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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第十八話 秘宝

 パーティー『アルタイル』での冒険を終えたプリムラは、疲れたようにミラで帰路を目指していた。

 近くに仲間は狼のような女しかいない。先日に会っていた女である。


 他の仲間達はアウトブレイクが発生した場所に置いてきたのだ。その事後処理がまだ残っているのである。


 モンスターの死体からカルヴァオンをはぎ取る作業と、他の多くの冒険者と共にモンスターの死体の処理。数体なら問題が無いモンスターの死体も、数多く集まれば深層に住むような巨大モンスターを呼ぶことがある。

 そうなると、中層の冒険者が死ぬことになるかもしれないので、冒険者組合が死体の処理まで頼んだのだ。


 もちろん、その分の報酬は出ている。

 だが、プリムラはアビリティの特性から、死体処理などにあまり使えない為早めに帰宅したのだ。

 隣の仲間である狼のような女――ミカミカも同じ理由である。


「はあ、疲れたわ。まさかアウトブレイクが起こるなんて。最近は多いのね。対して強くはないけど、数が多いから肩がこる」


「プリムラも年を取ったものね」


「うるさい。私はまだまだ若いわよ。まだまだ十代だし」


「若い燕を育てようとしているのは、どう考えても老けていると思うけど」


 ミカは、「あんたなら男はよりどり緑なのにどうしてあんな青い果実を選ぶのだか」と不思議そうだった。

 年齢を聞けばまだティエは、十五ほどだという。プリムラと比べれば、三つほどの差があるのだ。


「未熟な原石にはそれだけの価値があるのよ。それに私にそんなつもりはないわ」


 プリムラは恥ずかしそうに言った。


「そうなの? 私には分からないもの。まあ三つ程度だったら、そんなに気にもならない年齢だとは思うけどね」


「……全く大きなお世話だわ。私は強くなりたい、というティエ君のお手伝いをしたいだけ。それ以上でもそれ以下でもないの!」


 プリムラは強く断言する。

 “そんなつもり”など全くないのだ。プリムラは全くティエのことをそのような対象として見ていない。


「まあ、私にはどっちでもいいけど。あ、そんな話をしていると、ティエ君を見つけたわ。あれ、ティエ君じゃない? セントペイアに襲われている冒険者。あのローブはかつてあんたが使っていたものでしょ? あんな風に戦っていないとよく見えないけど」


 目を凝らしたミカは、遠くに見知ったローブを見つけた。

 数多くの剣が煌めき踊っている中に、背景に溶け込むように戦っている冒険者がいた。

 特注品であるそのローブは、『暗者の外套』と呼ばれる物であり――この迷宮『ミラ』で見つけた特殊な物だ。


 迷宮では、時々――秘宝が見つかる。それは千差万別であり同じものは存在しない。だが、一つだけ共通点があって、“特殊な能力”を秘めている物が多いのだ。それは決して地上では作ることが出来ないとされている。


『暗者の外套』の効果は、その秘匿性である。着ている者は認識阻害の影響を受けて周りからは見えにくい、とされている。

 完璧に姿を消すわけではないため、派手に戦えば当然見つかるが、モンスターから逃げるには十分な装備である。


「あ、本当ね。ティエ君よ――」


「あんた、愛しているわねえ。あのマントは防御力も高くて、逃げ切るのも楽になる。生き延びることだけ考えれば、最良の装備。わざわざあんなものを渡すなんて……」


 迷宮で見つかる特殊な効果を秘めた装備は、一点物の為、当然ながら高値がつく。物によっては一生遊べるほどの価値がつくものも多い。

『暗者の外套』もその一つだ。

知っている者なら喉から手が出る程欲しい代物だ。


「ティエ君はまだ仲間がいないから。一人で潜ろうと思えば、あれぐらい持っていないとどこかで死んじゃうかも知れないでしょ? 今だって、格上のセントペイアに挑んでいる――」


 プリムラは“自分の言いつけを無視”して、セントペイアと戦っている事に歓喜するように嗤っていた。

 嬉しかったのだ。

 格上に挑むと言う無茶をし、英雄への階段を上がっているティエの姿を見ると、自分のことのようについ喜んでしまう。


「一応聞くけど、あのマントの効能は教えているの?」


「教えてないわ。教えたら、いつでも逃げ切ると逃げ癖がつくかもしれないから」


 プリムラは首を横に振った。


「じゃあ、助けに行く? あのままだと勝てないと思う。プリムラの大切なティエ君が食べられちゃうわよ?」


「助ける気なんてない。あのまま必死に戦った結果が、ティエ君の現状。それを本人も知るべき。それに――」


「それに?」


「治療は出来るから、もっと傷ついて、もっとぐちゃぐちゃになるほど頑張らないと、ティエ君は駄目だと思うの。だって、ティエ君は――英雄を目指している。それは私すらも辿り着いていない頂き。そこに至ろうと思えば、常人の感覚じゃあきっと辿り着けない、と私は思うから」


「……あんた、愛が重いわね」


 ミカは呆れたように言った。

 何故なら敗勢のティエの戦いを見るプリムラの目が、星の様に輝いていたからだ。


 本気で、この女はあの見るからに才能のない少年を、英雄に仕立て上げようとしているのだ。

その道がどれほど過酷なのか、ミカには分からない。

何故なら才能のある冒険者でも辿り着けないのが、英雄なのだから。


「ティエ君、君はこの戦いをどう乗り越えるのかな?」


 プリムラは、ティエの輝きを楽しみにしている。


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