはりその剣は重かった。僕よりも細腕であるはずなのに、まるで大木のような重さを感じる。きっとこれでも手加減しているのだろう、ということが分かった。


「――パーティーに入ることだよ!」


「パーティー、ですか?」


「うん! そうだよ! 君も知っているでしょ? 冒険者はパーティーを組んで初めて一人前だって!」


 そう言っているプリムラさんは実に嬉しそうだった。

 パーティー、その響きが僕にはとても懐かしかった。あの徒弟制度を卒業した時、同期で有望な冒険者の全てがどこかのパーティーに属していた。


 自分で作った者もいただろうが、彼らには仲間が集まったのだ。

 きっとあの頃の僕には仲間が集まらない。それほどの強さを僕は持っていなかった。


「今なら誰か組んでくれますか?」


「もちろんだよ! だって君は一人でロシャ・フォルミガを狩ったんだから! それどころか、セントペイアさえ倒したんだ! 本来なら初心者を脱した冒険者が集まったパーティーで、やっと一体のセントペイアを倒せるぐらいの強さなんだよ!」


 プリムラさんはそう言いながら、僕がロシャ・フォルミガを翻弄している剣を全て薙ぎ払って、最後に僕がセントペイアを倒した“微熱”を込め振るった剣でさえ上に弾いた。

 そして笑みを浮かべながらただの木刀を、僕の首筋に当てた。


「――参りました」


 この状態で悪あがきをしようとも思えない僕は、素直に負けを認めた。


「よろしい!」


 僕の首筋から剣を退けたプリムラさんは満足そうに微笑んだ。


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