第十五話 ステラ
「そうですか!」
僕は息を整えながら言った。
彼女は僕の剣を払っている間にも、半歩、半歩と近づいてくる。その圧力が僕には恐ろしかった。
「うん! 随分と見違えた!」
「最初と比べてですか?」
「そうだよ! 最初と比べるとね。あの時はアビリティを使わなくても苦戦しなかったと思うの。これでも簡単に勝てた!」
プリムラさんは涼しい表情で剣を払い、その勢いでまた一歩僕に近づいてくる。
「そうなんですね!」
僕は言葉に力を入れてアビリティを使うが、その全てを弾かれる。まるで止まっている棒のように。
「でも、今はこうやって苦戦している! 君の成長だよ! モンスターと戦うためにより狡猾に、より鋭くなった! 剣の強さはそう大きくは変わっていないのにね!」
「ありがとうございます!」
「だから、そもそもいい時期かもしれないよ!」
この間にもプリムラさんは僕に近づいてくる。
あともう少ししか二人の間には距離がない。
僕はドキリとしてしまった。
「何がですか?」
僕は力強く剣を振るいながら言った。
「次の――挑戦だよ」
「次、ですか?」
「そうだよ。ティエ君は不思議に思わないの? 私がどうしてアビリティを使わなくても、アビリティを使うティエ君に勝てるのかって?」
プリムラさんのいうことに僕ははっとした
確かにそうだった。
アビリティは、モンスターと戦うために人が“進化”した結果であると言われている。本来ならアビリティを使う冒険者に、素の身体能力だけで挑むなんて無茶な事なのだ。
「それには何か秘密があるんですか?」
「あるんだよね、それが――」
意味深な顔で呟くプリムラさん。
「何なのですか?」
「ねえ、ティエ君はアビリティに目覚めた時のことを覚えている?」
「もちろん、覚えていますよ」
「どんな“感覚”だった?」
「体が発熱したような感覚でした」
全身にこれまで感じた事のないような“熱”が周り、息苦しくなったのだ。最初は風邪をひいたのでは、と勘違いしたが、どうやらそうではないようで、僕の周りに光の粒が浮かんだのだ。
アビリティの、兆しだ。
僕の中に眠るアビリティが覚醒し、光が発言したのである。その結果、僕は光を剣に纏わせることで浮かせられるのだ。
「その“熱”の感覚って今もある?」
「ありますよ。当時と比べると“微熱”のようなものですけど、アビリティを使う時には強く感じますから」
僕は淡々と言った。
剣を操る光を生み出す時に、僕の体には弱い“熱”が放出されるのだ。きっとこれがアビリティの源なのだと思う。
あまりよく分かっていないけど。
「その“熱”はどこから感じる?」
「いつもは手の平からです」
プリムラさんは僕のごつごつとした手を優しく握った。プリムラさんの白い手は柔らかく、温かかった。
「じゃあ、この手にあるその“熱”を意識して。アビリティを使う時のように放出はせずに、体に循環させるの――」
プリムラさんは僕の手から、体をなぞるように移動させる。腕をさすり、肩を通り、首を絞めるように包むが決して痛くはなかった。むしろ、くすぐったいぐらいだった。
それに体を巡る“微熱”を意識しているから、自然と体が熱くなってしまう。
変な気分になりそうだ。
目の前のプリムラさんは紅潮した顔で、僕の頬を撫でているし。
「できました」
そんなプリムラさんを意識しないように頑張りながら、僕は体を巡る“微熱”を意識する。
「それを手に集めてみて」
プリムラさんはもう一度僕の手を握った。まるで恋人がするみたいに指を絡めるのだ。
「しました」
僕はアビリティを使う時のように放出させるのではなく、右手にとどめる。まるでそれは右手だけが薄っすらと燃えているように熱かった。
「いい子ね――どう?」
その瞬間、プリムラさんは勢いよく僕の手を引っ張った。だけど、熱が籠っている僕の手はピクリともせずに動かない。まるでこれまでの僕ではない力が発揮されているようだった。
「何ですか、これ?」
「アビリティの“源”の使い方の一つだよ。私達はこれを――ステラと、言っているの。今回は身体強化ね。強い冒険者は自然に使っているけど、意識して使うとこのように“力”を増すことができる。まあ、限度はあるけどね――」
プリムラさんがふふっと笑うと、急に僕の体から熱が無くなって氷のように冷えるのだ。
そして僕の体からは力を失い、プリムラさんの豊かな胸に飛ぶこむこととなったけど、彼女はびくともせずに僕を抱きしめている。きっと先ほどの僕と同じように“熱”を使っているのかも知れない。
「……なるほど。だから、プリムラさんは……強いんですね」
プリムラさんはそんな僕をたくましい力で抱きしめたままだった。
「そうだよ。ふふっ、“力”を使ったから凄い疲労でしょ? この力は凄いんだけど、アビリティと同じで使いすぎるとすぐにばてちゃうんだ。あまり使わないように。君が死んじゃうと悲しいからさ――」
プリムラさんの優しい言葉と共に、僕の意識は無くなった。




