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召喚された司書の相談所〜偽装結婚ですが旦那様にひたすら尽くされています〜  作者: 有木珠乃
第1章 偽装夫婦の日常

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第9話 異世界での占い

「実はね、私、失恋したばかりなの」


 気恥ずかしそうに、ゆっくりと話すヘルガの姿を見て、「ほら、やっぱり言い辛い悩みじゃない」と内心グリフィスに文句を言った。


「ばかりってことは最近?」

「うん。しかも告白する前に失恋したから、ダメージは軽いんだけど……長いこと片思いをしていたから」

「そうだったんだ」


 この世界の図書館に勤め初めてから一カ月。前職が司書だったからといっても、なかなか馴染むことができなかった。それぞれ図書館によってやり方や方針が違う、というのもあるけれど、一番の悩みは取り扱う分野の違いだった。


 特に魔術に関する分野は、取り扱いには注意が必要だから、という理由で最初に説明を受けたのだ。それだけでもう、本当に別の世界なんだと思い知らされて、密かに落ち込んだものである。


 好きな本に囲まれているのに、毎日沈んだ気持ちで出勤していた私に対して、真っ先に話しかけてくれたのがヘルガだった。私がグリフィスの妻だから、気にかけてくれたんだろうとは思うけど、それがどれだけ有り難かったか計り知れない。


 でも、あれ? ヘルガの失恋は最近で、しかも告白する前だって言っていなかった? それってもしかして……。


 私は思わず顔を横に向けた。


「……先に言わせてもらいますが、私ではありませんよ」

「何も言っていないけど、心当たりでもあるの?」


 心を読まれたような気がして、少しだけ意地悪な返事をした。


 だって、あからさまに自意識過剰というか、自分の見た目に自信がなければ言えないセリフをサラッと言うんだもの。釈然としないというか、負けた気分というか。肯定したくない。


 すると急にグリフィスが顔を近づけてきた。


「該当する人物に心当たりがあるんです。しかもその人物の結婚には、私も一役買っていまして」

「え?」


 耳元で囁かれ、始めは恥ずかしかったけれど、最後の一言でギョッとなった。


「私たちの結婚のカモフラージュにさせてもらったんですよ」

「な、な、な」


 なんてことをー! とヘルガを前にして言えるわけはなく。私はグリフィスを睨みつけた。


「カモフラージュというのは、こちらの都合で。その人物には説明していません。あと、その人物はアゼリアも知っている人ですよ」

「ということは……」


 図書館に勤めている人か。あとで確認してみよう。今はヘルガの相談に集中しなくちゃね。


「ごめんね、ヘルガ。ちょっと邪推しちゃって……」

「あぁ、うん。大丈夫。アゼリアが勘違いするのも理解できるから。でも、好きだった人の奥さんにわざわざ近づくほど、性格は悪くないわよ」

「本当にごめんなさい」

「いいって。それよりも新しい恋の方を占ってほしいかな。いつまでも失恋を引きずりたくないのよ」


 グリフィスの話から推測すると、相手は図書館の人だものね。しかもヘルガは告白すらしていないというのだから、相手は遠慮なく幸せオーラを、周りに振りまいているに違いない。勿論、ヘルガに対しても。


 うん。これは確かに辛いよね。だけどすぐに、次の恋を見つけることなんてできるわけもない。私の占いを頼ってくれた意味が分かって、少しだけ安心した。


「腕前は素人だけど、ヘルガの力になれるように頑張るね」

「ありがとう。アゼリアのそういうところ、大好きよ」


 うふふっ、とヘルガと見つめ合っていると、「やはり同席していて良かったです」と横からため息とともに、そんな呟きが聞こえてきた。けれど私は聞こえない振りをして占いの準備に取り掛かった。


「あらっ、そのカード……」

「可愛いでしょう、猫のルノルマンカード。直感で選んだんだけど、この肌触りとか、本当に買っ――……」

「アゼリア。その話は……」

「あっ、ごめんなさい。つい」


 危ないところだった。このルノルマンカードはこの世界に来る前に購入したものだったから、どこで購入したとか、下手に追及されたら困ってしまう。


「占いに集中するわね」


 私は改めてルノルマンカードを手に持ち、裏面のまま敷物の上で円を描くように混ぜた。ルノルマンカードはタロットカードのように逆位置を読むカードではないのだけれど、やはりシャッフルをする、となると同じ方法を使用したくなってしまう。


