第二十話 夢
「大丈夫だよ。こんな風に生きているからね」
「組合の人から連絡があったので、急いで来ました!」
目を潤ませて心配しているようなランファの頭を、僕は安心させるためにゆっくりと撫でる。
僕とは違ってさらさらとした白髪はシルクのような肌触りだった。
「心配かけて悪かったよ」
随分と前に迷宮の中で死にかけた時と違って、今回、ランファにまで連絡が行ったのはきっとプリムラさんが気を使ってくれたのだろう、と僕は思った。
もしかしたらこのような事を僕が二度としないように、プリムラさんなりの釘刺しなのかもしれない、と僕は思った。
「冒険者は危険な職業だと分かっていますけど、やはり心配です! 兄さん! 今からでも冒険者を辞めるという選択肢もありますよ!」
「残念ながら僕や辞める気はないからね。だって、これは僕の“夢”なんだから」
「そうですよね……私も“夢”があるので、兄さんが冒険者を続ける気持ちと同じですが、いつもこうやって傷つきながら頑張っていると思うと心配になります……」
ランファはしゅんと体が縮こまった。
そんなランファを安心させるように僕は言った。
「大丈夫だよ。僕は死なないから――」
「本当……ですか?」
「本当だよ。幼い頃に約束しただろう? 僕たちは共に夢を叶えるって」
「はい、言いました。その時は私は画家になって、兄さんは冒険者になるって」
ランファは幼き頃に二人で約束した夢を語る。
幼き頃、同じ家の中で、同じ本を持ち僕たちはそれぞれ“夢”を見た。
ランファは画家だった。
古びた本に描かれた表紙。
そこには青空の下で草原で佇む人が描かれていた。
そんな青空にランファは憧れたのだ。
外には出られないひ弱な体。太陽の日差しに弱く、少し当たるだけで肌が火傷し、目は明るすぎるせいでまともに開けることなどできない。
そんな中で、ランファは青い空を見ることも白い雲を見ることも、ましてや緑の草木を見ることも出来なかった。
ランファが見るのは漆黒の夜の世界。そこに色などはなかった。だからランファは自分で色をつけることを望んだ。外に出ることが出来なくても、色づいた絵を見ることで多くの色を見ようと思ったのだ。
そんな画家を、ランファは目指している。
そんなランファに対して、僕の夢は冒険者だった。
古びた本の物語に憧れたのだ。
それは英雄の物語。
冒険者を志し、迷宮に挑んだ冒険者が苦難の果てに、やがて英雄に至った物語だ。信頼できる仲間を見つめ、困難な敵に打ち勝ち、迷宮で秘宝を発見し、人から讃えられる。
そんな夢物語に僕は憧れた。
「でもね。ランファ。僕の夢は少し違うよ」
「そうなのですか? この前兄さんは夢がかなったって……」
「僕の夢は確かに冒険者だけど、その先があるだって――」
――僕の夢は冒険者になるのではなく、“英雄”になることなのだ。そして僕は全てを手に入れる。
名誉や名声、両手に抱えきれないほどの財宝、どんな病を治す特効薬も、誰も見たことのない新たな秘宝も、その全てが迷宮の中には存在するのだ。
その中でも、特にどうしても僕は欲しいものがあるのだ。
それが――ランファの為だった。
ランファの頭を僕は撫で続ける。
僕は――日の光の下に出られないランファの病を治したいのである。
幼き頃に見た英雄伝説でそんな逸話を目にした僕は、かっこいい英雄に憧れるのと共に、双子の妹であるランファの病を強く治したいと思ってしまったのだ。
このことはランファには告げていない。
だけど、病気が治ればもっと日の下で絵を描くことができ、ランファの夢もより叶えられると僕は思う。
だから――僕は英雄になりたい。こんなにも弱い僕でも、きっと諦めなければなれると思っているから、そうプリムラさんに勇気づけられたから、例え命を削るような戦いでも、僕はこの道を進み続けるだろう。
果てしなく長い、この道を――。
綺麗に纏まっていますがまだ続けようと思います。




