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美人な師匠の愛が重い  作者: 乙黒


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第十四話 成長

僕はあれから朝は漁船のアルバイトに出かけて、昼が過ぎてから迷宮に潜ってロシャ・フォルミガを一体だけ倒す日々が五日ほど続いた。

 今となっては一体のロシャ・フォルミガを倒すまでに小一時間もかからなかった。モンスターを殺すことに慣れたのだろう。


あれから僕の動きはどんどん最適化されていった。

空の剣アーカーシャ・カタール』を使って、モンスターの動きを止める。それから持っている剣で足を斬り、相手の戦力を削ぐ。それから動けなくなったロシャ・フォルミガへとどめを刺すのだ。


決して僕の剣が早くなったわけでも、切れ味が増したわけでもない。きっとアビリティに目覚めた時から僕の剣の威力は大して変わってないだろう。

 それでも動きに無駄が無くなり、戦い方を知ることでやっとモンスターにも勝てるようになった。

 ここまで育ててくれたことに本当にプリムラさんには感謝しかなかった。


 この日もロシャ・フォルミガとの戦いを終えて、たった一つだけの小さなカルヴァオンを得て帰路につく。

 だけどもうロシャ・フォルミガとの戦いにも慣れてきたので、最初は一体を倒すだけで満身創痍だった体力も少しは残せるようになってきた。

 だからこの日はかつての日を思い出すように、いつもの訓練場に行く。


 そこにはやはり誰もいなかった。

 ここで訓練する冒険者などほとんどいないのだ。

 きっとほとんどの冒険者はモンスターを倒すことに体力をほとんど使い、訓練など試したいことを一つ二つ行って終わるのだろう。


 でも、僕はぎりぎりまで体力を使う冒険などとてもじゃないが、怖くてできない。限界まで体力を使うのならやはり訓練だ。僕の力が伸びているかどうかは分からないけど、精いっぱいアビリティを使って体を動かすと心が満足するのだ。


 僕は日が暮れるまで訓練を行った。

 まるでロシャ・フォルミガに勝つ前の日のようだった。

 僕は持ってきた皮袋に入れた水で喉を潤してから草原に寝っ転がって休憩をする。


「――調子はどう?」


 目を瞑って少し寝ようかと思っていると、上から優しい言葉をかけられた。

 聞きなれたプリムラさんの声だ。


「順調です!」


 僕は起き上がって元気よく言った。


「あれからどれぐらいロシャ・フォルミガと戦ったの?」


「毎日一匹なので、六匹ですね」


「そうなんだ。それは順調だね。だって毎日戦っているんでしょ?」


「そうですね」


「休息日も設けていない、か。どう少しはしんどかったりする?」


 休息日とは、労働者が七日間に一度休む日の事だ。

 毎日営業している酒場の店主のように取らない人もいるけれど、冒険者は組合から休息日を取ることを推奨されている。それも一日ではなく、七日間のうちに二日だ。

 その理由としては、疲労から来る冒険のミスがまさしく命取りになるからだ。

 冒険者と言う職業は一歩間違えれば死に至る。

 組合としてはその数をできるだけ減らしたいようだ。


「いいえ、段々と慣れてきましたから、そんなにしんどくは……。今日なんて体力が有り余ったのでこうやって訓練していましたし」


「そう」


 プリムラさんは朗らかに笑った。


「プリムラさんはどうしてここに?」


「ちょっと私も訓練をしたくなったのよ」


「そうなんですか?」


「ええ。確かに冒険者が強くなるにはモンスターを殺すのが手っ取り早い。でもね、それだけではそれ以上、上にいけないところもあるのよ。私はそこも行きたいからこうして訓練をしようと思ったの――」


「なるほど」


 僕は感心するように売餡づいた。

 やはりプリムラさんは凄く尊敬できる冒険者だと。


「だからちょっと訓練に付き合ってくれる? 安心して。私はアビリティを使わないから。剣だけで。どこまでできるか、それを試したいの」


「いいですよ。僕でよければ」


 僕は立ち上がって木剣を探した。

 ここには誰かが使った木剣がいつも落ちているのだ。

すぐに見つけた。

二束三文ほどの誰かの使った新品同様の木剣だ。きっと名高い冒険者が一度か二度使って投げ捨てた者なのだろう。

 それは僕がいつも使っていたものじゃないけれど、訓練をするには十分だ。

 僕はそれを手に持った。


「ティエ君はアビリティを使っていいよ。モンスター相手を想定すると、それがちょうどいいハンデだと思うの」


「そうですか。分かりました。でも、負けても知りませんよ?」


 これまでの訓練でプリムラさんは、最低限のアビリティを使っていた。詳細はまだよく分かっていないけど、剣の速さと力を上げるアビリティである。

 プリムラさんの腕は細いのに、その力強さは僕の腕でもびくりともしなかったのをよく覚えている。


「それでもいいよ。多分、負けないと思うから」


 ニヤリとしながらプリムラさんは言った。


「じゃあ行きますよ――」


 僕は周りに手に持っている剣を正眼に構えたまま、三つの剣を周りに浮かした。

 けれどもそんな僕を見ても、プリムラさんは優し気に微笑んで剣を片手で持って、胸の前で水平に構えるだけだ。

 いや、それは構えるとも言えないのかもしれない。

 ただ胸の前で剣を持っているに等しいだろう。

 構え、としては隙もいいところだ。

 だが、実際にこうやって対峙してみると、全く隙は感じなかった。空気が違う。まるで歴戦のモンスターと出会ったかのようだ。


 僕は様子見として、三本の剣をプリムラさんに向けた。

 まるで僕が手で持っているかのように振るう。だが、それは全てプリムラさんの剣のよって払われた。たったの一振りで、だ。

 それからも僕はプリムラさんと一定の距離を保ったまま、剣を使い続けた。

 プリムラさんは剣を払いながら僕へ近づいてくるからだ。足取りは軽やかに。まるで舞踏会で踊っているようだ。


 首。

 胸。

 腹。

 などの弱点を狙うが、どちらも華麗に払われた。

 おかしい。

 僕はアビリティを使いながら一つだけ疑問が浮かんだ。

 確かに僕の『空の剣アーカーシャ・カタール』は、僕が実際に剣を振るうスピードと力しかないが、それでも普通の男性ほどの力なら持っている。これでも鍛えているのだ。

 これは前にプリムラさんが言っていた事だが、彼女の力自体は普通の女性よりも少し強い程度しかない筈だ。実際に腕相撲をしたこともあるが、その時は勝った。


 なのに、今の状況は違う。

 彼女の剣は重い。

 僕のアビリティで振るう剣は全て彼女に力負けしている。


 だから僕の剣は相手を一撃で仕留める動きから少しずつ変わっていく。相手を翻弄し、少しでも傷をつけるような動きへと。

 だが、それでもプリムラさんの一振りによって、僕の剣は一度に四本ともすべて払われた。

 しかし、僕も諦める事はない。払われたとしてもすぐに剣を立て直し、果敢にもプリムラさんを遠くから攻めていく。


「強くなったね!」


 プリムラさんは嬉しそうに言った。

 その間にも勿論、僕の剣は払っていた。

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