 十分に混ぜたカードを一つにまとめ、今度は両手に包み込み「ヘルガの次の恋を教えてください」と告げ、裏面を軽く二回、ノックするように叩いた。


 そしてスプレットを展開といきたいところなのだが、まだまだシャッフルは終わっていない。敷物の上の後は、手元で再びシャッフルをする。シャッシャッとカードを切り終え、さらに三つ山を作り、入れ替える。手間はかかるけれど、よくカードをシャッフルをした方が、占う側も安心できるのだ。


「まずは九枚展開で、次の恋を聞いてみましょうか」


 私はカードを上から裏面のまま六枚取り除き、七枚目を敷物の上に置いていった。勿論、表面にして。


「一枚目は木、次は百合。庭。二段目が鳥、花束、棺。三段目は……淑女。これはヘルガ自身を表しているわ。それから指輪と最後に魚ね」


 この九枚展開で重要なのは、真ん中のキーカード。そこに祝福や幸福を表す花束が出ている。


「どうやら、ヘルガの次の恋は素敵なものになりそうよ」

「本当?」

「見て、真ん中に花束がある。右には棺が。九枚展開で左側は過去。真ん中が現在。右を未来と読むことができるの。そして棺は終わりを示している。悪いイメージかもしれないけれど、そのカードが未来にある、ということは新たな始まりを告げているのと同じことなのよ」


 まさに次の恋にピッタリのカードだった。


「しかも一段目は木と百合と庭がある。これは出会いの場所かもね。公園とか人が多く集まる場所がいいみたい」

「それは社交の場、とか?」

「庭はパーティーとかイベントとか、そういう意味があるから、社交の場でもアリだと思うわよ。木や百合が出ているから、自然のあるところかもしれないし」


 他の読み方もあるんだろうけれど、出会いの場に見えるのよね。


「次にヘルガを表している淑女を中心に見ると、上に鳥。右に指輪があるから、お相手との関係は、その先を期待してもいいかもしれない。最後に魚が出ているのが何よりの証拠だわ」

「どういうこと?」

「魚はね、豊かさの象徴なの。ルノルマンカードで金運を見る時に、よく使われるわ」

「金運!? つまりお金持ちってこと?」

「うーん。さすがにそこまでは……そうだ! お相手についてタロットカードに聞いてみましょうか」


 私はルノルマンカードと一緒に持って来た、タロットカードを取り出した。


「それ……」

「あ~。ウサギのタロットカードは……やっぱり珍しい?」

「うん。でも猫のルノルマンカードと同じで可愛いわね」

「でしょう!」


 これも一目惚れで買ったの、と言いたい気持ちをグッと堪え、ルノルマンカードと同じようにシャッフルをした。


「カードをたくさん出すと分かり辛いから、三枚引くわね」


 上から七枚目を引き。敷物の上に並べていく。


「『THE() MOON(ムーン)』(月)、ペンタクルのナイト、ソードのキング」


 人柄を聞いたから、三枚展開でも過去・現在・未来とは読まない。それをそのまま読むだけ。


「神秘的で、勤勉。ソードのキングは知性的、とも読めるけど、権力。社会的に地位がある人、とも読めるわ。だからお金持ち、という線も間違っていないかもね」


 ただ月は目に見えない、という意味もあるから難しいところだけど。今のヘルガに水を差すようなことは言いたくなかった。


「地位のある人なら、やっぱり社交の場かしら。パーティーであの男よりも素敵な人を見つけてやるんだから」

「うん。そうだね。頑張って」


 燃えるヘルガを前に、思わず棒読みになってしまった。けれどヘルガは気にならなかったらしく「あっ、グリフィスのことじゃないからね」とフォローまでしてきた。


 うん。これなら、次の恋も大丈夫そうで安心したわ。

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